北朝鮮のテレビ・スマホ事情

2020年6月17日Slow News Report



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速水:Slow News Report昨日に引き続きアジアプレスインターナショナル大阪オフィス代表石丸次郎さんにお話を伺います昨日は。南北共同連絡事務所爆破という反響の大きいレポートだったんですが、新しい情報は入っていますか。


南北共同連絡事務所爆破の北朝鮮国民の反応

石丸:南北共同連絡事務所を木っ端微塵に爆破する映像が今日出ましたけれども、それについて北朝鮮の国内の人はどう受け取ったのかというのことを、北朝鮮国内の取材協力者の一人に聞いてみました。取材協力者は10人ほどいて、中国国境に近いところでは中国の携帯電話が繋がるんですが、取材協力者とはそれで連絡をとっています。その中の一人、私達の取材協力者になってざっと3年ほどで、中国国境に近いところに住む40代の女性に聞いてみました。彼女とは月にだいたい10回ほど何らかのやり取りをするんですけれども、意外にも彼女は今回の北朝鮮政府の強硬策は、まあ仕方がないんじゃないか、十分理解できるという反応だったんですね。彼女の言葉によると、2018年から南北で対話が始まって、いろんな経済協力についても進めていこうと話していて、会談していた時はすごく雰囲気が良かったのに、何もないじゃないかと。その上、我が最高尊厳である金正恩氏を馬鹿にするようなビラを撒いているというのは許せないと、ちょっと意外な反応でした。

速水:北朝鮮の一般の市民の方々はそういう声だったとしても、情報提供者の方というのはもうちょっと中立なのかなと思いきや、今回そうではないということなんですね。

石丸:彼女は私たちと日常的にいろんな話をしているので、韓国や日本の情勢、世界の情勢を知っていて、十分に自分たちの置かれている客観的な立場をわかっている人なんですね。ところがそういう人でも、韓国に対してすごく不満を持っているんです。その理由というのは、おそらく経済がいまガタガタで、特にコロナ以降本当にしんどい状況にあって、それは韓国がちゃんとしてくれないからじゃないかと。その上に最高尊厳である金正恩氏を批判するようなビラを撒かれたのだから、これはやり返さなければ仕方がないじゃないかということなんです。

速水:昨日は韓国でもよく知られている金与正氏が前面に出てきた理由なんかも聞いたのですが、北朝鮮の中での金与正氏の評価はどうなんでしょうか。

石丸:それも興味深かったので聞きましたら、「最初は幹部達もあの何も知らず経験もない若い女性に何ができるんだというような反応だった。特に兄の金正恩氏がこれまで築いてきた色んな成果を台無しにするんじゃないかと言っていたのに、なかなか男よりも度胸があって決断力があるんじゃないか、とみんな言い出している」と言うんです。北朝鮮当局としては、今回の一連の対韓国強硬策を国内結束を図るのに利用し、成功した部分があるんじゃないかなと、話を聞いてそう感じました。


インターネットに繋がらないスマートフォン

速水:わかりました。ここから今日の本題、北朝鮮のメディア、スマホ状況みたいな話を伺いたいのですが、一つメッセージを読みたいと思います。「北朝鮮のスマホはどんなアプリがあるんだろう。LINE みたいなアプリもあるのかな。金正恩スタンプとかあったら笑える」 というメッセージ来ていますが、そもそも北朝鮮にスマホがあるという話は聞いたことあるんですが、実際にどのレベルのものがあるんでしょうか。

石丸:アジアの中では非常に遅れてですが、北朝鮮も2008年の12月から携帯電話サービスを始めました。機械は中国メーカーに作らせたものを輸入しているんですけれども、それが進化して、今はスマートフォンが一般的です。ただしインターネットには一切繋がりません。

速水:ちょっと待ってください!?インターネットに繋がらないスマートフォンって矛盾しているような気がするんですが…

石丸:つまり国内のイントラネットをだけなんです。

速水:外国とつながっていない、独自のネットみたいなことですね。

石丸:そういうことですね。外国とは電話も一切できないし、メールもやり取りはできないようになっています。私たちもとても興味津々だったので、最新機器3台を取材協力者に秘密裏に中国に送ってもらって、日本まで届けてもらいました。それでいろいろ分析をしたのですが、これが想像していた以上によくできているんです。日本製、韓国製と比べると速度もちょっと遅いですけれども、アプリも多様だし、ゲームが入っていた、り動画もできるしメッセンジャー機能もついているんです。

速水:ハードウェアは中国のメーカーに作ってもらっているとのことですが、ソフトウェアの開発なんかは独自にで行っているんですか。

石丸:実は北朝鮮はソフトウェア開発にものすごい人とお金を投資していて、結構開発に力を入れてきたんですね。国内、それから中国に派遣してソフトウェア開発を独自でやっているんです。ただやっぱり北朝鮮のお国柄といいますか、例えば英語とか中国語の語学学習アプリなんかは、まず最初の画面に書いてあるのが金日成主席のお言葉だったり、金正日氏の語学学習に対するお言葉から始まったりするんです。それから動画も外部世界から影響を受けないような、例えば中国の武術の動画が入っていたりします。また、これも北朝鮮らしいと思うのは、一応マイクロ SD カードを入れることができるようになっているんですけれども、日本で写真などを入れたカードを差してみても一切受け付けないんです。これは消去されますという画面が出るんですよ。

速水:ちゃんと外から持ち込んだものを排除する機能を備えているんですね。

石丸:やっぱりこれは、アラブの春で携帯がものすごい威力を発揮したのを恐れて、しっかり対策をとっているんじゃないかなと思います。

速水:北朝鮮のスマホは首領様の言葉が入っていたり、あくまでもプロパガンダの中でということなんですね。一通メッセージを読みたいと思います。「国内のみのネットワークって…そして普及率はどれくらいなんだろう。貧しい国民もいるから、そんなに普及しているイメージがないので」 というメッセージ頂いていますが、実際スマホはどれくらい普及しているんでしょうか。。

石丸:いわゆる携帯電話サービスの加入者が去年の末に600万を超えたんですね。北朝鮮の人口はざっと2000~2500万ですから、25%前後なわけで、なかなか速いスピードで普及しています。

速水:思ったより多い気がしますね。

石丸:経済状況を考えると、早かったですね。そして、端末は200ドルから600、700ドルするんですよ。しかも外貨で払わなきゃいけない。

速水:これを払える人たちというのは、やっぱり限られてくるということですよね。

石丸:そうなんですよ。ところが携帯って、私たちが使い始めた時もそうですけど、携帯がなかった時代ってどうやって暮らしていたのと思うくらいもう定着して当たり前になりましたよね。北朝鮮でも同じでですね、商売で利用する人たちなんかは、他の地域の値段とか品薄なものは何かとか、そういうものを知るために活用しているということで、もう都市部の人にとっては本当に必需品になりつつあると思うんですね。


北朝鮮のテレビ多チャンネル化の背景

速水:なるほど。そして北朝鮮のテレビ事情についてもお伺いします。我々が北朝鮮のテレビ番組で知っているものといえば、民族衣装を着た女性の、あのニュース番組ですね。あの方は国民的なニュースキャスターだと聞いたことがありますけれども、北朝鮮の人々もご覧になっているんですよね。

石丸:北朝鮮のニュースが紹介される時によく見ますが、桃色のチマチョゴリを着た彼女は名前をリ・チュヒさんといいます。北朝鮮でも非常に有名なアナウンサーで、もう70代後半です。彼女はピンク色のチョゴリということで、北朝鮮のピンクレディーと言われたりしますけれども、ただ彼女が出ているその朝鮮中央テレビというのは、北朝鮮の人達には非常に不人気なんですね。プロパガンダや指導者の宣伝ばっかりで、全然面白くないから、もう見もしません。しかも北朝鮮国内の報道というのは、北朝鮮の国民からも嘘ばっかりだと思われています。そこで2000年代半ばころから、韓流ドラマの海賊版が中国を通して大量に北朝鮮に入ってくるようになりました。これがものすごい感動の嵐を呼びました。韓国ってこうなっているのか、自由な世界ってこうなっているのかと、新しい外部情報に接して皆さん本当に熱狂したんですね。これは北朝鮮当局にしたら見過ごせない事態です。敵国韓国の情報がどんどん入ってきて、民心が韓国に傾くという現象が実際に起こってしまいました。
それで取締りを厳しく始めましたけれども、ところが人間の好奇心ってなかなか抑えるのは難しく、取り締まる警察官とか政治警察とか役人もごっそり見ているわけですよ。没収して自分で見ているということもあるんです。

速水:韓流ドラマ「愛の不時着」にまさにそんなシーンがあるんですけど(笑)本当なんですね。

石丸:本当なんです。それで北朝鮮当局は取り締まりの一方で、国内の映像コンテンツの充実化に向かいます。面白くない朝鮮中央テレビのニュースばっかりでは駄目だということで、デジタル放送を始めて多チャンネル化します。現在チャンネルは四つあるんですが、一つは万寿台テレビといいまして、これは中国とかロシアとか東ヨーロッパの映画が多く、外国のニュースも流します。それから 竜南山テレビという、これは教育チャンネルですね。それから体育テレビ。体育テレビというのは、サッカーなんかの国際試合を、ちょっと時間経ったものを流したりしています。特に外国の情報を流す万寿台テレビというのがいちばん人気があって、古い外国の映画が多いんですけれども、他にも外国で起こった悲惨な事件事故や、洪水などの天災のニュースを流しています。これは外国もこれだけしんどいんですよということを言いたいんだと思いますが、それを見て北の人達は服装とか食べているものに注目するんです。外国の人達ってどんな暮らしをしているんだろうということにやっぱり関心があるんでしょうね。それをデジタル化で4チャンネルが見れるようなチューナーを販売をしていまして、なんと社会主義を標榜する北朝鮮でも視聴料を取るようになりました。

速水:それまでは娯楽というのは国がタダで提供するものだったのに、今は対価を集めているということですね。

石丸:年間で76円ぐらいですから安いんですけれども、お金をちゃんと徴収して映像コンテンツを提供すると。それで韓流ドラマに対抗するということが今起こっています。


情報の流入で北朝鮮に民主化は起きるのか

速水:いやあ、めちゃめちゃ面白い話ですね。外の情報に触れる情報の自由化というのは民主化を呼んでしまうんだけど、あんまり統制が取れたニュース番組だけだとつまらなくて抑えきれないみたいな、娯楽をめぐるせめぎ合いが今まさに北朝鮮で起こっているわけですね。映画とかスポーツとかって隠れたメッセージがあったりして、これで民主化してしまうような流れになる可能性ってどうでしょうか。

石丸:北朝鮮の人たちは77年間ずっと世襲政権のもとで、本当に人権を無視されて生きてきました。だから民主化してほしい、改革をしてほしいという思いは非常に強いんですね。だから韓流ドラマにもすごい反応するわけですけれども、それはやはり体制にとっては恐ろしいものですので、情報流入は何があっても止めなきゃいけないということで、今年に入ってから、韓流ドラマの流入に対してはかつてない厳しい取り締まりをやっています。

速水:どれくらいの罰則があるんでしょうか。

石丸:韓流ドラマを販売したり、あるいはコピーを作ったりする人はもう政治犯扱いで、懲役5年とか10年ですね。韓流ドラマを見ただけで半年から1年間くらい短期の就業施設強制労働させられます。だから皆さん怖くてなかなか見られないんですが、それでも若い人はどうしても見てしまうという、いたちごっこが続いています。

速水:僕なんかも、「だけど見ちゃう」という気持ちはわかるけど、それだけの厳罰を対価として払えるかというとちょっとその…重いなぁというね(笑)

石丸:「愛の不時着」もそのうち入っていくと思いますね。

速水:まだ新しいほやほやのうち見てほしいな(笑)

石丸:感想聞いてみたいですね。

速水:アジアプレスインターナショナル大阪オフィス代表石丸次郎さんにお話を伺いました。今日は非常に興味深い話ありがとうございました。