内部告発者のその後

2020年5月12日Slow News Report


速水:Slow News Report 今日はフロントラインプレスの本間誠也さんとお送りします。今回は「内部告発」」について取り上げます。本間さんが内部告発の取材をされているのはどういうきっかけがあったんでしょうか

本間:私は新聞記者の時代から大小を問わず公共工事の談合や公金不正の流用、虚偽公文書作成など、不正を内部通報者の情報を端緒にして取材し、記事にしていくということをメインにしていた時期があったものですから、2006年に法律が施行された公益通報者保護法が広く定着してほしいという思いと、勇気ある内部告発者、通報者のその後の人生が良いものであってほしいという思いで取材を続けています。


せっかく内部告発をしても…

速水: 2006年に法律が施工されて、その後内部告発が話題になるような事件がたくさんありました。しかし、その内部告発者がその後どうなっているかということに関して、僕らは関心を失ってしまうところがあります。そこを本間さんは見てきているということですが、実際に「内部告発なんてするもんじゃない」というような後悔に終わるケースも多いそうですね。

本間:少なくないですね。日本の社会は内部告発や内部通報に対して否定的な意見が強いですから、周囲が内部告発者、内部通報者を温かい目で見ているかどうかと言ったら、それはなかなか厳しいところがあります。

速水:本間さんが取材している実際に扱った事例なんかを伺ってよろしいでしょうか。ミートホープの食肉偽装の事件を追いかけていると伺ったんですが。

本間:四年前に内部告発者の人を取材したんですけれども、内部告発なんてするものではないという無念さを込めて話してくれました。正義感から内部告発をしたものの、それによってミートホープという会社が潰れてしまい、社員は当然職を失いますし、取引先にも多大な迷惑をかけてしまったわけです。ミートホープというのは北海道の苫小牧にあった会社なんですけれども、告発をしたのはあの人だとか、あの人のせいで職を失ってしまったとか、やはりそうゆう噂、人の目もありました。
このケースは商品の品質の偽装ですから、最初に農林省の北海道の出先機関に内部告発をしました。行政機関が行政処分をちゃんとしてほしいという思いで内部告発をしたんですけれども、行政機関が全く動かなかったものですから、最終的に某新聞社に内部告発をして、それが一面のスクープになりました。会社の幹部がやったと新聞で書かれますと、それは数人しかもういないわけですよね。そうしたら結局自分の自宅にテレビの中継車は来たりして、大騒ぎになりました。この内部告発は、消費者側からすればよくやってくれたという声がある一方、「あの人のせいでこんな迷惑を被った」「ミートホープの取引先としてやっていたのに告発のせいで経営が傾いてしまった」とか、やっぱりいろんな利害関係者がいるわけです。そういう人たちの厳しい目があったり、いろんな重圧がこの内部告発者の人に 押し寄せてきたんですね。それが家族との関係にも波及したそうです。


法律はできたが…

速水:ミートホープのケースは消費者にとっては非常に重要な告発だったわけですよね。ただ告発者は守られなかった。これは今後、社会にとってもかなりのマイナスですよね。

本間:そういうこともあって、社会にとって有益な通報をした人を守ろうというのがこの法律の主旨だったんですけれども、日本の場合は言葉だけに終わってしまう部分がりました。法律の文言では公益通報者保護とうたっていますけれども、実際に内部告発、内部通報した人からすると、これのどこが保護なんだという思いの人はいっぱいいます。そういう声を取材してきました
公益通報を保護する制度としていちばん進んでいるのはアメリカだと思います。アメリカと日本が違うのは、内部通報をされた会社はその社員を左遷したりとか解雇したといった不利益な扱いをした場合にはちゃんと罰則もありますし、そういう場合に自分はこんな扱いを受けましたと訴える行政機関がちゃんとあるんですよ。日本では訴える場所がないので、時間とお金をかけて民事訴訟で争うしかないんです。しかし、会社にいながら会社を相手取って裁判闘争をするなんていうことは、普通の人間にはとてもできるものではない。そういうことを強いているんですよ。

速水:ほかにも告発者が理不尽な仕打ちを受けるケースは多いそうですね。

本間:自分は正義だと思って、こんな不正を社内でやっているのは許せないと会社の公益通報を担当するセクションに言った結果、「あいつがそういう事をチクってきたんだ」と周囲にバラされて、直接の上司から罵倒され、人事評価は最低をつけられて、仕事が何もないような職場に追いやられたというような事例は少なくはありませんね。

速水:制度だけではなくて、通報する窓口が企業内にもあり、その担当者も慣れてないのもあるし、通報者を守るんだという意識すらない。制度も守ってくれないし、企業のシステムをも守ってくれないというわけですね。

本間:一部上場企業でしたら9割はそういう内部通報の受付窓口を設置してはいますが、その会社の論理で仕事をやっていて、第三者的な立場でその情報を受け取れていないんだと思いますね。ひどいところでは社内の不平分子を洗いだすための組織じゃないのかみたいな受け止め方をしている人もいましたね。


外部に通報するという選択肢も

速水:リスナーのみなさんからもたくさんのメッセージが来ています。「本当は今内部告発をすべき人ヒーロー予備軍が永田町方面ではたくさんいると思うんだけどな。変なものを出しにくい環境なんだろうな。内部告発がしにくい環境って何なんだろう」他にも「もし内部の不正を見つけたら職場の同僚には相談せず、外部の協力を得ると思います。同僚が不正に加担していたり、密告する可能性もあるので、証拠を慎重に集めて弁護士などの協力を得てから告発します。しかしクビになるリスクは覚悟しなければいけませんよね。」という意見も貰っていますが、外部の弁護士と相談してから告発するというのはどうなんでしょうか。

本間:公益通報には3種類ありまして、一つ目が会社内部にある内部通報担当窓口に内部告発すること。二つ目は、ミートホープのケースでは農林省でしたけれども、所管している役所にこの会社がこんなことをやっていますと言う。三つ目がメディアに通報するということなんですけれども、行政機関やマスコミに通報するのは一応外部通報と言っていまして、社内の担当セクションに通報するの内部通報と言ってます。先程のメールのご意見では、弁護士さんと相談してということですが、弁護士さんにサポートしてもらって管轄する行政機関に通報した場合は、行政機関もケツを叩かれて動くんですよ。一般の人間が行政機関に内部告発をしても、「無駄な仕事を持ち込んだな」ということでそんなにいい顔はされないんですけれども、弁護士がサポートしてくれるとそれは結構動くかもしれません。あとマスメディアに通報した場合は、基本的に誰がこの情報をくれたのかというのは一切しゃべりません。ですので、信頼できるメディアに内部告発をするというのはひとつの選択肢だと思います。

速水:本間さんも新聞記者時代はそういう対応をされていたと思いますが、そこはやっぱり気を使う部分なわけですよね。

本間:それは最大限気を使います。そういう内部告発があった場合も、いい話を取れたらすぐ記事にするというのではなくて、「これを表に出したらあなたが疑われるかもしれないけれども、それでもやりますか」と、そこまで念を押した上で取材を進めます。メディアに携わっている人間はみんな同じ意識だと思います。


社会が公益通報者を守るという意識を

速水:なるほどもう一通メッセージを読みたいと思います。「メディアにも問題があると思う。通報した人を取材しちゃいけないんだよ。ワイドショーなんかでね。」ていうツイートを頂いていますが、これはおそらく先ほどのミートホープの告発者に取材が殺到してしまったという話を受けているのかなとも思うんですが。

本間:ミートホープの場合は、行政機関が告発を取り上げてくれなかったので、メディアに知らせた段階で、自分が表に出ることは覚悟されていたんで、それはある程度仕方がなかったのかもしれないとは思います。けれども本当に自分の名前を一切出さないでくれといった場合には取材がその人に及ぶことは100%ないと思っております。

速水:そこはジャーナリストのプロである以上最低限のルールだというところですね。色々メッセージをいただきましたが、全般的には「会社の窓口は信用できるのかな」であるとか「日本の社会のあり方自体の問題として難しい」という意見が多いようですね。

本間:それは難しいと思いますね。けれどもやり方はあります。自分の社内の自浄作用を信用できる場合は、ちゃんと社内の担当セクションに通報するのがいちばんいいとは思いますが、信用できない場合は慎重を期して、匿名で外部通報すれば、それを受け止めてくれるところはちゃんと受け止めてくれるはずです。

速水:これは告発する人だけの問題ではなく、社会全体がそれを受け止めるんだ、守ることがプラスなんだということの共通認識みたいなものが必要だというのが、今日のお話でひしひしとと伝わってきました 。本間さんありがとうございました。

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