ひきこもりの自立支援をうたう悪質な民間施設

2020年9月28日Slow News Report


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速水:Slow News Report 今日はフロントラインプレスの藤田和恵さんにお越しいただいています。今日伝えていただくテーマは「ひきこもりの自立支援をうたう悪質な民間施設」ということなんですが、これは別名引き出し業者または引き出し屋と呼ばれているそうですね。これはどういうものですか。

“引き出し屋”とは?

藤田:引き出し業者というのは、ひきこもり状態にある人を「我々の施設に預けてくれれば自立させます。就労させます」とうたいながら、実際には暴力的な手段で自宅や自室から無理やり連れ出す引き出して施設に入居させる悪質な民間業者の事です。

速水:親からお金をもらってやっている業者ということですね。

藤田:その通りです。親と契約しているというところが一つのポイントなんですね。施設といっても実際にはマンションの一室だったり民家だったりします。そこに連れ込まれると、多くの場合まず財布や携帯を没収されます。ひどい場合はそこで軟禁監禁状態に置かれて、暴力を振るわれたり食事を与えられなかったりするわけですね。それでも言うことを聞かないと、今度は精神科病院に強制的に入院させられたり、就労支援と称して最低賃金以下で働かされたり、そういったことがあります。

速水:財布や携帯を取り上げられるときに反発したりしないんでしょうか。

藤田:反発する人は時に暴力を振るわれたり、私が取材したケースでは長く監禁状態に置かれたあげく精神科病院に入れられちゃうんです。

速水:かなりひどい話ですね。人権が全く無視されているという気がしますね。

藤田:そうですね。私が取材した中では、いきなり午前中に見ず知らずの男性二人が自室に入ってきて、両手両足を掴まれて、これは実際に被害にあった女性の表現なんですけど、まるで豚の丸焼きのような宙吊り状態で自室から引き出される。そしてそのまま車に放り込まれたそうです。

速水:被害にあわれる方の年齢、性別、などは色々ですか。

藤田:年齢も性別もまちまちですね。今の例の人なんかは30代の女性ですし、精神科病院に入れられたという人は30代の男性です。どちらかと言うと男性の方が多い傾向はあるんですけれども、年齢的には20代、30代、40代と、わりとばらけている感じがします。


最低賃金以下での強制労働や、死者が出るケースも

速水:藤田さんはその引き出し業者の施設に実際に突入されたことがあるそうですね。

藤田:ちょうど2年前に知り合いの弁護士から、「ある引き出し業者に連れ去られてしまった複数の被害者の人から救出の依頼を受けている。これから熊本にある施設まで救出に行くんだけれども、よかったら同行しますか?」と聞かれたのがきっかけでした。実際に同行した施設というのは、熊本の田園地帯にありまして、パッと見は3階建ての民家なんですね。 SOS を出した当事者は当然その施設に恐れを抱いていて、職員に内緒で救出依頼をしているわけです。だから私たちも事前のアポなどは取らないで、慎重に訪問したんですね。一人くらいは胸ぐらを掴まれたりするのかなと思ったんですけれど、幸いそういうことはなく、救出作戦自体はスムーズに行きました。私も施設の中に入ることができたのですが、大体一部屋に二段ベッドが二つ置かれていたほか、廊下には複数の監視カメラが設置されていました。

速水:周りの人達は、これはどういう人たちがいるかというのは知っていたんですか。

藤田:ある程度は知っていたと思います。ただ住宅街というよりは本当に田園地帯なので、そんなに噂になるとか、そこまではいってなかったのかもしれないですね。この時は30代と40代の男性二人を救出しましたが、依頼をした男性たちの話では、基本的にここは研修を受けているという体裁になっているんですが、実際には研修とは別の、近くの農場で強制的に働かされていたと言うんです。ですので、弁護士がその場で施設職員に明細書を出せと言い、出てきた書類を見ますと時給200円なんですね。先ほど申し上げたように、最低賃金以下で働かされていたというケース極めて法律違反の可能性が高いですね。

速水:安い賃金で働かせていることも社会復帰のためという名目なんですか。

藤田:そうです。施設側に取材をすると、就労支援であるということでした。

速水:研修の延長ですよということですね。ただ、いまの話を聞いただけでもかなり強制に近いわけですよね。これは業者の間で事故や事件が起きることもありますよね。

藤田:そうですね。この熊本の施設では昨年4月に40代の男性が死亡するという事件も起きています。ご遺体を確認したご遺族の話では、原因はおそらく餓死だろうということなんですね。あるいは別の施設なんですけれども、入居者が自殺をしたりとか、あるいは自宅から施設までの移送中に走行中の車から飛び降りて亡くなったとか、そういったケースも起きているそうです。

速水:監禁状態に置かれてろくに食べ物も与えないという話でしたけど、殺すために与えていないわけではないですよね。矯正させるための手段だとしても、餓死するって相当だと思うんですけれども。

藤田:その人の場合は、食べ物を与えられなくて餓死したというケースとはちょっと違って、ひきこもりにある人というのは、自分でご飯なんかも買いにいけないんですね。そういう状況をずっと放置していたという感じですね。

速水:過去にあった戸塚ヨットスクールであるとか、そういう問題とおそらく同じような事態なわけですね。親が子供を預けて、監禁に近いような状態で何かをさせるみたいなことが続いていること自体が不思議なんですが、一通メッセージを読みます。「ひきこもる人を強制的に、暴力も辞さず外へ連れ出す施設で、ほぼ監禁状態ということですが、思わず絶句してしまいました。いったい何のために非人道的なことをやるのか理解できません。これって犯罪ですよね」 というメッセージなんですが、どうなんでしょうか。

藤田:そうですね。私もまさに犯罪だと思います。ただ被害当事者の人達が脱走して警察に駆け込んでも、親が契約して同意しているということで、ほとんどのケースでは連れ戻されちゃうんですね。こうした業者がはびこる原因は二つあると思っています。一つは子供のひきこもり状態が長期化する中で、親子ともに高齢化していく「8050問題」ですね。もう一つは、やっぱり行政の支援が適切行き届いてこなかったということがあると思っているんですね。


「8050問題」とは?
速水:「8050問題」とはなんでしょうか。

藤田:8050問題というのは、ひきこもり当事者が50代になっていて、その親が80代になるということから名付けられているわけなんですけれども、高齢化が進むと親は精神的にも経済的にも追い詰められていくんですね。引き出し業者というのは、そうした親の藁にもすがる思いに付け込んで、極めて高額な料金で契約をするんです。私が取材した中では入居期間3ヶ月で500万円、半年間で1千万円を超える契約というのもありました。ただ、そうした家庭がみんな裕福かというと、そんなことはなく、親戚中から借金をしたり、自宅を売って費用を工面したりとか、そういう事例もたくさんあるんですね。親御さんたちも最初からこうした業者に頼んでいるわけではないんです。高いですからね。最初はやっぱり自治体に相談に行くんです。ところが窓口担当者から「ひきこもりというのは子供の不登校の問題でしょう」とか「子供の問題だから」、あるいは「引きこもっているお子さんを連れてきてもらえないと対応しようがない」ですとか、そういうことを言われるそうです。

速水:社会問題ではなく家庭問題ですよという認識の仕方をしているわけですね。ただこれ行政のセーフティネットの拡充で対応するみたいな方法もあると思うんですが、もうちょっと別の角度の問題があるかなと思ったのは、先ほど戸塚ヨットスクールという話を出しましたけれども、預ける親の側もあの校長を信頼していて、おそらく未だにそれを支持している親って 結構いるんじゃないかと思うんです。社会が支持しているところがあるんじゃないかという気はしますよね。

藤田:施設の職員の人たちとお話をするとですね、「いつも我々のことを批判的に書くけれども、あなたは困っている親御さんの話を聞いたことがあるんですか。私たちは親御さんのニーズに応えている。親御さんのために一生懸命やっているのに、なんでこんなに批判的なことを書くんですか」というふうにしょっちゅう言われるんですね。私はそれに対して「それは犯罪行為が許される言い訳にならないよね」と言っていつも平行線なんです。

速水:確かに犯罪であるということと需要と供給とは別の枠ですが、一方でいわゆる受け皿がない、その業者が受け皿になっているということが問題の根本だという部分もあるわけですね。メッセージをひとつ読んでみたいと思います。知り合いの話として書かれているんですが「娘さん三十歳が高校を中退してそのままひきこもりになりニートになりました。毎日携帯ゲームをやりながら過ごしているそうです。なので30歳なのに家事炊事できずにいます。ある日携帯で課金しまくり、60万円の請求が来てお母さんが怒ったという話があったりしました。私が生きてるうちはお母さんが面倒みるけど、死んだらもう知らないからと話をお母さんはされていたそうです。これ自分の問題として考えたら、間違いなく自宅から叩き出します」というメッセージなんです。どうでしょうかこういう反響は。

藤田:そういった話はよく聞きます。これは私の考えなんですけれども、やっぱり日本は働かざるもの食うべからずという価値観が特に強いと思うので、そういうお話はよく聞きますし、一理あると思います。ただこれはちょっと引き出し業者の話とはずれちゃうんですけれども、そうするとおそらく若年層のホームレスが増えるであろうと言われているんですね。アジア圏なんかではひきこもりが多いんですけれども、成人したら出て行くものという価値観が一般的な欧米ではヤングホームレスが多いんです。


ひきこもりは家庭問題ではなく社会問題

速水:社会問題として大きく見ると変わらないけど、個別の問題としてはヤングホームレス問題とひきこもり問題というように変わってくるわけですね。日本は「ひきこもりは甘えなんだ」という考え方が非常に根強くあって、ある種そういう側面もある。ただ外に出したからといって社会問題として解決されるわけではないということですね。一方でひきこもりをめぐる問題というと、ここ2~3年で色々注目されたことを思い出しました。元農水事務次官による子供の殺害事件。暴力が手に負えなくなった高齢者のお父さんが40代の息子を殺害するという事件なんかがありました。ひきこもり=暴力ではないという話もあるんですが、この事件は注目されたし、みなさん記憶にあると思うんですね。ひきこもりの高齢化をめぐる問題は状況が変わってきている部分ってあるんですか。

藤田:そうですね。私としては少しずつ良い方向と言いますか、認識自体は広がっているんじゃないかと思うんですね。一つには内閣府が中高年のひきこもりが推計で61万人いるという結果を数字として発表したということがあります。もう一つは先程のお話の通り、昨年東京の練馬で元農水事務次官が息子を刺し殺した事件があり、ちょうど同じ時期に川崎市内で通り魔事件も起きましたね。背景にはひきこもりの問題があると指摘された事件が相次いだことで、ひきこもりというのはもはや子供の問題とは言えない深刻な社会問題であるという認識が、少なくとも以前に比べると広がったんじゃないかなと思うんです。

速水:それが認知された先に向かうべき解決法があるとすると、行政がセーフティネットを拡充するということがある。それはそもそも社会的に知られないと対応もできないわけですから、社会的認知が進んだ現在、行政が対応する段階になるといいなということですか。

藤田:遅すぎなんですけどね。行政の動きとしても、内閣府の調査には合わせる形で、ここ数年で各自治体にひきこもりに特化した相談窓口というのが作られてきているんですね。だから少なくとも、今は自治体に相談に行ったのに門前払いされるということはなくなってきているんじゃないかなと思います。

速水:今夜はフロントラインプレスの藤田和恵さんにお話を伺いました。ありがとうございました。