テスラはトヨタを超える・・・のか?

2020年9月2日Slow News Report



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速水:Slow News Report 今日はフロントラインプレス木野龍逸さんとお送りします。先日テスラがトヨタを時価総額で超え、自動車業界トップに躍り出たというニュースがありましたが、今日は「テスラはトヨタを超えるのか?」というテーマで木野さんにお話を伺います。車って、エンジニアからネジ回す人まで大勢の人が関わっていて、その国の文化全体の総力戦みたいなところがあると思いますが、長年テスラをウォッチしてきた木野さんは、テスラがトヨタの株式総額を超えるという事態をどう見ていますか。


テスラ対トヨタ

木野:正直ここまで急に伸びるとは僕自身も思ってはいなかったですね。創業したのは2003年ですけれども、最初に作っていた車はすごく作りが乱暴で、いろいろ不具合も出たりして、設計も含めて生産管理にはものすごく苦労していたんですね。それが乗用車を作り始めて、特にここ1~2年のモデル3という、それまで一千万円していたテスラの車が500万ちょっとで買えるようなモデルを出して、それから本格的に物がきちんと作れるようになったという印象がありますね。

速水:トヨタの無駄のないモノづくりというのは世界的にも評価されているんですけれども、そこら辺も含めトヨタとの比較でいうと、もうライバルとしては超えている部分があるんですか。

木野:単純にトヨタと比べられるような形ではないような気はしています。作っている物も全然違いますし、エンジン車というのは圧倒的に部品点数も多いのですが、電気自動車はそれに比べるとだいぶシンプル化されています。ただそうは言っても、やっぱり人の命を預かる車を作るというのは、社会的責任も含めて非常に大きなものがあります。その中でここまでの大きさになるとは思っていなかったんですが、ただ生産方式も含めて既存のトヨタ、BIG 3のような大きなところと単純に比べて、どっちが良い悪いという風に比較するものでもないのかなという気はしています。

速水:日本では、ハイブリッドは普及していますが、電気自動車はそれほどでもありません。日本と欧米、中国ではやっぱり普及の事情が違いますか。

木野:はい、全然違うと思いますね。日本の2019年度までの電気自動車の保有台数って10万台ちょっとなんですね。テスラは年間50万台を作るという目標を掲げていて、実際40万台ぐらいは作っているわけです。それだけで規模感が全然違うのかなという感じがします。また、日本の中ではやっぱりガソリン車がこれだけ多い中で、新しいものに手を出しにくい状況があるのかなと思います。物がいいとは言っても、やっぱり使い勝手はガソリン車に比べるとだいぶ違うものなので、それなりの余裕、関心がないとなかなか手を出しにくいのかなという気はしますね。

速水:なるほど。アメリカでも非常にテスラは増えてますが、例えばカリフォルニアのようにリベラル層、富裕層が多い場所と、ラストベルトといわれるような場所ではやっぱり普及の度合いも違いますよね。


アメリカはもうプリウスの時代ではない

木野:はい違うと思います。ただ一時はハリウッドセレブがプリウスに乗ってたじゃないですか。

速水:そうですね。ディカプリオがアカデミー賞の授賞式に乗ってきてみたいな話が話題になりましたよね。

木野:結局デカプリオも今はテスラなんですね。プリウスをまだ保有しているかどうか分からないんですけれども、少なくともディカプリオとかマット・デイモンとかジョージ・クルーニーみいたいな、環境に関心があると言われているセレブの人たちはこぞってテスラのモデル S という1千万円くらいの車を所有しています。ですので、車の位置づけがだいぶ違ってきているのかなという気はしますね。

速水:意識の高い人達がステータスとして環境に優しい車が欲しいといった場合に、もうプリウスではなくなっているということですよね。

木野:そうですね。カリフォルニアでもハイブリッド車は増えず、電気自動車の方が販売台数が多いくらいになってしまったので、だいぶ状況は変わっていると思います。

速水:テスラは最新型のアメリカンドリームと言っていいんでしょうか。

木野:そう僕には見えました。もちろんITの人達は既にアメリカンドリームみたいな形で財を成したり名声を得たりしてると思うんですけれども、自動車業界というのはかなり特殊で、人の命に直接関わっているものでもあるので、大量に売ろうと思うとそれなりの責任がかかってくるんですね。なので手を出しにくい産業だと思うんです。巨大ですし。その中でこれだけの台数を作るメーカーがアメリカで出てきたというのは、本当にアメリカンドリームとしか僕は言いようがないのかなと見えてしまいますね 。

速水:ここ17~18年で急成長していて、しかも本当に売れたのってここ数年ということなんですが、いわゆるこれまでの自動車とは別のものとして、それこそスマホなんかに近いジャンルだと考えたほうがわかりやすい部分があると思うんです。日本なんかでは若い世代が車に興味を持たないなんていいますが、若い世代からこのテスラはどう見えているんでしょうか。


車に関心のない日本の若者もテスラには関心が

木野: 2~3年前に、20代の男女10人くらいでグループインタビューをしたことがあったんですが、やっぱり彼らは基本的に車に関心がないんですよね。ただそれでも何か欲しい車というのがありますかと聞くと、「特にないんだけど、テスラだったらいいかな」という子が何人かいてちょっとびっくりしたんです。もう BMW でもベンツでもフェラーリでもなくて、テスラなんですよね。だから電気自動車に対するハードルはかなり低くなっていると思いますし、テスラ自体、それからイーロン・マスクというキャラクター自体に興味を持って見ている若い人も多いのかなという気はしました。

速水:一通メッセージを読みます「テスラと聞くと、どうしても車よりもイーロン・マスクが思い浮かぶし、そこから連想するものは車じゃなくてスペース X になるんですよ。車に疎い私はそんなイメージです」という意見が来ているんですが、イーロン・マスクってお騒がせな人で、この人が前面に出てくる車って本当に大丈夫なの?とちょっと不安があるんですよ。例えばアップルが作っているスマホだったら、まぁ多少不具合があっても人は死にませんよね。でも車は死ぬじゃないですか。

木野:イーロン・マスクは確かにお騒がせではあるんですけれども、実際に現場で生産管理をやっている人達はプロフェッショナルで、十数年かけてビッグ3や日本なんかから生産管理の達人を集めてきて作っているので、その辺は大丈夫かなと思います。

速水:割とソフトウェア中心のテスラというイメージもありますよね

木野:ありますね。オンラインでソフトウェアがバージョンアップされると航続距離が伸びるとかもありますね。

速水:それはびっくりですね!

木野:エネルギーマネージメントってソフトウェアの部分にかかっている部分が大きいので、オンラインによるアップデートで航続距離が伸びたりするんです。その辺はやっぱり普通の車とは考え方が全然違うのかなと思いますね。

速水:メッセージを読みたいと思います。「若者は車に興味がないんじゃなくて買えないだけだと思う。手が届く現実味がないと調べる気起きないよね。駐車場代3万円とか払ってられない」そしてもう一つ「テスラ車 最初から価格で内燃機関車と競合する道を捨てて、高価な代わりに航続距離を長く設定した。富裕層市場をターゲットにした商品展開をしたことが近年の世界的な格差拡大の経済にフィットした面は大きかったと思います」という意見です。これ二つとも確かにそうかなという気がします。既存の車のユーザーを取るんではなくて、ちょっと違うところ、市場としては富裕層を発掘してるのかなというのもありますよね。

木野:そうですね。今のリスナーの方のお話にあったように、値段の設定は当初は間違いなくそうだったと思います。1千万円以上するというのは、やっぱりそうそう簡単に買えるものではない。ただ今メインになっているモデル3やモデル Y というのは500万円ちょっとなんです。普通の車を買おうと思うと、ちょっとすると400万、500万円にはなるんですよね。もちろん僕なんかは中古車で何10万円のしか買ったことないですけど。

速水:僕も30万円のマーチに乗ってますけどね。

木野:やっぱり若い人がなかなか手を出しにくいというのは、それも確かにあると思います。その中でも、ガソリン車には興味ないけどテスラだったらという人が出てくるのはちょっと今までとは違う動きなのかなと思います。


テスラが今後目指すのはエネルギー産業?

木野:一方テスラのCEOイーロン・マスクさんが考えていることを後半は伺いたいと思うんですが、自動車産業の中でトップを取るんだというところじゃない部分があると思うんです。ひとつここでワードを出したいんですが、“パワーウォール”という言葉、テスラの未来を考える上で重要という事なんですが、パワーウォールって何ですか。

速水:要するに家庭用の蓄電池ですね。ひとつあれば、人数とか使用電力にもよりますけれども、一般家庭で1~2日は電気が使えるような蓄電池です。

速水:テスラの車にも電池が積んであるわけですが、車のエネルギーとしてだけではなく家庭用の分野にもテスラは行くかもしれないということですか。

木野:そうですね。パワーウォールに入っている電池はテスラの車に使っている電池と同じで、作っている工場も一緒なんですね。イーロン・マスクはこれからはエネルギー産業だという話をしていて、7月の第2四半期の決算発表の時のオンライン記者会見で「エネルギー部門はオートモーティブ部門とほぼ同じサイズになると思っている。エネルギー産業全体では自動車産業よりも全然規模が大きいからそうなるんだ」と言っています。そしてテスラは持続可能なエネルギーを進めていくことに使命があるという話をしているんです。実は2016年までテスラはTesla Motors, Inc.だったんですけれども、4年前に社名をTesla, Inc.に変えています。これはトランスポーテーションだけの会社からサステナブルエナジーに会社の使命が変わったから名前を変えたという説明をしているんです。車だけではなくて、持続可能な社会に向けて何が必要かというものの解決策を示していく、それが長期的な視点での狙いみたいですね。

速水:これは単純に自動車メーカーから電池メーカーになるよということではないということですよね。

木野:そうではないですね。実はパワーウォールよりもさらに大きい“パワーパック”とか“メガパック”というものがあるんですが、これは発電所レベルの蓄電能力があって、ハワイとかでは大量の風車で発電したエネルギーを一時的に貯めておくというような形で使ったりもしています。

速水:なるほど規模を大きくするために“モーターズ”を取ったと考えるとわかりやすいですね。そしてイーロン・マスクって、先ほどのメッセージにもありましたように宇宙開発スペース X の事業も力を入れていますよね。

速水:テスラがここまで大きくなる前からイーロン・マスクはスペース X をかなり長い事やってたんだと思いますが、スペース X はテスラとは別な形で考えていて、テスラはあくまでもエネルギーのソリューションを提供する会社なので、ちょっとスペース X とは種類が違うかなと思いますね。

速水:そうなるとイーロン・マスクって最終的にどこを目指しているんだと思われますか。

木野:僕みたいな凡人には想像がつかないような気がするんですけれども(笑)、エネルギー関係を席巻していくというのは間違いないと思うんですね。エネルギーの中でも例えばCO2の問題を見ると輸送機器からの排出量というのは非常に大きなウェイトを占めています。そういうのも含めて、持続可能な社会を作るために何が必要か、その中でもウエイトの非常に大きいエネルギーというものをどう考えていくか、ということの解決策を提供していくというのが頭の中にあるのかなとは思います。

速水:どんどん新しいテクノロジーを提供するんだという先には、もうちょっと大きいヴィジョンみたいなものの背景がいろいろ見えてきますね。車を作るのと宇宙に行くのって全然違いますけど、なんとなくやろうとしていることの共通点みたいなものがその先に見えてくる気もしますよね。

木野:新しいものをとにかくやろうという思いは分かりますね。

速水:その中でお騒がせ野郎な部分もありながら、今話題を作りながらお金を集めて新しいことをやるという流れ。ちょっとイマイチ大丈夫?と心配なんかもあるんですが、今の話を伺って見えてきた部分も多かったと思います。今日はフロントラインプレス木野龍逸さんに伺いました。ありがとうございました。