操作される消費行動〜ダークパターンとスマホ時代の防御法

2020年9月10日Slow News Report


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速水:Slow News Report今日は堤未果さんとお送りします。今夜のテーマは「操作される消費行動〜ダークパターンとスマホ時代の防御法」です。一通メッセージを読もうと思います「一度うっかりアマゾンプライムに入っちゃっててメールが来てびっくりしました。使ってなかったので料金かからなかったけど、注文の画面で“プライムに加入しない”ってなっているかどうか確認が必要ですね」というメッセージです。これ僕も身に覚えがある話ですが、今日堤さんにお伺いする“ダークパターン”という言葉、僕はこの言葉はじめて聞く言葉だったんですが。


ダークパターンとは

堤:おそらくリスナーのみなさんも初めて聞いたという方が多いと思います。この言葉自体はそれほど新しいものではないのですが、これがまずいということになってきたのは2010年なんです。実際は30年くらい前から、企業が利益のために私たちユーザーの行動を心理的に操作する危険性があるということは言われていたんですけれども、それが技術が速いスピードで進歩し、スマホが生活の中心になってきた時にいよいよこれが深刻になってきたということで、いま世界で指摘されている問題です。

速水:この半年、コロナ禍でネットでの買い物も増えていますが、スマホは買い物だけではなくあらゆる日常の行動、例えば移動する時に電車の乗り換えを調べたり、食べ物を出前で頼む時なんかもスマホを使うのは当たり前になっていて、消費のかなりの部分にスマホが関わっていますよね。

堤:そうなんですよね。だからダークパターンを一言で言うと、“人を騙す目的で作られたウェブデザイン”と考えていただけると分かりやすいと思います。

速水:これは具体的にはどういう事例が考えられるのでしょうか。

堤:例えばさっきのアマゾンプライムのお話なんかそうなんですけれども、他にもオンラインの会員制動画サイトで、入会する時の手続きはすごく簡単なのに、退会しようと思うとすごく複雑になっていたりしますよね。アマゾンなんかでも、アカウントをクローズしようと思うとものすごく複雑なんですね。そもそも「退会」というボタンが無いんですよ。無いだけじゃなくて、ページの下の方のちっちゃく書かれた“ヘルプ”というボタンを押して、そうすると“問題は解決しましたか?しませんか?”と出るじゃないですか。それで“しません”というのを押して、その後で“顧客サービスに連絡”という所に行って、今度“その他”というボタンを押して…迷路ですよね、はっきり言って。

速水:分かりやすく解約されたくないという気持ちもわからなくはないんですけどね。

堤:これはアメリカでも“ゴキブリホイホイパターン”言われるんです。入るのは簡単だけど、出ようと思ったら出られないという。

速水:いろんな騙す手法は今増えているんでしょうか。例えばさきほどの退会できないという話、確かにいくつか僕も退会できないでいるものがあります。それこそ退会するためのコストよりも、まあもう一か月入っちゃおうかみたいな…それがいわゆる操作されていることだなという自覚はあるんですが…。


典型的なダークパターンの手法

堤:これがなぜ、特にスマホ時代に問題になっているのかと言うと、スマホ時代って何もかもがスマホに集約されているので、私達は昔より忙しいんですね。次々に情報が来る、メールが来る。そうすると、ダークパターンの特徴として、例えば解約手続きを煩雑にすると忙しいからできない、面倒くさいとなってしまうので、そこを心理的に利益拡大のために使っているということになってしまっているんです。ダークパターンにはいくつかの手法がありますが、例えば四つくらい説明しますと、ひとつは先ほどの継続を強制するパターンです。30日だけトライアルしたかったのに、いつのまにか継続せざるを得ないような仕組みになっていること、ありますよね。私もネット記事サイトで三つくらいパスワードを忘れちゃったり、解約を忘れたりとかあって、未だに引き落としだけというのがあるんですよ。

速水:僕も「ああこれまだ払ってたんだ」と、そこから解約するのが大変だったということはありますね。自分のせいというのもありますけど。他のパターンもあるんですか。

堤:他には、例えば広告メルマガみたいなのが来るじゃないですか。あれを配信停止したい場合に、配信停止のボタンが絶対見つからないように薄い灰色とかになっていたりするんです。アマゾンとかそうなんですけど、老眼だったら見えないくらいの色になっていたりするんですね。これもダークパターンのひとつですね。それから三つ目がオプトアウト方式と言いまして、例えば「こういうことで住所は何に使わせていただきます。いいですね。」「はい」とか、「あなたは東京都在住ですね」「はい」とか「はい」「はい」「はい」って進んでいくんです。それで「最後に有料の定期配信は要りますか?」とあって、ここで“いらない”というボタンもあるんですけども、人間ってずっと「はい」って言い続けると続けて「はい」って言いたくなる生き物なんですね。交渉術なんかでも「はい」ってずっと言わせるように持っていって、最後に自分の要求をパッと出すと「はい」って言っちゃうというテクニックがあるんですけど、それのデザイン版ですね。だから“同意する”というのがデフォルトで設定されていて、“同意しない”ってわざわざ別のボタンを押したくなくなるようにデザインされている。

速水:これ「ひざって10回言って」みたいなのの延長線上にあるやつですね(笑)

堤:まったくおっしゃる通りですね(笑)また、“同意しない”というボタンがすごく小さくなっていたりとか、そういうトリックも使います。それから、例えば LINE とかでも一時問題になりましたけれども、自分のアカウントを登録すると、自分のスマホの中の友達とか家族のメールアドレスにアクセスして、その人たちみんなに広告メールを送ってくるということがあるんですね。

速水:それはほぼスパムというか、悪意のあるものですよね。

堤:悪意があるし迷惑ですよね。LinkedIn というビジネス系の SNS がありますが、このサイトは自分の電話帳にあるメールアドレスにどんどん広告メールを送ってくるんですけど、それにユーザーが気が付いても止めることができないんですね。止める手続き自体が無い。さすがにここは訴えられて現在訴訟中です。もう10億単位の訴訟になっていますね。


日本におけるダークパターンの規制は?

速水:いろんなパターンをお伺いしましたが、日本にはこれを規制するような仕組みや法律って整備されているんでしょうか。

堤:日本はすごく遅れてるんですね。日本は実質的なピンポイントの規制というのがまだ追いついていない状態なんです。例えば Facebook なんかは日本人も大好きでよく使っていますけれども、Facebook もかなりダークパターンを使っているんです。だけどダークパターンとはどういうことか、その単語自体も知らないユーザーがほとんどなので、個人情報が取られたい放題になってしまっています。

速水:いわゆるGAFA対各国みたいな例でいうと、EU なんかではGDPR(General Data Protection Regulation=EU一般データ保護規則)でプラットフォーム企業が自分たちの好き放題に個人情報を使ってビジネスをやれないように、非常に厳しい規制をかけています。 例えば、登録したサービスとは違うサービスなんかに紐づけたりすることってアウトなわけですよね。そういう法律の整備が日本ではまだ追いついていないんですね。

堤:世界的にテック企業の技術進化のスピードが早すぎて、規制だったり、倫理的なポイントが追いつけないんですね。にもかかわらず、私たちの生活はどんどんそれに侵食されている。いま、顔認証サービスというのが便利なのでどんどん入ってきています。顔認証は企業にとってビジネス価値が膨大に広がりますから、これはもっともっと加速していってしまうでしょう。だから、顔認証が普及し始めている今のポイントで、世界的に規制しないとまずいんじゃないかということがいわれているんですね。

速水:いくつかリスナーからのメッセージを読んでみたいと思います。「ネットを使っていて、あれ?もしかして私操作されている?と思ったこと、私の場合今のところそれはありません。インターネットは決まったページしか開きませんし、1日の大半は Radiko を使って、番組を聴きながらツイートしているのがパターンとなっているので、特に心配はしていません」というメッセージです。いつも決まったサイトを見ているから大丈夫というのはどうなんでしょうか。

堤:どのサイトでも企業がやっていることなので、それは分からないんですね。例えば有料のサービスがある時に、その条件とか規定、それから個人情報の扱いですとか、そういったものを定期的にチェックするといいですね。でも個人情報の規定って長いんですよね。だからほとんどの方が読み飛ばして“同意する”って押してると思うんですけど。

速水:もう一通いきたいと思います。「スマホ保険もひどかったです。入ると本体の割引があって数ヶ月たったらいつやめてもいいよと言われたのに、まず解約するところがわかりづらく、しかも電話が繋がらず、繋がってから封筒が送られてきて、封筒に記入して返してようやく解約できる」みたいなケースの話もきています

堤:それも典型的ですね。

速水:そういうダークパターンからどうやって身を守るかというのは、国ごとに法律で守ってても、インターネットサービスって多国籍だったりするので、その国の法律だけで云々ということでもなかったりすしますが、各国の対応って全然違うんですか。

堤:全然違いますね。まず最初に法規制ができたのはやっぱりヨーロッパですね。EU で2014年6月にダークパターンの一部を取り締まる法律が施行されました。例えば知らないうちに送料や手数料が勝手に加算されていたりですとか、買い物かごに勝手にオプションが入っている設定になっているとか、お試し期間が終わると告知なしで自動的に有料になるとか、そういうことが完全に違法になったんですね。ただこの法律が施行されてもう6年ですけれども、ヨーロッパですらまだまだ全然取り締まれていないんですね。理由はユーザーが知らないからなんです。日本もそうですけれども、ダークパターンというものが存在していて、これはやってはいけないデザインになっているということすらユーザーは知らない。だから結局野放しになってしまっていて、多少摘発しても企業の数が多すぎてまだまだ取締りきれていないんです。

速水:法律が整備されていれば済む問題ではないということですね。

堤:やっぱり守られる対象がその権利を持っているということを意識していないと、法律ってただの紙の上のものになってしまうんですね。アメリカなんかは権利意識が強いので、やっぱり草の根でこのダークパターンが問題になって、去年アメリカで超党派で法案が提出されました。今審議中なんですが、ちゃんと法案として成立すれば、連邦の通信委員会が介入できるんです。そうしたら、企業の中に第三者委員会を作らなきゃいけないとか、結構厳しくできるんです。アメリカの場合、誘拐だったり子供が巻き込まれる犯罪が非常に多いので、そういう意味でも子供が入会するように仕向けられていたりという問題は深刻なんですね。そういう意味でも法律は必要です。中東なんかも厳しく規制をかけていますし、アジアの他の国も結構厳しくしてきてはいるんですけど、日本は特別な法規制というのがない。ダークパターンということについてはまだまだ意識が遅れているんですね。

速水:ダークパターンから身を守るには、消費者の意識みたいな部分がまずないといけないし、その先に法律云々というのはもちろんあるんですけど、スピードが結構重要だということですね。

堤:そこなんですよね。結局何が一番ポイントかと言うと、デジタルの進化のスピードに私達の意識や体が追いついていないんですね。追いついてないということは、例えば倫理観だったり、ここまでは社会的に線を引かないとまずいよねということを立ち止まって考える隙もないんです。それは個人の責任ではやりきれないので、ちゃんと法律だったり行政だったり、そういうもので規制をかけて、国際的なものでしっかり規制をしていかなければいけないんです。日本ではマイナンバーもどんどん普及して、今度は年金の情報も紐づけられる、健康保険の医療情報も紐づけられる。そっちは進んで行くのに、情報の扱い方に関しては企業への規制が全く追いついていないですね。

速水:しかも国際的に日本が立ち遅れているというところなんかもちょっと自覚しないといけないですね。ガラパゴス的に、海外で話題になっていることが日本では情報が遅くなっている部分がある。これは非常に問題ですね。

堤:日本ではスーパーシティ法案とか、デジタル化への憧れは強いじゃないですか。

速水:追いつかなきゃという意識はあるんだけど、一方でその危険性みたいなところがちょっと…

堤:ちょっと抜けてるんですね。だから技術に対する憧れだったり、便利さだったり、それで地方を復興しようとかいうことで、スーパーシティ法案にも随分手を上げている自治体は多いんですけれども、それに付随して企業の規制がないままに進んでいって手遅れにならないように、各国と足並みをそろえて、私たちも意識を追いつかせていくというのは大事ですね。

速水:今日は「操作される消費行動 ダークパターンとスマホ時代の防御法」について堤さんにリポート頂きました。ありがとうございました。

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