夜空に人工の流れ星が流れる日

2020年5月6日Slow News Report


速水:Slow News Report 今日はフロントラインプレスの木野龍逸さんとお届けします。木野さんは記者としてこれまでどんな取材をされてきたんでしょうか?

木野: 25年くらい前から次世代車といわれる電気自動車とかハイブリッド自動車などを中心に取材をしてきたのですが、10年前の3.11の後に原発事故の関係の取材に集中をして、その後はずっと原発事故や災害関係の取材を中心にやっています。

速水:今回レポートしていただくテーマは「夜空に人工の流れ星が流れる日」なんですが、どういうきっかけで取材されるようになったのでしょうか?

木野:ずっと自動車関係を取材してきた関係で、技術系の取材が多かったこともあって、人工流れ星というものがあるということを耳にしたのがきっかけです。ただ流れ星というだけではなくて、 色々と周りに面白い話題がありそうだなということで取材をしました。


人工流れ星の正体

速水:流れ星を人工的に作り出すというのは具体的にどういう方法で行われるのでしょうか?

木野:人工衛星からいろんな物質を混ぜた小さい2センチくらいの合金を打ち出して、それを光らせるというやり方なんですね。詳細に関してはまだ秘密ということで詳しい話は教えていただけなかったんですけれども、例えば小さい玉を秒速300メートルくらいで正確に打ち出すと、都心でも目で見える明るさになるということでした。

速水:メッセージが来ているんですが「人工流れ星。言葉こそ知っていましたが技術的なことなどは知らなかったので調べてみました。科学技術の進歩に貢献する記述が多い一方、 リスクもゼロではないという記述も見られます。メリットだけではなくデメリットについても教えて」 というメッセージをいただきました。環境的なデメリットみたいなことも想定されるのでしょうか?

木野:今回の人工流れ星で使う小さい玉は、大気圏の中に入るところで完全に燃え尽きてしまうので、そういう意味でのデメリットはゼロと言っていいと思います。
人工流れ星をやっている会社にはいろいろな専門家の方が関わっているのですが、 その中にははやぶさのプロジェクトに関わっている人もいます。はやぶさが大気圏に入ってくる時に明るくパァーッと光りましたが、 あれも一種の流れ星なんですけれども、それを観測してどうなるとああいう光が出て、 何が光っているのかということを分析している人もいました。そういう意味ではとても科学的な部分を含めて興味深い話があると思いました。


研究とエンタメの両輪で

速水:そこら辺がおそらく木野さんが興味を持った部分だと思うのですが、宇宙で面白いことをやろうというだけでなくて様々な技術知見の融合として最先端のテクノロジーの分野として注目できる事柄であるということですね。

木野:そういうことだと思います。宇宙開発というと夢を追いかけるとか、1円にもならないことをどうするんだみたいな話になりがちなんですけれども、基本的には基礎科学みたいなところの基礎研究なので、今回はそれに加えてエンターテインメントとして流れ星を流す。それに合わせて、人工流れ星を流すことで大気圏の上の方宇宙と大気圏の間のところで何が起こっているのかということを解明してビジネスに結びつけようみたいな話もあるんです。その辺はとても興味深かったですね

速水:いわゆる国家的なプロジェクトみたいなことではなくて、中小企業が参入するようなものづくりの延長にあるような世界なんですね。

木野:そうですね。今回紹介する人工流れ星を作るALEという会社も10年ちょっとしか経っていない会社です。宇宙に必要なデバイスが小型化とかされたり電子技術が発展することで、そういった中小企業が参入しやすくなっているという背景があるようです。そういう小さい会社が色々出てくるのは見てると面白いと思いますね。

速水:その中で具体的に気になった企業は他にもありますでしょうか?

木野:宇宙には使い終わった人工衛星とか事故で壊れてしまった衛星の破片とか、いわゆる宇宙ゴミと言われているものなんですけれども、これが今1万数千とか2万くらいあると言われています。こういうのを掃除する会社で日本人が社長をやっている会社があるんです。アストロスケールという会社なのですが、もちろん新しい会社なのですが、資金は150億円くらい集めています。そういうことを見ると、非常にこれからどうなるか、色々参入してくる人が多いのは面白いですね。


速水:人工流れ星についていろいろメッセージを頂いています「本気で研究するのなら、これをエンターテイメントにはまずしないと思う」という疑問なんかもありますが、人工流れ星はエンターテイメントなわけですよね?

木野:エンターテインメントというのはもちろん楽しみとしてはあると思うんですけれども、 それだけだと意味がないというか、お金にもならないですね。でも、きちんと基礎科学をやる意味で、大気圏と宇宙の間にある中間圏というところには未解明のところも多くあるのですが、その部分の解明をすると気象変動などについても分かるのではないかというところもあるみたいですね。

速水:そこを解明することで得るものが沢山あるし、逆に言うとエンターテイメントで皆さんに注目していただけると、研究費もそれなりに集められる。そういうバランスの中で進んでいるということだと思うのですが、人工流れ星の開発に取り組んでいるベンチャー企業ALEの岡島礼奈代表にお話を伺っています。

「大気の50~100キロの中間圏とよばれる所に流れ星を流すという次世代のエンターテインメントを提供することで、ここのデータが取れるんですね。私たちはそのデータが取れるというところで、流れ星というプロジェクトを進めてきたというところもあります。この中間圏が気候変動や異常気象の解明といった事に非常に強く影響があるということが分かっていまして、そこの解明に使えるというのが大きなところなのですが、我々としてはエンターテインメントと両輪で走るものだと思っています。そしてもう一つ、使い終わった我々の人工衛星自体を巨大な流れ星にしてしまおうと考えていて、EDT(Electrodynamic Tether =導電性テザー)と呼んでいるのですが、そういうデバイスを今作っているんですね。それは JAXA さんと共同で行っています。使い終わった人工衛星の軌道を落としてくるシステムなんですけれども、これから打ち上げる人工衛星が宇宙ゴミになるのを防止するために使えるということが分かっていて、れをやっていこうとしています。」

速水:ALEの岡島さんについても教えてもらえますでしょうか。

木野:岡島さんという方は非常に変わった経歴をお持ちで、東大で天文学をやられていて、その後にゴールドマン・サックスという投資会社に入るんですね。そこでお金がどういうふうに生まれるのか、とどういうふうにお金を生んだらいいかということを踏まえつつ、その後、人工流れ星の会社につなげていくという、非常に長期的で戦略的なやり方をしてきた感じがしますね。

速水:サイエンスへの関心だけではなく、ファイナンスもちゃんと回していくんだという所が岡島さんの面白いところですね。そして使い終わった人工衛星を流れ星にするお話なんですが。


人工流れ星の技術が宇宙ゴミの問題を解決する

木野:人工衛星本体は宇宙をフラフラしていると大変問題になるので、数が増えるといろんなやり方で落とす。それをうまい具合に落とすと人工流れ星的な光り方ができるということもあるのかなと思うんですね。

速水:これはいわゆる人工流れ星の話だけではなくて、今は宇宙空間上に人工のゴミがいっぱい浮かんでいて、これがこれからの宇宙開発行う上でのネックになるということを聞くことがあるんですけれども、それも解決できるということをですか?

木野:先ほどのアストロスケールという会社が、まさにそういう人工衛星を処理するということを通じて、宇宙開発をさサスティナブルにしていくということを狙っている会社なんですね。ALEの方でも、先ほど岡島代表が言っていたように EDTという新しい技術を使って人工衛星を落としてしまおうということをやっています。宇宙開発をする上で、まず場所をきれいにしようということですね。

速水:EDTをもうちょっと分かりやすく言うとどういうことなんでしょうか?

木野:僕が取材した時はまだ公になってなかった話なんですけれども 人工衛星に何キロもあるような長い導電性の紐をつけて、宇宙空間をその紐がふらふらすると磁場の中で電気を流してやるとある方向に力が働くので、その力を利用して人工衛星を落としてしまおうという計画らしいんですね。とても壮大な計画なんですけれども、これからのビジネスの芽としては非常に有望と考えたんだと思います。


下町ロケットが現実に

速水:Twitter なんかでもメッセージが来ています。「下町の日本の工場みたいなところが、それこそ中小企業が人工流れ星を作る下町ロケットみたいで夢があります」ということなんですが、イメージとしては下町というよりベンチャーの感じかもしれませんが、やはり有望なんでしょうか?

木野:だと思います。今回のALEに協力している企業も、大企業というよりは小さい中小企業で独特の技術を持っているところが多いようなんです。そういう会社は大量生産をするのではなくて、一品物を作っていく会社。まだまだ日本には根強い力を持っているところがいっぱいあるので、そういうところが協力して、見たこともないものを作っていくという、下町ロケットみたいな形が本当にできたらいいなと思います。

速水:他にもたくさんの反響があるんですけれども、「儲からなきゃ研究できないって世知辛いですね。宇宙なんて、飛び出すだけで何千万も払うセレブがたくさんいるくらい夢があるのに、地球と宇宙の隔たりの解明が出来たら、その技術、女性との隔たりが突破できない私にも転用できるのかな」 というメッセージです。これはすごくお金がかかる話ですが、ベンチャー企業にも届くくらいの額になっている、現実的なところに来ているというところが大きいんですかね

木野:もちろんデバイスが小さくなれば、そのぶんコストも下がってくるとは思うんですけれども、一方である程度のお金は必要で、先ほどのアストロスケールとかメールのような会社に投資をするベンチャーキャピタルとか投資会社が出てきているので、それはビジネスとして有望なんだなというふうには感じます。

速水:お金を集めて、それが気候変動や地球全体の新しい取り組みにつながっていくかもしれないというところ。そこは非常に重要な分野だと感じました。木野さん、人工流れ星はどんなシチュエーションで見るのがいいのでしょうか?

木野:まぁ言ってしまえば男性諸氏が考えていることと同じだと思うんですけれども(笑)今みたいに家にずっとこもりきりのなかでも、もしかしたら家からちゃんと見えるような場所に流れ星が流れると、それはそれで楽しいかなとも思いました。

速水:そして隣には自分のパートナーがいるといいかもしれませんということも付け加えておきたいと思います。今日は人工流れ星の話フロントラインプレス木野龍逸さんにお話を伺いました。木野さんありがとうございました。


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