ジャーナリストの紛争地取材どう見るべきか

2020年4月16日Slow News Report


安田純平さん旅券発給問題について

速水:Slow News Report。今夜はカリン西村さんによるリポートです。テーマは「ジャーナリストの紛争地取材どう見るべきか」。シリアで武装勢力に拘束され2018年10月に解放されたフリージャーナリストの安田純平さん。帰国時には政府に迷惑をかけたというバッシングが強くあり、自己責任論話題がにもなりました。安田純平さんは今、パスポートの発給を拒否する国を相手取った裁判を東京地裁に起こしています。その3月3日の初弁論で次のような意見陳述をしています。「拘束中も帰国後も様々な事実誤認やデマ、ヘイトによる誹謗中傷が続いています。今でも「死ね」といった内容の匿名のメッセージやメールが送られてきます。そのため私は家族と安心して過ごせるよう、海外旅行を計画し旅券の発給を申請しました。しかし私の申請は外務省によって拒否されました。こちらの公判初弁論にカリンさんも出席されていたそうですがいかがでしたでしょうか?

西村:東京裁判所は意外と小さいところで行われているんですね。ジャーナリストも含めて、思ったより傍聴に来た人が少なかったんです。それはびっくりしました。注目されてると思ってたのにそうではなくて、私以外にプレスの席には一人しかいなかったんです。日本で大きく報道されませんでしたね。

速水:そんな安田純平さんの現状を含め、ジャーナリストの紛争地取材をどう見るべきかという話していきたいと思うんですが、こちらカリンさんは、安田さんと同じようにシリアで武装勢力に拘束されたフランス人ジャーナリストの方にも話を聞いているそうなんですが。

西村:エナンさんというフランス人のフリージャーナリストですけれども、安田さんの件についてショックだったと。それは記者の仕事は何なのか?という話ですよね。記者が戦場に行く理由はレジャーやただの旅行ではなく仕事だということ。本人にとって、行くか行かないかは非常に大きいジレンマですが、大事なのはそこで何が起きているのか、どう報道するべきかということ。万が一何か起きた場合は自分の責任であるというよりも、エナンさんの場合はフランス人だからターゲットになったということです。ジャーナリストだからターゲットになった。だからリスクを取ってるんです。でも報道のためにリスクを取ってます。


ジャーナリストの仕事と自己責任論

速水:例えば日本とフランスの比較で言うと、ジャーナリストへの理解であるとかリスペクトの問題がまず根本にあるという可能性があるんですが、日本では大手メディアの記者が行く場合とフリーランスのジャーナリストがいる場合、大きいメディアが行くのは取材だと思われるけど、小さいメディアだとちょっと軽視されているみたいな状況、フリーと大手の差みたいなこともあるんでしょうか?

西村:フランスにも大手メディア、小さいディアはあるんですけれども、フランス人は大手メディアのほうが良いとは思わないんですよね。実際にそのジャーナリストが書いている記事やビデオリポートを見た上で判断すると思います。
もうひとつ大事なポイントは、例えばフランスの漫画の主人公はジャーナリストですよ。だからジャーナリストはヒーローというイメージがあるんですよ。それは大きな違いではないかと私は思っています。将来どんな仕事をしたいかと子供に聞けは「ジャーナリスト」と多くの子供が答えます。

速水:僕は今「事件記者チャボ」って水谷豊さんの昔のドラマを思い出したんですけど、アメリカでもスーパーマンのクラーク・ケントって新聞記者ですしね。確かに文化としてのジャーナリストの立場ってそういうところから違うのかもしれませんね。
一方で自己責任という言葉が安田さんの件に限らず出てくるんですけれども、これについてはどう思われますか?

西村:私も自己責任論には違和感を覚えています。ジャーナリストは報道のために現場に行くのは重要なことですよ。だからみんなのために、社会のために重要な役割を果たしてる人であるはずです。ただの旅行だったら確かに自己責任かもしれません。でもジャーナリストは別ですよね。自分がジャーナリストだからそう言われるかもしれませんが、私がジャーナリストではなかった時にも、こんな人がいるからこそ海外のニュースが届くというのは意識してました。子供の時もそうでした。だから、例えばフランス人のジャーナリストが拘束された場合は、毎日ニュースで必ずその人の新しい情報を報道します。その重要性はマスコミも共有していますし、社会全体もジャーナリストの仕事の重要性を理解していると思います。

速水:日本でも1970年代まで、テロは国内問題としても中東問題としても非常に身近だったと思うんですが、今現在の日本ではちょっと距離があると思うんですよね。でもフランスはテロとの戦いのさなかにあって、その中でジャーナリストはテロと戦う存在であったり、テロ被害者に対してのケアみたいなものも行き届いてるみたいな、そういうフランスの中東との近さみたいなものも関係してますよね。

西村:そうですね。ジャーナリストだけではなく、すべてのフランス人にとって、テロのことは自分でも肌で感じる問題です。特にパリでテロがあった時、例えば2015年の1月に有名な漫画家さん達が殺された時は、フランス人にとっては想像できないぐらいショックだったと思います。フランス人でも中東に行って戦争してる人もいますし、テロリストになる人もいるんです。その理由は何なのかということを報じるのはマスコミの仕事です。
もうひとつ、政治家のジャーナリストに対する態度も問われていると思います。政治家がジャーナリスをリスペクトしないと社会はジャーナリストをリスペクトしないと思います。


政治とジャーナリストの関係

速水:日本における政治とメディアの関係性というか、カリンさんは”敬意”とおっしゃいましたが、政治家とジャーナリストの距離感は外国とは違うところがあるんでしょうか?

西村:今回の安田さんの問題は、確かに国との戦いというのは異例だと思います。そもそも政治家とフリージャーナリストの関係は良くないということもあると思います。大手メディアの記者だと、政治家はメディアは重要性をわかっているから態度が違うと思うんですけれども、フリージャーナリストは失敗した人というイメージが日本では強すぎるんです。私も今年の2月まで大手メディアのジャーナリストだったのですが、自分で辞めてフリーになったんです。フリーのほうが自分がやりたい取材に時間をとってできるからです。大手の記者だとイメージ的には良くて、知名度が高いというメリットはあるんですが、実際に仕事の中身を見たら、もう本当にたくさんの取材を同時にやらないといけない。速さが重要なんです。私はフリージャーナリストになってから、ずっと日本での新型コロナウイルスの取材に集中してるんです。大手メディアのジャーナリストだったら、そんなに時間を取って取材することはできなかったと思います。

速水:日本の新聞記者は夜討ち朝駆けといって、担当が警察だったら、そこの幹部のところに毎朝行って、「お変わりはないでしょうか」的なお伺いをして、やっとかおを覚えられて情報を漏らしてもらえるみたいなことで、特ダネを取ったりしますね。フリーなら自由になれる一方で、取材できることも非常に限られてしまうみたいなジレンマは日本特有の状況かなと思いますが、カリンさんは安田純平さんとお会いする機会があったそうですね。

西村:安田さんはそのパスポートの問題についてよく話してくれたんです。なぜそんなことになったかとかという説明もしてくれたし、自分の経験についての話もたくさんしてくれたんですが、辛そうだなということは本当に感じました。帰国してから1年半が経っても、なかなか自由に動くことができない状況です。SNS とかの悪影響も大きい。自分がもしこんなハラスメントを受けたらどう感じるのかをみんな想像して欲しいんです。

速水:日常生活を脅かされている状況、SNSでのヘイトや悪口みたいなものが大量に未だに送られてきていという状況で、家族の日常生活の安全すら確保されていないという状況。つまりジャーナリストの仕事として主張する中身であるとか、思想自体とか、守られるべきものすら全く守られていないという状況ですか?

西村:私もそう思ってます。先ほどのエナンさんというフランス人のジャーナリストが拘束されて帰国した時、大統領が出迎えたんです。また、ジャーナリストでなくても拘束された人はトラウマを受けた人であることがわかっていますから、ちゃんとケアを受けられるんです。2年間無料でケアを受けることができる。それが先進国である日本にないことにすごい疑問を持ってます。

速水:大統領に迎えられたという話がありましたが、いわゆる反体制的、反政府的なジャーナリストに対しての政治の距離感みたいなことは、フランスではどうなんでしょうか。

西村:フランス国民として守るべきだというのが政治家の考え方です。政治家に対していい記事を書かせるという目的ではないんですよ。だから仕事の内容と国民であることは別々ですよね。ジャーナリストも、この政治家は優しい人だからいい記事を書く、悪い人だから悪い記事を書くということじゃなくて、政治家が実際にやってることを見て、それについてちゃんと取材した上で記事を書くんです。だから冷静に考えるべきだと思います。


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