コロナで変わる企業に求められるもの

2020年7月23日Slow News Report



 今すぐ聴く 


速水:Slow News Reportビジネスインサイダージャパン統括編集長の浜田敬子さんとお送りします。今日のテーマは「コロナで変わる企業に求められるもの」新型コロナウイルスでオンラインでの在宅勤務や、時差出勤が認められるようになったり、色々企業にとっては大きな変化がありましたが、これは転換期だという話も以前に番組内でお話ししたと思います。ここでは改めてまたここ3~4ヶ月の働き方の話をしてみたいと思います。


在宅勤務が継続している起業と出社になった記号

浜田:コロナという大きな危機をどう捉えるかが企業によって随分差があるなということを取材を通して感じています。4月、5月と緊急事態宣言下では多くの企業が半強制的に在宅ワークを選択したと思うんですけれども、緊急事態宣言解除後、そのまま継続して在宅勤務を推奨している企業と6月くらいから100%出社という事に戻ってしまった企業があるんですね。従来の出勤に戻した理由を社員の方なんかに話を聞いてみたのですが、あまり合理的な理由があるとは私には感じられませんでした。例えば上司がどうしてもみんなで会って仕事をするのが大事だと言っているとか、経営のトップが会社には出てくるものだと言っているなどというような、割と精神論的なことが大きかったりするんです。もっと言えば、社員の仕事が見えないから上司が不安だと。要は管理、監視しにくいから出てこいといったような、社員を信用していないような企業なんかもあります。一方で日立やNTT グループなどは緊急事態宣言が解除された後も、恒久的に週に2~3日は50%ぐらい在宅のままでいきましょうというようなことを決めている企業もあります。ヤフーはもっと本格的に在宅ワークを残していくということを発表したりしています。この企業の差ってどこから生まれるのかなということを関心を持って取材をしているところです。

速水:つまり上司としては、部下がちゃんと働いているかどうかというのを信用してないということですよね。成果を出すということとは関係なく、サボらずにちゃんと仕事をしているのかみたいなことが仕事の中身よりも未だに重要視している企業があるということですか。

浜田:そうですね。コロナの前からそういった企業体質、企業カルチャーというのはあったと思うんですよ。でもうそういうものはばかばかしい、よりみんなの働きやすい環境にしていきましょうという姿勢があった企業は、このコロナによって変化をうまく捉えて在宅ワークというものを定着させていくし、コロナの前から社員をあまり信用していないような企業はその文化がやっぱり抜けきれず、緊急事態宣言が解除されると同時に「出て来い」となっているように感じます。実はテレビのコメントで「こういった100%出社を強要している企業があると聞いています」ということを発言した時に、実際にそういった企業で夫が働いているというご家族の方から直接メッセージが来ました。自分の夫が6月になったら100%出社しろと言われているが、これは家族から見たら社員の健康や安全に対して配慮がないんじゃないか、もっと言えば社員の家族に対しての安全の配慮がないんじゃないかと、かなり怒りのこもったメッセージが来たんですよ。私は、なるほど企業は今こういうふうに見られているんだと思ったんです。単に働き方の改革とか変化だけではなくて、その社員の人権だったり健康について、この危機をどう捉えているのか。家族も含めて社員の生活を企業がどう守ろうとしているのかという風に見られているということに気づいている企業と、そうでない企業があって、一般の人の方がそのことに気づいてしまったんだな思ったんです。


これからは企業カルチャーが問われる

速水:僕の回りなんかでも、IT系の仕事をしている人たちの中ではリモートワークを実際やってみたら結構うまくいったので、その後も導入しているという友達が何人かいるんですけれども、みんな大きいIT企業なんです。つまりインフラの問題なんかが関係あるのかなと思ったんですが、元に戻そうとする企業の特徴とかってあったりするんですか。

浜田:私が知る限り大企業でも100%出社というのはあります。もちろん大企業だからIT環境は整っているだろうし、いろんな制度も整っていると思うんです。たださっき言ったように、やっぱり企業カルチャーの問題が大きいんじゃないかと思います。例えば残業しないと帰りにくいとか、上司世代には家で仕事をするよりも会社に出た方が楽だというような人たちがたくさんまだいるので、自分ひとりが出てくるんだったらみんなにも出させると。前から上司がいる時に帰れないというような企業はやっぱり残っていて、そういう企業がこの変化にうまく対応できていない、時代の空気を読みちがえているみたいな感じがします。

速水:まさに企業というのはコロナに関係なく変わらなきゃいけないと言いながら、ずっと変わらなかった印鑑文化みたいなものが一つ象徴されるように、企業カルチャーみたいなことがこれからさらに問われる時代になると思いますね。ちょっといくつかメッセージを読みたいと思います「うちは小企業なので自由に選べるんですが、緊急事態宣言解除後から僕はフル出社しています。電車は都営浅草線なんですがいつも座れるくらい空いているので、時差出勤すればわざわざ在宅する必要ないんです。」出社しても一人二人しか会わないという非常に小さい会社で自由があるという会社も中にはあるんでしょうけれども、その中でこの方は空いている路線なので行ってますよということなんですね。これ自由というところが面白いですよね。

浜田:そうですね。やっぱり強要されるということが問題で、例えば自宅のIT環境が悪かったりとか、うちの職場でも若い社員って一人で住んでいるので、住環境が狭かったりしますよね。ワンルームだったりそうすると、やっぱりオフィスの方が仕事しやすいという声もよく聞くんです。けれども、やっぱり自分で働き方を選べていればいいと思うんですよ。問題は一律に強要されるという部分だと思うので。今の若い世代とか、ワーキングマザーは在宅の方がいいと思っている人達の方が多いわけですよね。特にワーキングマザーはこれまで時短勤務を取らざるを得なかったのが、在宅勤務になったらフルタイムに戻せたというような人もいるので、そういった人たちが選べれば、出社したければ出社してもいいと思います。

速水:もう一通読みます。「出勤は週1で、出勤時間は通常より1時間遅くなりました。後はテレビ会議が多くなりました。一方で在宅が増えて社内のコミュニケーションが取りづらくなりました」というメッセージです。デメリットもあるというのが面白いかなと思うんですが、こういうケースもありますか。

浜田:ありますね。うちの職場なんかでも、毎日ランチタイムチャットとというのをやっています。家族がいる人はまだ家の中で喋る人がいますけれども、一人暮らしだとずっと一人で仕事をしなきゃいけないから孤独になりますよね。職場にいたら、わからないことがあっても、ちょっと横の先輩に聞いたりということもできますが、一人で仕事をしなければいけない不安だったりとか、そういうことに特に若手の社員が悩んでいるというのはよく聞きます。ですので、やっぱりマネージメントのやり方が非常に大事になってくるかなと思っています。

速水:ランチタイムチャットってどういうものですか?ちょっとそれ気になるんですが。

浜田: ZOOMでやるんですけど、毎日12時半から1時まで、“ここでやってます”というのがSlack で流れてきて、入りたい人だけ入るんですね。うちは子供にちょうどその時間お昼を食べさせなきゃいけないので、ちょっとバタバタしていてなかなか入れないんですけれども、お昼を食べながらみんなでお話しするみたいな、結構こういうのをやっている企業多いですよ。

速水:やっぱり対面じゃなくなるとどうししても失われるのを補うために、ちょっと工夫をしているということなんですね。

浜田:そうですね。

速水:なるほど。話をちょっと戻すと、例えば来年の就職活動なんかで、若い世代であればあるほどリモートワークに対応している会社に対して関心が高くなりますよね。

浜田:そうですね。採用に直結すると思います。例えばカルビーなんかは在宅ワークを定着させて単身赴任をなくしていこうというようなことを発表しているんですね。他の企業でもリモートで仕事ができるということは転勤ももうしなくてもいいかもしれないということで、若い世代はそういった企業を選びますよね。

速水:なるほど。自分たちの企業はこういうことをやっていますと、外に企業情報を出すのが上手い企業、何も外から見えてこない企業の格差も生まれてきているなあという気もするんですが、まさに後半はそんな話も含めて、海外の状況なんかもお話を伺いたいと思います。海外では、ブラックライブズマターを受けて企業がどういうメッセージを発信するかみたいなことが問われているそうですね。


ブラックライブスマターへの対応が遅れる日本企業

浜田:コロナと無関係ではないと思うんですけれども、アメリカでジョージ・フロイド氏が警察官に殺害されてブラックライブズマターという運動が起きましたよね。あの運動が起きた直後からアメリカのタイムズスクエアにあるコカコーラ等のいろんな企業の看板が真っ黒になって、この運動に対する賛意を企業が分かりやすい形で示していました。SNS の画面なんかも、ナイキとかウォルマートとか本当に多くの企業はすぐに真っ黒にしましたよね。これってただのポーズでしょうと日本人はみるかもしれないんですけれども、やはりまず何か姿勢を見せるということは非常に大事なことだと思っています。アメリカ人の友人から言われたのですが、日本企業はアメリカでこれだけ沢山の物を売っているグローバル企業多いのに、なぜこの運動に対してメッセージを出さないんだというんですね。やっぱりアメリカの企業は非常にそういうところの対応が早いなと感じました。

速水:今回は非常に多くの企業が対応を問われたところがあるんですけれども、その中で批判されボイコットを受けたりする企業なんかも出てきましたよね。例えば大きく目立ったのがフェイスブックですよね。

浜田:フェイスブックはヘイト的な投稿を削除をしないということで人権団体から強く抗議を受けていたんですね。実際にザッカーバーグなど経営幹部は人権団体との話し合いも持って、何らかの対応をするようにということを受けてもやっぱり対応が甘い、遅いということで、今フェイスブック上に広告を載せるのをやめようという企業が相次いでいて、もう500社以上になっているわけです。このボイコットが続くと広告費が当然入らなくなるわけですので、フェイスブックには大きな経済的なダメージになりますよね。広告をボイコットした企業を消費者は見ているわけで、消費者から何らかの行動を起こさないと自分たちの企業がこういったフェイスブックの対応に賛同していると見られかねないという事に非常に敏感になっていると思います。もっと他のテック企業、グーグルだったりアップルだったりはどうかというと、もともと雇用に対する黒人の比率が低いというような批判を受けていたんですけれども、例えばアップルのティム・クックやグーグルのサンダー・ピチャイはこれから黒人の雇用をもっと増やす、彼らのキャリアの支援をしていくとか明言しているわけですね。こういった、単にマイノリティに対する差別に対応するということだけではなくて、こういう企業が、社会課題とか人権の問題にどういう風に向き合っていくんだということを非常に意識しているのは、この背後に、社会問題に非常に敏感なソーシャルグッドネイティブといわれるZ世代のことも意識しているんだと思います。

速水:Z世代という若い20代30代なんかの政治意識の高さ指摘されるんですけれども、民主党の大会に行くよとかという話とはちょっと違うという話を聞いたことがあって、企業の商品を選ぶことが投票よりもむしろ社会を変ええるんだというような感覚なんだそうです。投票行かない人達って、自分の一票は本当に生きているのかというような疑問とかあると思うんですけれども、日々の消費が政治選択なんだというふうに考えを換えてみると、非常に政治に対して身近に意識を高められるみたいなところが新しい世代の特徴ですよね。

浜田:もちろん投票にも行くし、彼らはデモもよくやりますよね。消費者として企業を動かすことで社会を変えるということも熱心にやりますよね。ですので特に彼らをターゲットにしているファッション業界とかはすごく敏感で、例えばファストファッションというのは非常に環境汚染をしてしまうと言われているんですけれども、そういった企業の中では廃棄された果物を素材にして洋服を作ったり、スターバックスなんかはフードロスに取り組んだり、やっぱり彼らの消費行動を意識して企業が変わっていく、そして変わっていった企業をまた彼らが支持するというようなサイクルが出てきているような気がします。


社会問題にどう向き合うのか、企業の姿勢が問われる

速水:僕も気になったのは、ファッション雑誌の有名編集長アナ・ウィンターさんの話なんかが伝わってきたんですけど、「プラダを着た悪魔」のモデルにもなっているアナ・ウインターさんなんですが、編集長としてファッションの仕事をしている中で、黒人のクリエイター達に機会を与えてこなかったのではという批判がネットで炎上していたところがあるんですが、全スタッフに「自分たちの姿勢が間違っていた部分を反省しなくてはいけない」とメールを書き、黒人の編集長を登用したりというような、自分たちのメディアも今起こっていることに対してアクションをする、メッセージを出す、そして体制を変更するということが行われています。これ日本で考えた場合に、人種の多様性みたいなところにピンとこないところもあるかもしれないんですが、女性の雇用問題なんかということに置き換えてみると全然日本の問題でもありますよね。

浜田:そうですね。日本の場合は特に女性に対する差別が大きな問題なので、やっぱり黒人を女性に置き換えてみるとよくわかるかなと思います。女性活躍はもう十分やったよという企業も結構出てきているんですけれども、実際に管理職比率はまだまだ低いという企業も多いですよね。やっぱり社会がどういうことを企業に求めているのかということをもっと敏感に感じて、間違っていれば謝罪して修正していくという力がやっぱり大事かなと思っています。

速水:浜田さん、ありがとうございました。今夜は「コロナで変わる企業に求められるもの」についてお送りしました。