シエラレオネのFGM(Female Genital Mutilation)=女性器切除をめぐる問題

2020年4月30日Slow News Report



シエラレオネの通過儀礼FGM

速水:ここからはSlow News Reportです。今日は伊藤詩織さんによるリポート「西アフリカ シエラレオネの通過儀礼、FGM(Female Genital Mutilation)=女性器切除をめぐる問題」をお届けします。シエラレオネはなかなか聞き覚えのない国だと思うんですが、どんな国なんでしょうか?

伊藤:シエラレオネは大西洋に面している国で、シエラが山、レオネがライオンという意味です。ライオンが座っているような姿の山々がある国です。本当は今月シエラレオネに戻ってこの FGM女性器切除について取材をする予定だったのですが、このような状況になって保留になってしまっています。最初にシエラレオネに行ったのは、エボラ出血熱があった時です。学校が2年間閉鎖になって、その時に子供たちがコミュニティに留まったことによって性暴力の被害に遭うケースがぐっと増えてしまったんです。その後に学校が再開したのですが、妊娠した女子生徒は学校に通ってはいけないという禁止令を政府が出してしまったんですね。そのレポートをしに行ったのが2018年でした。

速水:FGM女性器切除という問題に出会ったきっかけは何なのでしょうか?

伊藤:性暴力の被害者に子供や若い女性がすごく多かったということで、いろいろ取材を進めていく過程で、シエラレオネの9割の女性が通過儀礼としてクリトリスや外陰部を切除されてしまうということが起きているということを知りました。それは通過儀礼なので、それをされると一人前の女性として見られるということなのですが、それが性暴力に繋がっているんじゃないかということが気になったのが取材をしたきっかけです。

速水:その通過儀礼は、その民族的でずっと歴史的に続いてきた風習ということなんでしょうか?なぜ女性器を切るのでしょうか?

伊藤:この女性器切除というのは、シエラレオネでは宗教とは全く関係ありません。世界的にも現在2億人以上の女性が経験していると言われています。イギリスでもそういったケースが確認されていて、アジアではマレーシアやインドネシアでも確認されていますので、アフリカだけの問題ではないんですね。そのようなことが行われる一つの理由としては女性の貞操を守ることがあると言われています。切除だけではなくて、中には女性器を縫い付けてしまうということもあります。医学的な根拠はありませんから、切除されることによって出血多量であったり、そこから色々な病気にかかってしまって亡くなってしまうケースもあります。それに体が傷つけられるだけではなく、体の一部を切り取られてしまうという強い恐怖が心の傷としても残り続けてしまうということもあります。


シエラレオネで立ち上がる少女たち

速水:そんな状況の中、二人の少女に取材をされたそうですね。

伊藤:彼女達に会ったのはシエラレオネの首都フリータウンというところだったんですが、一人は5歳の時に強制的に女性器切除を受けさせられて、もう一人は拒否して受けなかった故にマイノリティになって、いじめられてしまった女の子です。そんな二人が同じ地域に住んでいて、仲良しなんですけれども、自分たちの次の世代にこんな経験をさせたくないということで色々な方法を探りながら、自分たちの友達などに、FGMをしない方がいい、そんなことしなくてもあなたは十分なんだよということを伝える活動をしています。彼女達にはラジオ番組を作りたいというアイデアがあるんです。FGMは農村部に多いんですけれども、そういったところはテレビは普及していませんし、識字率もとても低いということで、ラジオが一番重要な情報源なんですね。そんな中で、周りから反対されながらも色んな試行錯誤をしている姿を追いかけている最中です。

速水:それは僕たちが日本でラジオをやるというのとは意味がずいぶん違うと思うんですが。

伊藤:FGMという通過儀礼は、女性のシークレットソサエティの中で行われるので、男性も実はあまりFGMについてよく知らなかったりもしますし、かなりタブー視されたトピックなんです。それをラジオで話すということは本当に難しいことで、私自身も経験が重なるところがありますが、タブー視されている性暴力の問題を自分の出身の場所で話すというのはすごく難しいんです。そういったことを私も海外のメディアを通じて、色々な見方をしながら伝えるということを学んだので、今回は彼女達のラジオ制作をサポートして、見守りながらその姿をドキュメンタリーとして記録して、シエラレオネ以外の人にもこの状況を分かっていただけたらなと思って一緒に進めています。

速水:彼女たちは自分たちの状況やFGMのことを外部に伝えようとしてメディアを作っているわけではなく、自分たちの内部コミュニティの中でそういうことが伝わっていないことを危惧してラジオを作るということなんですね。

伊藤:そうなんです。特に農村部ではFGMを受けていなければ村八分になってしまう、そこで生きていられなくなってしまうというケースがありますので、「受けなくてもあなたは大丈夫」というエンパワーのメッセージを届けたいということなんです。今、プロトタイプを色々作っているんですけれども、どうしたらそれを流してもらえる放送局にたどり着けるかというところで、彼女たちは今いろいろと頑張ってます。

速水:ちなみにその状況を取材するのは簡単にできるものだったんでしょうか?

伊藤:元々FGMのトピックについてカバーするのも難しいですし、外部の人間がこのことについて首を突っ込むということが本当に難しいかったんですけれども、今年の1月に”切らない通過儀礼”ということをスタートした地域がありまして、そこを取材させていただけることになって、私もその儀式に参加したのですが、そうやって少しずつオープンにはなってきているのかなという気はします。


FGMはシエラレオネだけの問題ではない

速水:一方で、女性はこうでなければいけないみたいな、社会の根本に根ざしているプレッシャーみたいなものは日本にも多くある問題ですが、これがベースにあるのかなという気がしたんですが。

伊藤:そうですね。今回のこのドキュメンタリーの途中経過をヤフーで出しているのですが、それを見てくださった大学生の女の子が言っていたことが印象的でした。「FGMをされたことはないけれども、精神的なFGMを今まで受けてきた気がする」と言っていたんですね。確かに私たちは体の一部を切り取られるといった儀式はないけれども、でも「女性だから」「男性だから」ということで型にはめられてしまう社会的な圧力って日本にもありますし、シエラレオネだけの問題ではないですよね。

速水:さきほどシエラレオネの二人の少女の話をお伺いしましたが、例えば法律を変えるとか、そういった可能性はあるんでしょうか?

伊藤:実はエボラ出血熱が発生した時点でFGMの禁止令が出ていて、それが解除されていないので一応まだ禁止令が続いているんですけれども、それでも止まっていないという現状があります。先ほどもお話ししましたが、これはシエラレオネだけではなくて、例えばイギリスでは1985年に法律が制定されたんですけれども、去年初めて有罪になったケースがあったんですね。やはりプライベートゾーンの中で行われることなので、なかなか周りが気づかないし、子供のうちに家族内で行われてしまうので、子供が外部に助けを求めることは難しいですよね。法律ができたとしても、やはりその習慣だったり、考えが変わらなければなかなか解決するのは難しい問題です。このイギリスのケースは、3歳の女の子の母親が有罪となったのですが、被害者の3歳の女の子にとっては、体を傷つけられるし、母親も一定の期間失ってしまうという、ダブルの問題がありました。

1月に”切らない儀式”に参加した時、一週間ジャングルの中で60人くらいの女の子達と寝泊まりをしたのですが、根性試しみたいなことが次々と行われていて、中には唐辛子を目に入れなければいけないだとか、そういったことも行われていました。そこで植え付けられるのは、上の女性に従わなくてはいけないということ。根本的に女の子を若いうちにコントロールしようという背景があるのかなと感じました。

速水:ちょっとこれ全然レベルが違う話なんでしょうけれども、暴力という言葉で言うと、ヤンキーコミュニティの根性焼きってありますよね。仲間内で自分たちの強さを見せるというようなものって、実は昔から人間ってあまり変わらずやっている部分があるのかなと思いました。共同体の問題という意味では、大小はあれども根っこは一緒なのかなと感じました。伊藤さんの目から見て、今後シエラレオネが変わっていきそうな部分ってありますか?


情報を発信することの大切さ

伊藤:先ほど紹介した、”切らない”と決めた女の子になぜそう思ったのかと聞いたら、FGMの後に亡くなってしまった女子生徒のニュースをラジオで聞いてそう強く思ったということがあって、やっぱりそういった情報が共有されるというのは本当に重要なことだと思います。私が儀式に参加した時、実はマラリアになってしまったんですけれども、倒れるまで外に出れなかったんですよね。今自分で話していても不思議なんですけれども、共同生活の中で、やっぱり頼れるのは権力を持った女性で、その中に入ると従わなければいけないんです。彼女たちからしかご飯ももらえないですから。だから、逃げようと思えば逃げられたはずの外部の私でもそこにとどまってしまったということを思うと、そこに住んでいる女の子達には他の選択肢がないという場合に、どうやったらそこから逃れられるんだろう、社会の中でどうしたらいいのだろうということを考えました。だからこそ何気なく聴いている歌の中であったり、ラジオの中でそういった情報が少しでもあると、新しい考えが生まれるきっかけにはなるのかなと思っています。

速水:なるほど。そこでこれから生きていかなきゃいけない人間が、その中で何かを発することの難しさってわかる気がします。そしてもう一つ気になることとして、今のシエラレオネにはコロナウイルスの影響は出てたりするのでしょうか?

伊藤:今の時点では110件以上のケースが報告されていて、4月の初めに2件のケースが発覚してからシエラレオネは三日間のロックダウンを実施したんですね。それほど医療環境も整っていない中で、エボラ出血熱の教訓もあるのか、すぐに対応をしたということがありました。私たちは医療環境が整っている先進国できっちりと止めないと、そういった医療環境が整っていない国々に大きなしわ寄せがいってしまうというのはすごく感じていますね。


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