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速水健朗

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そのダムいったい誰のため?

2020/5/26 (火)21:00
2020年5月26日Slow News Report


速水:Slow News Report 今日はフロントラインプレスの記者 笹島康仁さんです。今日は「そのダムいったい誰のため?」というテーマでお話を伺います。

笹島:僕はダムを見るのが元々好きで、それで取材が始まった経緯があるのですが、ダムって結構面白いポイントがあって、そこに住んでいた方、住んでいる方々が、一生懸命その地域の歴史とか文化を残そうとしているんですね。例えば岐阜県に日本で一番大きな徳山ダムというすごく大きなダムがありまして、ここでは30年前にダムの底に沈んでしまった村があったんですが、何とかして沈んでしまった村の文化を残したいと住民の皆さんが盆踊りやその地域の因習などを一生懸命後世に伝えようとしているんです。そうすると現代ではなくなってしまったような風習が、今も30年前のまま残っているものを見ることができるという、結構ニッチですが、そういう楽しみ方もできると思うんですね。

速水:地域性を残そうとする動きがダムと関わっているんだというところがスタート地点ということなんですが、今日テーマにしようとしている場所は長崎県川棚町川原地区、住民およそ50名、世帯数にして13世帯という非常に小さな集落ですが、どういった経緯で取材を始めたんですか?


50年前に計画された小さな川の小さなダム

笹島:取材の過程で、今もダム建設をしようとしていて住民が反対しているダムがあるよという話を聞いて、それで取材に出かけたのが最初です。まず驚いたのは、実はとても小さなダムなんですね。皆さんダムって想像すると黒部ダムとか八ッ場ダムのようなすごく大きなダムを想像すると思うんですけれども、川棚町で作られようとしている石木ダムはすごく小さなダムなんです。どれくらいかというとだいたい黒部ダムの1/40くらいの大きさですね。黒部ダムが2 L のペットボトルだとすると、だいたいヤクルトの容器よりちょっと小さいくらいという大きさです。また、ダムといえば山奥のイメージがあるかもしれないんですが、川棚町という街の中心部から大体車で5分ほどという、すごく町に近い場所です。川の大きさもだいたい川幅が5~6m、狭いところで2mくらいだったりするので、ぱっと見は小川というイメージですね。

速水:ダムって目的としては治水であったり、川の氾濫を防ぐためというもの、飲料用に水道を引くようなダムもありますが、こちらのダムに関してはどうなんでしょうか。

笹島:ひとつは「利水」といって、もっと水を使えるようにダムに蓄えておくという目的。もうひとつは、洪水が起きた時に下流が氾濫しないように治水目的のために造るという、大きく分けて二つの目的があるんだと長崎県は説明しています。

速水:このダムは計画がそもそもかなり昔ということなんですけれども、どのくらい前なんでしょうか。

笹島:50年くらい前に計画があって、それからずっと住民が反対をしています。一方で、長崎県は造りたいということで交渉を続けているという長い歴史をもつダムになります。数年前からアウトドアメーカーのパタゴニアさんが石木ダムに反対している住民の皆さんに協力したり、意識を変えようというキャンペーンが始まって音楽家の坂本龍一さんや加藤登紀子さん、いとうせいこうさんのような著名人も加わって、「このダムは50年も経ってるんだからもう一度考え直した方がいいんじゃないか」というような運動が広がりました。2年前には映画にもなっているんですね。


50年経ってもまだ必要とされているのか

速水:この地区の住民の方々はどういう声を上げているんでしょうか。

笹島:ある方は、もう50年も経っているんだから今更必要ないだろうと言ったり、書類上自分の土地ではない田んぼを毎年耕したり田植えをしている方がいて、これは自分たちの田んぼだから、変わらず田植えの作業を続けているんだというお話をされていたのがとても印象的でした

速水:ここに住んでいる方々はどのくらいダムの建設に反対しているんでしょうか。

笹島:もう50年以上反対運動が続いていますので、今ここに住んでいる13世帯約50人の方は、絶対にこの土地を離れないぞと思っている方々ですね。

速水:ということは、元々13世帯の集落だったわけではなく、もっと人が住んでいる場所だったのがダムに沈むという話の中で減っていって、その地に残った人々に取材をされているということですね。

笹島:そういうことですね。


誰に必要とされているダムなのか

速水:その方々以外の人々には、このダムは必要とされているのでしょうか。

笹島:これはとても難しい問題があって、やっぱり必要だという方々は川棚町や隣の佐世保市にはいますし、あるいはもともとこの川原町区に住んでいて、泣く泣く土地を手放した方もいるんですが、そういう方々は、今このダムが中止になったら何のために土地や家を手放したのか分からないという憤りの声も聞くことがあります。

速水:これは時間が経てば経つほどこじれていくような気もしますね。




私たちが住み続けている限り遅くはありません。土地も取られ、家も取られてしまった今だからこそ、川原地区、川棚町民、佐世保市の皆さん、長崎県民の皆さん、そして全国の皆さんの知ってもらえるチャンスだと思っています。
知事の一声で行政代執行ができてしまう今だからこそ、人としてのあり方、石木ダムは本当に必要なのか、ちゃんとした説明はされているのか、河川課長の発言はどうだったのか、問うていくときだと思っています。



笹島:このスピーチは、石木ダムが建設されようとしている川原地区の住民の一人で松本好央さんという方のものです。ダムを造るのでこの土地はいつでも県のものにできますよという行政代執行のタイミングが去年の11月にあって、その時に川棚町で開かれた集会での発言です。

速水:今の発言の中の“河川課長の発言”とはどういうものだったのでしょうか。

笹島:昨年すごく台風の豪雨災害があったと思うんですが、長崎県の河川課長がこういう自然災害を念頭に、「石木ダムを進めていく追い風だと思っている。この機会を活かさなければならないんだ」というような発言をして、とても問題になったんですね。僕自身は祖母が郡山に住んでいて、去年の10月の台風の時にとても大変な目に遭っていたので、いくら長崎県からしたら正しいことだとしても、ちょっと言い方があるんじゃないかと思いました。亡くなっている方もいるのに、それが追い風だと言ってしまうことに対してすごく不安を感じたのを覚えています。

速水:確かにダムがあったからこそ防げたケースもあったかもしれませんが、これは個別のケースだし、被害者もいる話で直接結びつけていいのかというところが、論点として説明して頂いてわかったような気がします。ただ非常に難しい部分は、後で正しかったとわかるダムもあるし、何が正しいのか分からないかもしれないということですね。


不信のきっかけとなってしまった覚書

笹島:確かに必要なダムもあると思うんですね。長崎県が言っていることもある程度理解はできるんですけれども、どうしても住民が反対してしまうきっかけになったものがあると思っていて、それは住民の皆さんが繰り返し訴える覚書というものなんですね。それはどういうことかというと、50年前に計画が立ち上がった時から住民の皆さんはすごく反対していました。長崎県はこれではもう工事は進められないので、住民の皆さんの文書での同意がなければ工事はこれ以上進めませんよというようなことを文書に残したんです。長崎県知事のサインもしっかりあります。しかし80年代になって、知事が変わったタイミングで強制的に川原地区に入って調査をして工事を進めているというような経緯があり、これがきっかけで住民の皆さんは行政のことは信用できないと、かなり頑なになってしまったと感じています。

速水:それもすでに30年前で、そこからお互いのやり取りはどうなっているんでしょうか。

笹島:住民の皆さんは公開討論会の場で広くダムの必要性について聞いていたり、一方で長崎県のほうは、もう集団では話せないからそれぞれ個別に一対一の場でならいつでも話すということで、この平行線が続いているように感じます。この覚書について、長崎県は「これは法的な拘束力がない文章なんだ」という主張をしているんですが、もし自分が住民だったら、長崎県知事が同意を得るまで工事を進めませんよと署名をしていたら、やっぱり信じると思うんですね。それを法律的には意味のないものなんだと言い出したら、やっぱり人々は政治家や行政のことを何も信用できなくなってしまうと思うんですよ。だから一度長崎県はこの覚書の時点に戻って、もう一度住民のお話をしっかり聞いていくということしかないんじゃないかと取材をしていて思います。

速水: 30年、50年も経てば、かつてとは条件が色々変わってきているわけじゃないですか。人口も減っているし、人口が減れば水を必要とする人たちの数も変わっているわけです。その辺は、世代が変わっても行政が言っていることを見直すというようなことって今までないんですか。

笹島:その点を住民の方々は繰り返し訴えていて、佐世保市自体が人口が減っている、工業用水もたくさん使うわけではないし、水の需要は落ちている。だったら別の方法があるんじゃないかとか、あるいは治水についても河川堤防をしっかりしなきゃいけないよねとか、アメリカではダム決壊による大変な災害が起きていますけれども、ダムがあることによって起きている災害もあるんだから、もっと総合的に考えなきゃダメなんだという意見も出ています。

速水:コンクリートから人へということがよく言われる中で、ダムは大規模なお金がかかる公共事業の象徴になっていて、これが反対運動の旗頭になっているところがありますね。一通メッセージを読みます。「ダムの思い出。もちろん治水のために必要なものだとわかりながら、なんか子供時代見たドラえもんとかダムになるから自然が壊されるみたいな悪役イメージがある。一方で黒部ダムとか観光としても素晴らしいものもあるけど」という両義的なご意見です。笹島さんのように外から見ていて、行政の意見も聞き、地元の人たちの意見も聞いている中で、両者のコミュニケーションが進んでいく可能性はあるのでしょうか。

笹島:とても難しいことなんですが、ダムを造る上で、人の土地を強制収容するということは今まで起こっていないんですね。ですので、行政の側がぐっと引いて、話を聞いていくということしかないんじゃないのかなと僕は思っています。

速水:ちょっと意外だったのですが、ダムに沈んだ村みたいなものってドキュメンタリーなんかでもよく見るんですけれども、行政代執行が行われて住民が反対したままダムが建設されてしまった村というのは今までなかったということなんですよね。

笹島:そうですね、ありませんでした。

速水:何かしらの折り合いをつけてから実際のダムの工事に着手したという歴史がある中で、この川原地区のダム建設の話はどう進むと思われますか。

笹島:住民の方が気にしているのは、いつ強制収容されてしまうのかということです。ただ、今はすごく注目が集まっているので、長崎県もあまり強い事はしないだろうと思っています。ですので、このいろんな人が見ているタイミングでなんとか行政と住民との対話が進んでいってほしいなと考えています。

速水:何かしら一歩先に進むということよりも、話し合いの場みたいなことがどのような形で開かれるのか、その辺も今後注目していきたいと思います。笹島さん、ありがとうございました。


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