外国の言語を勉強する意味

2020年6月18日Slow News Report



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速水:Slow News Report今日はカリン西村さんによるリポートです。テーマは「外国の言語を勉強する意味」です。皆さんからもメッセージをいただいているんですが「英語は世界の共通語だから、英語がわかって話せれば世界中どこにでも行けるし、働けると思っていた。子供の頃、中学の英語授業開始時、先生との英語の挨拶の掛け合いをきちんと言わなくて、一人立って言わされたことの記憶恥ずかしさから英語を嫌いになりました。その後なかなか英語を勉強するチャンスもやる気もなく、海外旅行はThank youと大きいお金を出せばなんとかなると思っており、我ながら恥ずかしいです」というメッセージいただきました。大きい金を出せばなんとかなるって、どのくらい出すんでしょうね。今日はちょっといつもとは違ったテーマなんですけれども、なぜ今日は「外国の言語を勉強する」というテーマなんでしょうか。


海外のニュースを現地の言葉で理解する意味

西村:現在はコロナの感染防止対策で海外に行けない状況ですよね。だから外国語はいらないと思ってしまうかもしれないし、外国人もなかなか日本に来れない状況ですから外国人と話す機会もあまりありませんよね。でも逆に今こそ勉強しないといけないと私は思っています。なぜかというと、最近のニュースは国際ニュースが多いじゃないですか。新型コロナウイルスとかBlack Lives Matterとかいろんなニュースがあって、やっぱり他の言語のニュースを自分で読むことができれば、別の角度で幅広いニュースを読むことができるし、考えることができる。だから今こそ勉強しなければいけないと思います。

速水:僕もお昼のワイドショーや報道番組なんかをずっと見ているんですけれども、海外で起こっていることとは別の、日本独自の話をやっていたりします。海外のニュースなんかは CNN を見ているんですけども、日本のとは全く関心を持っていることが違うじゃないかと思ったりします。皆さんずっと家にいる中で、「同じことばっかりやってて日本のワイドショー飽きたよ」という声も多いですね。一方で僕は CNN のワールドの方なんですけれども、よくテレビは見ているんですが、ものすごい文字量が画面の中にあって、iPhone をかざして Google 翻訳を写すと全部の見出しが翻訳されるんですが、かなりとっちらかった話になっていたりして(笑)、逆に混乱したりもします。翻訳ソフトで、それこそ Google 翻訳なんかでは iPhone でかざすだけで写っているものを訳してくれるたりするんですけれども、カリンさんはフランス語のニュース、英語のニュースなど、いろいろ見ている中で、テクノロジーによる翻訳はどれくらい当てになるものなのでしょうか。

西村:フランス語から英語に、あるいは英語からフランス語へはほぼ問題ないと思いますけれども、それはその二つの言語の間に共通性があるから簡単に翻訳できるとんだと思います。ただ日本語は本当に特徴のある言語で、言葉だけじゃなくて文化が表現の中に含まれていると思いますし、微妙な言い方が多い言語です。ですから、まだまだソフトではうまく翻訳できないと思います。

速水:この間麻生太郎さんが「民度が違うんだ」と言いましたが、「民度」ってどう訳すんだろうと思って Google で調べたら、ちょっとこれは違うだろうという言葉で、なかなか訳しにくい言葉もあるかなという気はするんですけれども、カリンさんは今こういう風にラジオで日本語を話されていますが、母国語はフランス語、そして取材の中で英語お使いになると思うのですが、これまでどんなふうに外国語を勉強されてきたのでしょうか。

西村:最初は中学校からドイツ語を勉強しました。なぜかと言うと、フランスではほとんどの人が英語を選ぶので、ドイツ語はクラスの人数が少ないんですね。ですので、しっかり勉強できるという戦略だったんです。でも7年ずっとドイツ語を勉強したのに、全く使う機会がなく、今は何も残っていないんです。その後、大人になってから日本に来て日本語を勉強したんですけれども、日本語はほぼ独学です。

速水:じゃあ日本語を勉強されてから日本に来たわけではないんですね。

西村:最初来た時は、英語を話せれば大丈夫だと思っていたんですが、実際に来てみたら無理でしたね。しかも日本の文化は自分の国との共通点が全くないので、日本語を勉強しないとこの国で生活はできないから早く勉強しなければと思ったんですね。

速水:日本人が極端に日本語以外の言語ができないとはいえ、サッカーの久保建英選手なんかは、10代の頃からスペインに行くと決めて、12歳でスペインに行った時にはもうペラペラでしたし、必要に迫られると習得できるというところがあると思うんですが、カリンさんの場合も、日本に来て日本語が必要になって勉強されたということですね。ちなみどうやって日本語を勉強されたのですか。

西村:毎日日経新聞の短い記事をひとつ選んで、全ての漢字とか書き方を確認するんです。だから最初は経済のことや難しい専門用語を知っていたんですね。日常生活では困っている所がありましたが、「赤外線」とか技術用語は日常的に使ってたんです。今もそんな問題が残っています。例えば子供と話す時に、長男から何か言われても、「え?何?」となりますが、安倍総理大臣の演説はわかるんです。

速水:普通は日常生活の言葉から覚えるんですけれども、専門的な用語の方を先に覚えてしまったということなんですね。先ほど、文化が言語の表現の中に含まれているという話をしましたが、今だと「Black Lives Matter」ですね。この言葉を日本のメディアがどう解釈したかみたいなことって、まさに文化の理解の問題ですよね。


Black Lives Matterをどう日本語にするか

西村:ほとんどのマスコミはBlack Lives Matterは「黒人の命も大切」と翻訳していますが、私はやっぱりちょっと違うんじゃないかと思いますね。例えば英語ではそもそも“も”はないんですね。ですから「黒人の命を無視できない」というほうが意味が近いんじゃないかと思いました。

速水:なるほど。Matterという言葉自体が単純に訳せるものではないし、しかもこの言葉自体にその国の文化、歴史感みたいなものが含まれていますよね。例えば黒人を呼ぶ言い方はたくさんある中で、“ブラック”という言葉が使われている意味ですら、やっぱり英語圏の人たちとニュアンスが違うし、そういう意味ではアメリカ国内に限らず世界的に広がっているBlack Lives Matterという言葉はフランスではどう捉えられているんでしょうか。

西村:やっぱりフランスでもアメリカのようにいろんな事件が起きていて、警察からの暴力、特に黒人やアラブ系の人に対する暴力とかの問題があるので、フランス人にとってBlack Lives Matterの運動は肌で感じる問題ですね。日本人にとっては、普段あまり黒人の姿を見かけないので遠い問題かもしれませんね。

速水:そうですね。ポップカルチャーとして入ってくるものとしては馴染みがあるけれども、自分たちの日常に毎日黒人がそばにいるという感覚では全然ないですもんね。

西村:フランスの場合は、例えば小学校から大学までずっと黒人のクラスメイトがいますし、実際に差別されているところも見たこともあります。だからBlack Lives Matterというのは、本当にフランス人にとっては重要な問題です。


「郊外」という意味

速水:メッセージを読みたいと思います。「確かに他国のメディアを原文で読めたらいいなとは思う」「私はできれば中国語を学びたいです。仕事柄、中国語の方と商談が多いですが、商談中に目の前で中国語で話し合い、例えばなんとか安くならないかなとか喋っているんだろうと思いますが、いつか分からないふりをして、しれっとギャフンと言わせたいな」というメッセージをいただいています。僕も中華料理屋で回鍋肉を頼んだら、中国人の店員たちが中国語で「回鍋肉ってキャベツ入れるんだっけ?」っていう会話をしていたのを見たことがあります。うちの奥さんは中国語が話せるのでわかったんですけれども、後半も文化と言語ということでお話を伺いたいと思います。今、レコード会社が使っていたアーバンミュージックという音楽のジャンルを変えるなんていう話が出てきています。これちょっと日本のツイッターなんかでも話題になったんですが、僕らは「アーバン」というと都会的という感じで、この半蔵門の窓から見える丸の内の光景みたいなものがアーバンだと思っていたら、「アーバンミュージック」といった場合は黒人音楽を意味していて、しかもそれは、黒人が住んでいるスラムみたいな意味も含めての「アーバンミュージック」ということなんです。僕らが持っているアーバンのイメージとはずいぶん意味がかけ離れたものになっているそうなんですね。

西村:それは言語の問題の良い例だと思いますね。同じ単語であっても全く意味が違ってしまう。しかもフランスはまた違う意味なんです。フランス語でurbainっていうんですが、それはそもそも「町」という意味を持つ単語ですが、ただ「urbain musique」といえば、フランス語では違う意味です。郊外で生まれた音楽で、それは黒人の音楽に限らずそこで住んでいる人、白人もアラブ系も含めて、全員がそこで考えた音楽という意味です。パリ郊外は割と貧しいし、社会問題の多いところで、そこでその問題について語る音楽、それがurbain musiqueです。5年以上前からも最も人気のある音楽です。

速水:基本ラップミュージックと考えていいんですか。

西村:もちろんそもそもラップなんかが多かったんですが、シャンソンに近いものもあります。素晴らしいんです。私も大ファンです。

速水:英語であればmetropolisが都市で、黒人音楽のアーバンミュージックといった場合のurbanはスラム、さらに都市郊外といった場合suburbiaという概念があり、それは白人の中流階級のイメージになったりするんですが、フランス語だとBanlieueも郊外という意味ですよね。例えば映画で「憎しみ」という邦題ですが、マチュー・カソヴィッツ監督の作品で、貧しいパリ郊外を舞台にした、まさに人種差別をテーマにした映画がありますね。

西村:はい。しかも警察の暴力の映画ですけれども、Banlieueっていうのは、もうひとつの特徴があるんです。それは言語にも関連性があるんですが、彼らはBanlieueで自分の言語を作ったんです。だからurbain musiqueの中で、フランス語でも英語でもない言語が出てくる。私はBanlieueに住んだことないですが、そこで彼らが経験していることは彼らの音楽で分かるんです。もう本当に勉強になります。でもある程度勉強しないといけない。その言語、彼らが使っている単語はフランス語とはまた違う文化です。

速水:なるほど。僕は団地の研究をしていて、日本の郊外にある団地というのは、1950~60年代に中流階級が住む場所として憧れの場所だったりしました。先ほどsuburbiaという話をしましたが、アメリカの中流階級で、一戸建てのちょっといい暮らしをしている人だったりするんですけれども、国によって郊外という場所が、住む階層も違うし、そこからくる文化も違うんですね。例えば日本なんかでも近年話題になったのは、川崎のBAD HOP というグループ。工業地帯で貧困から出てきた音楽で、いわゆるアメリカのブロンクスみたいなものって、日本にはそんな格差も無いし、街から出てくるストリートミュージックみたいなものも無いと思っていたんだけど、実はあるんだよという話を、磯部涼という音楽ライターが取材したりという、そんな状況も生まれてきています。カリンさんはジャーナリストとして、日々いろんな多言語を日本語へ翻訳する際に苦心している部分ってたくさんあると思うんですが。


「よろしくお願いします」をどう訳す?

西村:毎日悩んでますね。特に日本の政治家の演説や言葉をフランス語で記事を書くときに、どうやって翻訳すればいいかって本当に難しいです。だからこのテーマを今回提案したんです。もう本当に、毎日取材しながら言語の問題がいろいろあって、例えば日本で使われている英語から来た言葉が違う意味になっちゃうんです。「ハラスメント」もそうですが、そんな言葉は多いですね。あとは「よろしくお願いします」とか、言葉よりシチュエーションの状況を翻訳しないといけないものもあります。だから毎日毎日本当に大変です。

速水:なるほど。このコロナ禍に出てきた言葉なんかで、 Social Distance なんて言葉も社会的と訳してしまうと何のことやらってなってしまうところありますよね。

西村:そうですね。これは物理的のディスタンス、距離ですけれども、ディスタンスはあまり使わない方がいいと思います。

速水:そのまま訳しちゃダメというものは日々増えていきますね。今夜は外国語の言語を勉強する意味についてお送りしました。