外国人留学生・技能実習生の実態

2020年7月15日Slow News Report



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速水:Slow News Report スタジオにお越しいただいたのはフロントラインプラスの岸田浩和さんです。今日のテーマは「外国人留学生・技能実習生の実態」です。僕らはコンビニのレジをやっているような若い外国人の方々に日常的に接するようになっていますが、とはいえなかなかどういう生い立ちなのかみたいな話って聞くことがないですよね。今日はそういう留学生たちの取材をされた岸田さんにお話を伺います。どういうきっかけで留学生の取材をすることになったのでしょうか。


ブータン要人の子供が日本に留学してバイトを

岸田:2年前なんですが、知り合いからブータン人の留学生が困っているからちょっと相談にのってくれと言われまして、話を聞きに行ったのがきっかけです。その方は現地の大学院を出ていて、お父さんが政府の閣僚級の仕事をしている方なんです。ただ、千葉の語学学校に通っていて、夜はお弁当工場で夜勤のバイトをして寝る時間がないということなんです。でも寮費を払うためにバイトも休めないので困っているんだという話を聞いて、留学生が結構仕事をしているというのをその時初めて,知ったんです。

速水:勉強をしに来る留学生が学費を稼ぐためにアルバイトをするという話は聞いたことがあるんですが、今のケースだと ブータンの非常にお金持ちで学歴もある方が日本でアルバイトをしながらというのがちょっと腑に落ちないのですが。

岸田:政府間のプログラムのようなものがありまして、留学をする代わりにその期間アルバイトも一緒にしてくださいと。それで学費や寮費をまかないますよという、前借りしたお金を滞在中に返すというような、そういうプログラムになっているようでした。

速水:彼らはアルバイトに追われてしまっているのはちょっと予想外だったんじゃないですか。

岸田:そうですね。週28時間までアルバイトが認められているので、コンビニとか新聞配達とか、日本人のなり手が少ない仕事に従事している印象でした。留学生というくくりにはなっているんですが、日本全体で見たときに、働き手として日本人の少ない仕事の隙間を担う役割になっているのかなと思いました。九州のあるお弁当工場を取材したいんですが、求人をしても日本人が来てくれないと。結果的に250人の従業員のうち200人が留学生と実習生というようなところもありました。

速水:特にこういう低賃金労働といわれるような場所というのはなり手がいない。それを埋めているという話ですね。そもそも留学生が日本に求めてきているものとは違うことなわけですよね。


“留学”とはいうけれど…

岸田:そうですね。ブータンで来月日本に行くんだというブータン人にインタビューをしたんですが、彼らはブータンは産業が少ないので、日本に行ってIT とか観光について学んで、ブータンに戻って起業したいというんです。自立して家族を助けて、日本にもブータンにも貢献したいと。ものすごく前向きで前のめりだったんですね。この話を聞いてものすごく申し訳なく感じてしまいました。

速水:申し訳ないというのはどういうことでしょうか。

岸田:実際に日本に来てITや観光について学べるのかというのはちょっと難しいなというのもありましたし、実際には夜勤で日本人のなり手が少ないような仕事を黙々とやるという事実を知って、来る前の期待値と実際に来てからの実情とかなりギャップがあるんじゃないかなと感じました。

速水:彼らはどういう日常を送っているのでしょうか。例えばどんなところに住んでいるのでしょうか。

岸田:留学生にもよると思うんですけれども、2人で一部屋を寮のような形でシェアして住むというような暮らしぶりが多いと思います。我々は日本にいると、日本は賃金が高くて、すごく発展しているという印象がまだ強いんですけど、彼らに聞いてみると、韓国とか台湾とか他のアジア諸国もかなり留学の条件は良くなってきていますし、賃金も日本とほとんど変わらないような賃金が支払われます。そんな中で日本にわざわざ来るというのが、今までよりはどんどん魅力が減っているように感じたんですね。

速水:そうですよね。かつては日本は物価が高い国でした。今観光に来る人たちは、日本は物価が安い国だから来てるんだという、非常にギャップがありますよね。これまでは高い賃金で、日本にいるメリットがあったんだけど、今はメリットという部分はそこにはないわけですよね。
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岸田:どんどんそこは薄くなってきているように感じますね。

速水:何かを得る留学先としても、他のアジアの国、例えば韓国などで学んだ方が得られるものが多い、メリットが多いとなった場合に、日本の労働力を埋めるために留学生を入れているという制度だと、これ持たないということですよね。

岸田:そうですね。だから5年後、10年後にも人が来てくれるのかなというのもありますし、ビザの制度の問題もあって、大学や大学院を出ていると比較的就労ビザに切り替えやすいのですが、語学学校の卒業者は難しい。なので、アルバイトをしながら日本語、日本文化を身に着けてもそのまま日本に残って働くのはハードルが高いんですね。

速水:じゃあ留学を終えたら自国へ帰って行くわけですね。本当だったら、もうちょっとその能力を生かして日本で仕事をしたい人たちもいるわけですよね。

岸田:はい。例えばアルバイト先が、彼は非常によくできるし日本語も話せるようになったからこのまま日本で働けないかと。本人も働きたいと言った時に、ビザの最初の渡航目的と違う職種であると一度帰らないといけなし、再度ビザを取るのは非常に難しいというので、せっかく win-win の関係ができている学生と雇用者を引き離しているような現場を見て、それも不安に感じました。

速水:そんな制度の問題がある一方で、日本で学んだことの満足度みたいなところはどうなんでしょうか。

岸田:ブータン人の学生はもともと英語がペラペラなので、そのまま英語圏に行ったほうが能力が活かせるんじゃないかというのもあるんですね。その中で、わざわざ日本に来て日本語を学ぶ。でも帰国したら日本語を活かして仕事をする場所がそんなにないというので、その辺のギャップもあるんじゃないかなと、難しさを感じています。

速水:メッセージを紹介します「インドはブータンに近いから、ITを勉強しに行くならむしろ日本じゃなくてインドに行ったらどうかな」 という話も頂いています。また、「賃金安いし差別されるし、良い思い出を持って帰ってもらわないと次に繋がらないし、日本から行った人があの時の恨みと言っていじめられる可能性もありますよね」というメッセージもいただいています。留学に来ていただいたんだから、僕らはそこに見合うものを提供できているのか、例えば語学なら語学、大学なら大学のソフトウェアの部分もあるんですけど、思い出となると日常的な僕らとの接点の部分だったりしますよね。海外に行ってよかったと思うのはその国の人と喋って仲良くなったりみたいなことだったりしますが、そんな機会って正直そんなに僕らも体感として感じてないところがありますよね。

岸田:どうしても出稼ぎに来ているという印象で見てしまう部分があって、対等に付き合えているのかなというところがあるので、そこをフラットに付き合っていくというのをやっていかないといけないのかなと思います。


技能実習生の実態

速水:後半は技能実習生のお話をしようと思いますが、まずこの制度について教えていただいていいでしょうか。

岸田:技能実習生というのは外国人が働きながら技術を身に付ける目的で5年間日本に滞在できる制度です。簡単な日本語を勉強しつつ、その専門分野の仕事を少し研修した状態で日本に来て、受け入れ先の企業で実際に働くという制度です

速水:留学生は学びながらアルバイトもしているという人達で、実態としては低賃金労働を引き受けているような立場になっている。技能実習制度も制度の趣旨と実態の乖離があったりするところもあるんですよね。

岸田:そうですね。技能実習ということで、なんかこう技術を身につけるというような名称にはなっているんですが、実際は農林水産業とか製造業、建設業、介護とかですね、日本人のなり手が少ないところで積極的に働いてもらうというような形に今なっています。

速水:岸田さんは北海道の建設会社を取材されたそうですが、こちらはどういう会社なんでしょうか。

岸田:北海道の千歳市にあります久建興業という中小企業の建設会社なんですが、土木建設と足場を組むような鳶の仕事をメインにした会社です。24人のベトナム人技能実習生を受け入れています。ベトナム人の技能実習生というと、とにかく日本の雇用者側がひどい扱いをして逃げ出したとか、そういう暗いニュースが多かったので、実際どうなんだろうということで取材を始めたんですが、本来の目的通りしっかり働いている現場に出会いまして、非常に驚きました。ベトナム人のある一人は、一年目に会社の研修だということでアスファルトの作業の研修に行ってマスターしてきたんですが、一緒にいた日本人よりも習得が早くて、会社の中でベトナム人の技能実習生が一番レベルが上がってしまったそうです。これまで外注業者さんに頼っていたような作業を結果的に自社でできるようになったので、非常に戦力になっているそうです。

速水:それは会社の姿勢みたいなものが関係しているんですかね

岸田:そうですね社長さんが、単純労働だけやらせておけというのではなくて、日本人と同じように研修に送るし、技術的なところもどんどん教えていく、任せていくというような姿勢でやっていると聞きました。

速水:これは本当に良いお手本としての技能実習生の話ですが、こういうケースだけではもちろんないですよね。

岸田:そうですね。一応受け入れの組合というのがありまして、そういうところで賃金はいくらまでというのが定められているんですが、たとえば日当7500円というのが決まっていても、寮費だとか手袋代だとか制服代だとかでどんどん手取りの賃金が差し引かれてしまったりとかですね、本当に単純な作業を延々とやらせ続けたりだとかですね、技能実習生の方がそれが苦で逃げ出してしまったりだとか、パワハラまがいの事もあったりするようです。

速水:建設現場のような色んなノウハウの塊みたいなところで、実際に技能を身に着けて自分の母国に持って帰って応用するみたいなことが行われるのが理想だと思うんですが、さきほどの北海道の建設会社の技能実習生は、実際にベトナムでそれが活きたりするような状況になっているのでしょうか。

岸田:現状では、帰国してすぐそれを使って仕事になるというのはまだ少ないようなんですが、日本の建設会社がベトナムに出て行って事業を行うなど、そういう仕組みを今作っている状況だそうです。

速水:先ほどの留学生の話にしても、日本円の通貨的な優位みたいなものがかつてはあり 、それだけで来てくれる人達がいましたが、もうそういう時代ではないんだよということは言われ始めていますね。

岸田:そもそも自国の産業が伸びれば、今外に出てきているベトナム人であったり、中国人であったり、ネパールの人であったりとか、日本にわざわざ来る必要が無くなってくるというのがひとつあります。現実的に日本の産業は彼らのような外国人なしでは成り立たない状況にあるんですが、あまりそういう扱いではないように思います。ですので第2陣、第3陣とこれから続いてくるのかと考えた時に、他の国の方がいいんじゃないかという風に、どんどん競争力が落ちているんじゃないかなというのは感じます。


外国人を対等な存在としてコミュニケーションを

速水:その中で日本が、制度というよりもっと全体的な文化だと思いますが、こういう留学生や技能実習生でやってくる人たちに何を提供できるのか、みたいなことが問われることになりますよね。

岸田:取材している北海道の久建興業さんは、最初はやっぱり安い労働力を雇えるからというのでベトナムに行ったそうです。でも面接に来た学生が「とにかく人生を変えたいんだ。ベトナムにいたら仕事がない。外国に行ったことがないけど何とかチャンスを掴みたい」というような形で受けに来ていて、そんなに腹をくくってきている彼らを生半可な気持ちで雇えないということで、「わかった。お前ら幸せにしてやるから一生懸命働いてくれよ」ということで彼らと接していると言っていたんですね。結果的にそれでうまくいっているという話を聞いて、結局日本人同士でも一緒だと思うんですけれども、仕事をする上で信頼関係をちゃんともってやるという、そこが今一番まだできてないのかなと思うんです。それさえできれば、お互いによかったというような関係にできるんじゃないかなと感じています。

速水:僕らはどうしても安い労働力としてしか見てない部分がありますが、対等なパートナーだというふうな、コミュニケーションの仕方そのものの問題なのかもしれません。メッセージを読みます「プロ野球に来る外国人選手、助っ人と言われていたよね。インパクトあったよな」 というメッセージです。“助っ人”がそもそも外部からの仮の戦力みたいな考え方ですが、ここら辺も随分変わってきているという気はしますね。今は助っ人外人選手なんていう言い方はしませんよね。それと同じ変化が、いろんな現場で起きているという状況なんかも今日はお伺いすることができました。フロントラインプレスの岸田浩和さんのリポートでした。ありがとうございました。