ドキュメンタリーの見方、見つめなおします

2020年5月7日Slow News Report



速水:Slow News Report今夜のテーマは「今夜はドキュメンタリーの見方見つめ直します」。今日のパートナー伊藤詩織さんは映像ジャーナリストというところもあってお話を聞きたいのですが、最近ドキュメンタリーで話題になるものが多いですが、周りでたくさん見ていらっしゃるそうですね


日本と海外のドキュメンタリー作品の違い

伊藤:そうですね。最近「タイガーキング」の話を聞くんですけれども、ものすごくクレイジーなドキュメンタリーがあるようということで日本の友達も話題にしていました。

速水:僕はまだ全部は見ていないのですが、トラを飼っている物騒なおじさんが2018年に
殺人依頼であるとか動物虐待で捕まっているんですが、犯罪ドキュメンタリーで、非常に今アメリカで話題になっている作品なんですよね。こうした海外のNetflixのドキュメンタリーは僕も結構見たりしていますが、地上波のテレビなんかでも非常に多くのドキュメンタリー番組をやっています。例えば、NHKの「ドキュメント72時間」。ある場所にずっとスタッフとカメラがいて、そこに来る人をずっと眺めているみたいな番組が非常に人気があったり、「プロフェッショナル」「情熱大陸」「ザ・ノンフィクション」なんかはみなさんもよくご存知だと思いますが、そういうように日本のドキュメンタリーもたくさんあります。あと東海テレビなんかが今ドキュメンタリー映画をたくさん撮っていて、「さよならテレビ」なんていう話題作もあります。そして今日たくさん取り上げていきたい海外作品もあるんですが、日本と海外のドキュメンタリー作品は何が違うのでしょうか?

伊藤:海外のドキュメンタリーは、どちらかというとエンターテイメント性が強いものもあって、本当にいろんな年代が楽しめる作品が多いのかなと思います。映画作品も多いですし、それを映画館に見に行くということも、私の友人の中では多いんですけれども、まだ日本ではそういった習慣はあまりなかったり、ドキュメンタリーの番組もすごく限られているのかなと思いますね。

速水:社会の裏側とか社会の闇みたいなものが割と定型的なドキュメンタリーのテーマになっているのが日本の皆さんにはおなじみの「ザ・ノンフィクション」だったりしますよね。あと警察の「警視庁24時」みたいなものもあります。そんなイメージに比べて、おそらく今の世界のドキュメンタリーはもっと多様になっていて、それ自体がエンタテインメントになっているような作品もあって、そこのギャップみたいなものが非常にある気がします。日本のものが悪いとか、海外のものだけが面白いとかいうことではないと思うんですが、いろんな作品を取り上げながら進めていきたいと思います。まず伊藤さんの方からおすすめ作品を一つ上げて頂いていいですか?


「メイキング・ア・マーダー 殺人者への道」

伊藤: Netflixには、ドキュメンタリーの映画だけではなく、先ほどの「タイガーキング」のようなシリーズものがありまして、「メイキング・ア・マーダー 殺人者への道」は2015年からスタートしたシリーズなんですけれども、監督は10年かけてこの1シーズンを取っています。スティーブン・エイブリーさんという男性が、身に覚えのない婦女暴行事件で有罪判決を受けて18年間服役した後に DNA 検査で無実であることが分かってその後に釈放されたんですね。けれどもその2年後に違う殺人事件の第一容疑者になり逮捕されてしまい、終身刑を言い渡されるんですが、素晴らしいなと思うのは捜査を受けている映像、捜査員と話している映像だったり、裁判での映像が残っているんですよね。日本ではなかなか同じように作ることができないと思うんですけれども、警察が証言の強要をしていたんじゃないのかということを匂わせるような映像もあったりして、見ている方がこの事件の行方を追っていく、そんなドキュメンタリーなんですよね。

速水:なるほど。例えば日本では、宮崎勤事件であるとか、オウム事件であるとか、テレビが再現 VTRを使って事件のあらましを追うドキュメンタリー的な情報番組を流すことはあるんですけれども、事件の記録として残っているのは動画ではない。事件に関する捜査の模様が映像で残っていることと、テキストしか残っていないことの意味の違いは非常に大きいということですよね。

伊藤:やっぱりその現場の捜査がどのように運ばれていったのか、どのような言葉が使われていったのか、どんな雰囲気だったのかというのは、映像を通して初めてわかるものだと思うので、これはすごく面白いですね。


「FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー」

速水:映像だから訴えられるもの、それが映像ドキュメンタリーの強さだと思いますね。今度は僕の方からひとつご紹介します。Netflixで昨年公開されて話題になったものなんですけれども、「FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー」というドキュメンタリー作品を取り上げたいと思うんですが、これはバハマの無人島を買い取って、そこで夏フェスを企画するという、実際に起こった話をドキュメンタリーにしたものです。非常にドタバタなんですよね。インフルエンサーや有名人、セレブ達を集めた非常に豪華なパーティーが企画され、実際に開催されるまでのドキュメンタリーなんですが、プライベートジェットで送迎され、豪華コテージに泊まれる夏フェスという触れ込みだったのが、ボロボロの飛行機で連れてかれるし、行った先にあるコテージは全然豪華じゃなかったり、出演予定のアーティストが来なかったりという、実際詐欺に問われるような幻のFyre Festivalをクリス・スミス監督が撮ったドキュメンタリーです。これは現代の問題みたいなものを すごくクリティカルに描いている部分があって、参加している人達というのも、みんなSNSで人気者のインフルエンサー達なんですよね。彼らが自分たちも VIP に扱ってほしいという、インフルエンサーたちのエゴみたいなものが、騙した側だけでなく騙された側にも抱えている問題があるということが描かれていて、エンタテインメントなんですよね。ある種の詐欺事件なんだけど、どんどん状況を変わっていくものを映していくというリアルタイムな面白さというか、SNSの中でみんながそれを伝えながら、どんどん狂っていくという様が映し出されている。映像によって、こんなコテージがボロボロなの!?みたいなところが面白さとなっています。では、伊藤詩織さん、次の作品もう一本ご紹介していただけますか。


「いのちの食べ方(Our Daily Bread)」

伊藤:私が高校生の時に見てすごく影響を受けた映画なんですけれども、「いのちの食べ方(Our Daily Bread)」というドキュメンタリーでして、これはひたすらにただただ映像を見せられる。そこにはナレーションも音楽もなくて、屠殺場であったり、様々な食品が作られていく工程が映し出されていくんですよね。すごく今でも頭から離れないシーンがあって、それは真っ白なエプロンをつけた屠殺場のおばさんが真っ赤な血をかぶりながら、普通にお昼ご飯を黙々と食べているというシーン。すごく衝撃的でしたね。そこにんな説明がなくても、見ているだけで「いのちの食べ方」ということを考えさせられる作品だったなと今でも覚えています。

速水:食関連のドキュメンタリー作品は名作が多いような気がしますね。「スーパーサイズ・ミー」という、ずっとマクドナルドのハンバーガーを食べ続けるドキュメンタリーとか、ある種生活に一番近いものだからドキュメンタリーの題材として豊富なのかもしれないですよね。

伊藤:私もアメリカの食育の授業で何回も「スーパーサイズ・ミー」見せられたのを覚えていますね。

速水:僕は今ので思い出した「フード・インク」というドキュメンタリーがあります。いわゆるアメリカで大量に食料用のチキン鶏を育てている、まさに工場みたいなところがどういう場所なのかということを描いているものです。24時間とは違うサイクルで光を当てて早く成長させる様子なんかを見せていた映画を思い出しましたね。先程詩織さんが言っていた「娘は戦場で生まれた」も非常に面白そうだったなと思ったんですが。


「娘は戦場で生まれた」

伊藤:それは去年観たドキュメンタリーの中で一番記憶に残っている作品なんですけれども、シリアで撮られたものですね。これは女性の監督が、戦場の中で自分の日常、恋愛、結婚、出産を写して、自分でドキュメントしていくんですよね。そういった戦場での日常って、やっぱり本人しか撮れないですし、本当に貴重なドキュメンタリーで、なかなか報道でも見れないコミュニティの日常見せてもらったなということがすごく記憶に残っています。去年でいちばんおすすめのドキュメンタリーですね。

速水:今、ドキュメンタリー関連って非常に盛り上がっていて、例えばアカデミーのドキュメンタリー作品なんかも、今はまだ日本で公開される機会があまりなく、見過ごされていた部分があると思うんですが、割と今はネットでも見れるし、先程の「いのち食べ方」もu-nextで配信中ということで、見る機会自体も非常に増えているんですよね。

速水:そうですねアカデミー賞を受賞している作品はやはりNetflixの作品がかなり多いですね。最近では「イカロス」というドーピングのドキュメンタリーですね。あれも、ご自身でドーピングを試すという実験ものから、取材先のロシアの方がスキャンダルに関わっていたっていう凄い展開になってしまったというドキュメンタリーですね。

速水:国家に追われる存在になってという、作品の中でどんどん自分が置かれている状況が変わっていくみたいなものも含めて、題材以上に自分がドキュメンタリーの中心になってしまうみたいな作品「イカロス」も Netflix のオリジナルドキュメンタリー映画ですね。まだまだ紹介したい作品はたくさんたくさんあって、お互いがかつて最初に影響を受けた作品なんかの話もしたかったんですが、思っていたよりも時間が早く進んでしまいました。また改めて第二弾をやってみたいと思います。伊藤詩織さん、ありがとうございました。


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