ネットニュースがどう変化してきたか、これからどうなっていくのか

2020年8月4日Slow News Report



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速水:Slow News Report今日は奥村倫弘さんにお越しいただきました。奥村さんはヤフーニュースの育ての親で、読売新聞を経てヤフートピックスの編集長を経験されています。今日はそんな奥村さんにネットニュースがどう変化してきたのか、そしてこれからどうなっていくかという話を伺っていきたいと思います。奥村さんは現在東京都市大学メディア情報学部の教授として学生たちにメディアについて教えているということなんですが、ネット世代、スマホ世代だの学生たちはネットニュースをどういう形で見ているんでしょうか。


若い世代にとってはネットニュースは当たり前のもの

奥村:今の学生って生まれた時からインターネットがあるので、新聞が中心だった時代だとかテレビが中心だった時代を全く知らないわけですよ。ですからインターネットでニュースを見るというのは何も特別なものではなくて、ニュースがそこで流れているというのがもう自然なものなんですよね。

速水:僕らのようにまず新聞やテレビのニュースがあるという時代からきていると、ネットニュースって信じていいのかなとか思ってしまいますが、そうじゃないわけですね。ヤフーのトップとか、ヤフトピとかを見るのはパソコンユーザーの人達の方が多そうですが、スマホだとまた違いますよね。

奥村: 5年くらい前にパソコンからスマートフォンに移行していくという時代があって、もう今はスマートフォンが中心です。ヤフーニュースでも LINEニュースでもスマートフォンからのアクセスの方が多い時代になっているんですね。むしろパソコンを持っていない学生というのもそこそこいたりします。それから5年くらい前は ヤフーニュースを見ている学生ってあんまりいなかったんですけど、最近はどのニュースアプリを使ってるの?と聞くと、結構ヤフーニュース、LINEニュースというのが多いですね。

速水:なるほど。ニュースアプリを経由して見ているんですね。

奥村:ほとんどニュースアプリですね。

速水:それに友達がツイッターなんかのSNSで取り上げているものを見るという、誰かが関心を持っているものに対してアクセスするみたいなケースもすごく多そうですよね。

奥村:ツイッター経由の場合は「シェア」という流通経路を経てくるんでそうなりますよね。ヤフーニュースとか LINE ニュースだと、これはシェアされたものじゃなくて、ヤフーニュースがピックアップしたものだ、LINEニュースがピックアップしたものだということになります。いずれにしても人がピックアップしたものであることには違いないかもしれないですけれども。

速水:友達なのかアプリなのかによるということですね。学生たちはそもそもどういうニュースに関心があるんでしょうか。

奥村:もう色々ですよね。もちろん今のご時世ですから、コロナに関してはみんな逐次チェックをしているようですけれども、自分の好きなアーティストですとか、あるいは新製品情報とかですね。そういうような、一昔前ではニュースって呼ばれなかったようなものに対しても彼らはニュースだと理解していて、そういう情報を得るようにはなってきているなという気はしますね。


ニュース、広告の境界線

速水:これはニュースじゃない、これがニュースであるみたいな事って、非常に今曖昧になってきていて、それこそエンタメ情報とかがヤフトピなんかにピックアップされてメインになってたりすると、これニュースなのかな?って思うことありますよね。奥村さんはニュースを作っている側ですが、これもニュースなの?ということって考えますか。

奥村:僕らが学生だった30年くらい前、まだ新聞が強く、インターネットがなかった時のニュースの輪郭ってものすごくはっきりしていたんですよ。つまり新聞で取り上げていたものがニュースでしたし、報道番組に出ていたものがニュースだった。当然僕らもそれがニュースだというふうに理解していましたけれども、今は紙の新聞を見ることが少なくなってきましたし、テレビの報道番組もあんまり若い世代は見なくなってきて、またテレビ自体がだんだんエンタメ化している面もあって、何をニュースって呼ぶかということがだんだんわからなくているという現状があります。ですので、世代によって、言葉の使い方、伝わるイメージというのが大きく違うんだろうなという気がします。

速水:僕なんかもネットのニュースはもちろん見ているわけなんですけれども、その中で「今車を売る人が増えています」とか「マンションを売る人が増えています」って、僕が車を買おうと思って検索したり、ウェブ上で何かした行動がそこに反映されてニュースに紛れて広告が入っているということがあります。それってかつてはなかったことじゃないですか。そういう状況に対して若い人たちは、ニュースと一緒くたに広告も受け入れているのか、その辺もちょっと気になるんですけれども。

奥村:インターネット広告は全てが連動していて、自分が関心のあるキーワードは自分がよく見るタイムラインに出てくるんだよということを知らない学生は結構いるんですよ。それからよく、YouTube なんかもそうですけれども、一つの動画の中で何々株式会社提供という文字が出ている。昔の感覚では「それは PR であってニュースじゃないですよね」ということを意識していたはずなんですけれども、「何で PR を書かなきゃいけないの?面白ければいいんじゃない」という学生も中にはいますよね。

速水:なるほど。これが行きすぎるとステマになる一方で、新聞にも広告は当然あるわけですよね。メディアを運営するためには広告が必要で、ウェブでも一緒なんですけれども、広告であることを明示している中間的なタイアップ広告なんかもある。その辺の学生たちの反応はどうなんでしょうか。ステマなんかにはすごく反発するのか、面白ければいいじゃんという反応なのか、どうなんでしょうか。

奥村:両方あります。これは番組だったり、紙面だったり、ネットメディアを作っている側を素直に受け入れているとも言えるんですよね。だからステマぐらいいいじゃないと言って作っているメディアはやっぱりあるわけで、それを見て学生が育っているわけですよ。ただそういう環境が当たり前になると、今は「どうなんだろう」と疑問を持っている学生が多いかもしれませんけれども、仮に当たり前になってしまったら5年後10年後にはそれが普通だと思っている人が多くを占めるんじゃないかと思うんです。

速水:もうそんな風になっている気もしますよね。 YouTube なんかで芸能人が何かを勧めていると、大抵それはお金もらってやっているわけですが、それが面白ければいいと受け入れている層が多いなという気もするんです。おそらくその背景としてあるのが、僕もたまに本の作り方とか記事の書き方とか大学に教えに行ったりする時にわりと傷つく、びっくりする事があるんですけど、「まあ、お前らマスゴミじゃん」みたいな感じで、マスメディアが作っている物って嘘なんでしょうみたいなことをデフォルト設定でコミュニケーションしてくる学生が多いんですよ。そういう経験ってありますか。

奥村:私はどちらかというとマスコミ側の人間には見られていないんです。ネットメディアにいたということで、読売新聞の影がだんだん薄くなってきているという(笑)

速水:僕もブログ出身のライターなので、そういう意味ではネット寄りなんだけどなとか思うんですけど、学生達の就職希望でマスコミっていまだに人気あるんですか。

奥村:今はもうほとんどないと思います。もちろん学部とか学校によって違うんですけど、マスコミを勉強している学部だったらマスコミに行きたいという人は、まあちょっとはいるかなという感じですね。そうでないところはほとんどいないですね。

速水:逆に人気あるのはどういう業種ですか。

奥村:IT企業だと思います。

速水:広告であるとかマーケティング人気ありますよね。そうなってくると、むしろ報道というよりもメディアのマネタイズとか、いかにお金を稼ぐかという方に若い世代はもう向いているということなのかもしれませんね。メッセージを読みます。「テレビのニュースは見なくなりました。もっぱら Google ニュースのおすすめとか RSS で気になるソースのニュースだけ取っています。あと Twitter のトレンドですかね」というメッセージです。IT 企業にお勤めの方のメッセージですが、今の30代40代もこういうスタイルが当たり前になっているかなと思います。僕もほぼそんな感じです 。アプリで選ばれたニュースなんかを見るのは今は当たり前ですよね。そしてもう一つ「ネットニュースは新聞より偏向報道がひどいので話半分に読んでいます。あまりにも偏向がひどいと、それ根拠は?と突っ込みたくなります」 というメッセージいただきました。ニュースサイトがたくさんある中で、非常に左がかったメディア、右がかったメディアみたいなものがあって、RT なんかを介して非常に影響力を持っているみたいな話が今日の日経新聞の特集で組まれていましたが、今時はコロナウイルスの専門家の意見みたいなものが非常に大きくなっているみたいな分析もされていました。ここで改めて奥村さんにお伺いしたいんですが、僕は物書きとして見出しはすごい大事だと思っているんですが、僕なんかの印象だと、非常にキャッチーな見出しをつけてページビューを増やそうとしているんじゃないかと思ってしまうんです、がその辺はいかがですか。


ヤフトピの見出しのつけ方

奥村:私がヤフーでトピックスをやっていた時に、「結構キャッチーな見出しを付けますよね。どうやって作るんですか?」なんていうことを結構聞かれたんですよ。でも私自身はキャッチーな見出しをつけようとはしていないんです。トピックスの見出しって13文字で作ることになってたんですが、13文字で見出しを作ろうと思うとニュースのエッセンスをそこに入れざるを得ないんですよ。そのニュースのエッセンスを入れると自ずからそのニュースは何が言いたいのかというのがはっきりしてくるので、それでいい見出しというのができ始めるんですね。キャッチーな見出しっていうと、例えば「あの有名政治家が」とか、最後にビックリマークを2~3つけたりとか、人の注意を引くような見出しみたいなのがキャッチーなもので、コピーライターさんとかがつけるものがキャッチーだと思うんですけれども、ニュースの見出し、トピックスの見出しというのは、そういうキャッチーなのではなくて、ちゃんとそのニュースのエッセンスを表現するのがトピックスの見出しだと思ってるんですよね。

速水: 13文字という限られた文字数の中で、どんな工夫をされて見出しを作ってたんでしょうか。

奥村:それはやっぱり難しいですよね。なかなか言葉で言い表せないんですけれども、例えば外国の地名なんていうのは非常に長いわけですよ。「オーストラリア」なんていうともうそれだけで半分以上取っちゃっているので、それを「豪」と漢字一文字で済ますとか、例えば今「大谷」という言葉が出てくるとメジャーの大谷だなってわかりますよね。

速水:プロレスラーの大谷晋二郎の可能性もあるかもしれないけれども(笑)、今だったら、ということで簡略化ができるわけですね。

奥村:今この名前だったら通じるだろうということで、メジャーとかMLBとか言葉を省いて載せたりします。


ページビューとニュースの質

速水:なるほど面白いですね。トピックスに載せるニュースも、こういうものを載せるというニュースの取捨選択は、伝える上で重要だと思うんですが、そこの基準みたいなものって あったんですか。

奥村:私がやってた時と今ではちょっと違っていると思うんですが、私がやっていた時は、スマホとパソコンでは見出しの本数が違うんですけれども、上から下に流れて行く時に固いネタから柔らかいネタにグラデーションがかかっていくように編成しましょうという話をしていたんですね。今は社会的関心と公共、両方扱いますよということをよりはっきり言っていました。公共というの政治経済、それから災害とか人の命だとか財産に関係するようなニュースもあつかいますよと。それ以外の社会的関心というのは、スポーツとかエンターテインメントとか、みんなが好きそうなものを選びましょうというように今はしているみたいですね。

速水:この番組もニュース番組なんですが、何を新しいことをお伝えするんだという時に、みんなにとって必要だからやっている物と、関心を持たれるものってちょっと違うわけですよね。例えばエンタメの話というのは必ずニュースサイトアプリの最初のページには入っているんですけど、確かに下であることが多いですよね。ちょっと僕お伺いしたいことが一つあって、最近ネットニュースなんかを見ていると、テレビでタレントの方々が何を言ったということが結構ネットニュースにのりますよね。ツイッターのトレンドに上がるせいもあるんですけど、例えば裏を取ってタレントにもう1回話を聞きましたとかではない記事がすごい増えている気がするんですけど、ああいう記事はテレビ見ているだけの記者がいるわけですよね。どういう理由で増えているんでしょう。

奥村:ニュースに限らずですけれども、基本的にインターネットのメディアは広告で運営しているので、広告って見られれば見られるほど儲かるようになっていますよね。ですのでいかに人の注目をその一本の記事に集めるかということが会社の儲けに直結しているわけですよ。そうすると、何がいったい読まれるのか、見られるのかということを各企業は熱心に研究していて、行き着いた先がワイドショーで何か面白いことを言っているのをそのままネットニュースに流せば爆発的に読まれるじゃないかということになったんです。おそらく10年くらい前に気付いたんですよね。その時にそこで働いていた人に話を聞いたことがあるんですけど、専属でずっとテレビを見ている人たちがいるんですって。で、面白いことがあったらパパっと記事を打ってドンと出すと。その後どれくらい読まれているのかということをリアルタイムで監視して、次行くぞ、次行くぞと常に新しいネタを見つけているということなんです。

速水:どういうメディアでいつ誰がどのくらい見ているのかというのは、はっきり数字で出るわけですよね。その時公共性が高くて新聞の一面になっているようなニュースよりも、エンタメに近いものだったり、まったく取材していないものだったりという記事のほうが数字が高かったりするわけですね。そういう状況がどんどんニュースの質を低下させているというのはあるじゃないですか。それを足止めをすることが業界的に重要だということにはならないんですか。

奥村:多分なっています。例えばさっきのワイドショーの話もそうですけど、それをやってるのは新聞社系のスポーツ紙だったりするわけですよね。どこもそれは分かってはいるんだけれども、それに代わるビジネスが生み出せないでいるということが一番の大きな問題です。次にどういうニュースを作っていけばいいかということに対して新聞社は責任者がいますけれども、ネット系のメディアっていわゆる編集長みたいな人たちを置いていない場合があるんだそうです。

速水:彼らはそもそも他の報道機関から来たネットニュースを再配信する立場で、その時の取捨選択の責任者すら置かれていない場合があるんですか。

奥村:あるんだそうですね。

速水:ネットの IT企業が作っているメディアと、新聞社のようにニュース自体を作っている会社ととう話が本当は今日の一番のテーマだったんですけども、時間となってしまいましたが、奥村さんには明日もお越しいただきます。明日もどうぞよろしくお願いいたします。