水質基準の規制緩和と水道民営化

2020年4月9日Slow News Report


水質基準の規制緩和

速水:今夜は堤未果さんによるリポートです。テーマは「水質基準の規制緩和と水道民営化」。厚生労働省が4月1日から水道水の水質基準を見直しました。農薬類7種類の目標値変更、そして新たな水質管理目標を設定するなど、ちょっと複雑な内容です。そこには浄水で検出する農薬類の目標値を大幅に規制緩和する見直しも含んでいるということなんですが、ちょっと一通メッセージを読みます。「ライフラインのうちで、何を差し置いても必要なもの、それは水です。かつての三公社五現業を民営化したのと違い、水は国営でなければいけないと思います。水質基準の緩和など言語道断です。」というメッセージをいただいているんですが、水質基準の規制緩和って何なのでしょうか?

堤:日本で私達が飲んでいる水道水は水道法という法律に基づいて、水質検査が義務付けられているんですね。51のチェック項目があるんですけれども、この中に三つレベルがあって、一つ目は事業者が必ず検査をしなきゃいけない。義務化されているいちばん厳しいものですね。二つ目が水質管理目標。それから三つ目が要検討項目。まだちょっと分からないから情報を集めましょうというようなものです。この三つがあるんですけれども、今回この水道水の水質チェックの変更をしたんですね。基準値を変更した。これは結構変わるんですよ。その時その時で結構変わってるんですが、私たち全然知らないですよね。

速水:正直何の話でしたっけ?っていうところが僕にはありました。

堤:やっぱり日本は世界一水が安全な国と私たちは思ってるじゃないですか。蛇口に口をつけて飲める国というのは本当にないんですよ。世界中を見回してみても、水道からそのまま飲んで大丈夫な国というのは本当に少ないです。15地域くらいしかないんですね。だからすごく恵まれているわけなんですけども、でもとても安全で当たり前に思ってる物っていうのは、そのぶん関心を持たれないんですよ。たとえば健康保険だったり、水道だったり、私たちが日本に住んでいる故に当たり前だと思って普段関心を払わないものってありますよね。ところが今はこういう情勢もあって、命に関わるものはこれからしっかり見てかなきゃいけないような状況になってしまったんですね。
今回の水質基準の変更はどんなことが起こったのかというと、水質基準が全部悪くなったわけではなくて、例えば六価クロムという発がん性がある物質なんですけども、これは基準を厳しくしました。ただ今回気になるのは、水道水に含まれる農薬の基準が結構大きく緩められたところがあるんですね。日本は農薬をすごく使っている国なので、水道水にも混じるということなんですけど、今回緩められたのは、例えばジクワットという成分。これは除草剤ですね。じゃがいもなんかを収穫する時に、周りに生えている雑草を枯らしたりとか、結構メジャーに使われてるもので、体に入ると内臓に組織障害を起こしてしまったり、肝機能だとか神経障害を引き起こす劇薬でもあるんですね。この目標値が2倍に今回緩められました。それ以外でも、例えばプロチオホス。これは有機リン系殺虫剤です。これは1.75倍。これは私たち数字だけ聞いてもわかりませんよね。でも問題は、これがなぜ緩められたのかっていうのが気になるじゃないですか。厚労省に問い合わせたところ、「食品安全委員会の新しい評価に基づいて、これを変えました」と。これしか答えが出てこないんですね。食品安全委員会って初めて聞きましたよね。私たちの食品の安全基準を有識者で話し合う専門家集団なんですが、大学の先生、研究者、専門家、医学部の教授だったりとか、元農水省の方だとか、獣医学部の方だとか、だいたい大学教授が入ってるんですけれども、食品安全委員会が基準を緩めてもいいという判断をしたということで、変わってしまった。「国民の意見は聞いたんですか?」と聞いたら、パブリックコメントはしてるんですね、5千件ちょっと。ただ、パブリックコメントはどんな意見が出たんですか?という質問に関しては、5000件のうち、出てきた答えが四つぐらいしか書いてなかったんです。随分省略したなと言う答えだったんですけれども、これじゃもうよくわからないんですよね。


規制緩和の背景にあるもの

速水:つまり、基準は変わります、ただその理由に関しては定かではない部分が多々あるということですね?

堤:どうもよく分からない。さっきも言いましたように、数字だけ聞いてもよく分からないですね。「2倍になったかもしれないけど、水道水を何百リットルも飲まない限り大丈夫です」という方もいらっしゃいます。いろんな考え方はあるんですけれども、でも問題は、水道水の中の農薬の基準が、この国は緩くなっていく。そういう方向にいっているということなんです。

速水:その背景には何があるのという話をお伺いしたいんですけど、2019年10月改正水道法施行がされて、いわゆる民営化の流れがあるということなんですか?

堤:改正水道法、これは水道民営化法ではないんですけれども、自治体が水道の運営権を企業に売ることができる。これをやりやすくする、推進する法改正ですね。

速水:水道水を使ったビジネスが展開できるようになった中で、同時に水質基準の見直しが行われているところポイントなわけですね。

堤:今までは都道府県が水道事業というのやっていたんですけれども、この運営の部分、ここだけ民間企業に売却する。そして自由裁量で運営できるようにする。ですから民営化といっても、正確には実質民営化ですね。

速水:コンセッション方式っていう言葉は僕でも聞いたことがあるんですけど、まさにこの方式のことですよね?

堤:そうですね。自治体が所有はするけれども、運営に関しては企業が全部やると。

速水:なるほど。この背景をおさえておくと、人口減少の中で水を使う人が減っている。トイレを流す時の水って実は昔比べてずいぶん減っているという話があったりとか、節水のテクノロジーが進んできているとかあるんですけど、大きいところで言うと、水道施設の老朽化で、インフラ整備をしながらとなると、今後自治体によっては非常に水道料金高くなっていく。それを民営化することで、費用を抑えていこうみたいな考え方でいいんですか?

堤:これを導入するときに、やっぱりコストカットになると。それから企業のノウハウが入る。それから売却することでその自治体には莫大なお金がその時入りますから、そういった意味でも、今の赤字を解消するということで、効率よく無駄をなくしていきましょうということで導入されたんですが、民営化するときのコンセッション方式の副作用というのがあります。自治体が運営をしていくというと、例えば水道料金徴収したら、それは自治体の税収になるわけですね。だから最後まで責任を持つ。ただこれが公共のものではなくて、ビジネスになった時に、水が商品になるわけですね。企業は利益を上げて、例えば株主報酬を出さなきゃいけない、法人税も払わなきゃいけない、設備投資もしなきゃいけないとなると、そういうかかった経費は料金に上乗せできるんですね。なので、どこでも料金は上がっていくという傾向が非常に高い。そして料金が上がっていた時に、それが自治体の中に税収として入るのと、企業の利益として入るのと、長い目で見た時にどっちがいいのか。これが結構世界で問題になったんです。利益を出す時に、経費カットしますよね。その時に人員削減をしたり、賃金をカットしたり、例えばここは人口が少ないから設備投資はやめときましょうということをするかもしれない。当然ですよね、ビジネスなので。で、いちばん問題なのは、通常15~20年で契約をするわけです。だから途中でやめるということが非常に難しい。その間に 災害が起きたらどうするか。

速水:儲け中心に考えてる中で、それはあまり計算されないし、いくらでも全力を尽くしてセーブしますよ、それを保守しますよっていうのとは違う原理が働くわけですね。

堤:言ってみれば、平時の時にはなんとかなるかもしれない。料金を抑えれるかもしれない。でも有事になった時に困るんです。改正水道法が導入されたのは2018年の7月なんですが、しっかりした議論というのが非常に少なかった。とても審議時間が短かったんですね。実際に導入されてから、マスコミも取り上げるようになりましたが。厚生労働省も、世界の各地でどんなメリット、デメリットがあったのかという問いに、本当に少ない事例しか出さなかった。やっぱりこれは非常に拙速だなというところがありましたね。

速水:元々公設公営だった水道が民営化する流れって、これ世界的にも起こっていることなんですよね?

堤:実は今、水道に限らず公共のものを民間に開放して、それをビジネスとして企業が担っていく。こっちの流れに今かなり行ってるんですね。これは水道だけじゃなくて、農地だったり、他にも色々ですね。効率のために、コストを優先してということで、民間でやっていきましょうと。この流れは今世界に全体に進んでいます。

速水:その中で、水道に関しては再公営化の流れなんかもあって、やっぱりうまくいかなかったんじゃないかみたいな部分が見直されてる部分もありってことですよね。

堤:そうですね。世界的には90年代から、この水道の民営化というのは流れが始まっているんですけれども、やっぱりとても問題が多かったんですね。さっき言ったような、経費を上乗せすることで料金が上がる。それからコストカットによって、水質チェックがおろそかになる、劣化していく。ビジネスでやるので、やっぱり人件費をカットしますから、だんだん契約社員の人ばっかりになっていて、例えば10年経ったら、もうその地域には水道のことがわかる専門家がいなかったりということが考えられます。

速水:公共って、長い時間をかけてっていうところが非常にあるんです。とくに水道はそういうところあるんですが、そこにちょっと齟齬が生じている。最後に改正は2018年なので コンセッション方式が具体的な話が進んでいる事例なんかもお聞きしたいんですけど。

堤:日本で今トップバッターになっているのは宮城県ですね。ここは結構コンセッションをずっと前から色んな分野でやってるんですね。東日本大震災の時には、海を使う漁業権というのを民間に開放した。それから仙台空港をコンセッションをした。そして、今回の水道のコンセッションやりますというのは、上水道、下水道それから工業用水。この三つをいっぺんにパッケージで運営権を売却しますと。これはかなりドラスティックにコンセッションやるということで今進んでますね。


安全な水を当たり前と思わずに関心を

速水:最後に、いま現状で言うとどういう状況にあるかっていうの最後にお聞きしていいですか?

堤:そうですね。大阪とかね、いくつかの自治体がもう手を上げてますけれど、問題は20年で250億円コストカットできますということで、例えば宮城なんかはいれている。でも世界の事例を見ると、20年後の事ってわからないんですよ。例えばアメリカの事例で言うと、コストカットしていきますと言ってコンセッション行ったところはどうなったか。コストカットは確かに起きたんですが、水道の専門家をどんどん首を切っていったんですね。

速水:そうなると、これまでと同じクオリティを保つことは難しいですね。日本は非常に質が高い水が供給されていて、そして僕らは消費している。でもアメリカの事例なんか見ても、それが今後維持できるのかちょっと不安な部分があります。やっぱり我々は水に関して安心しきっていますが、もうちょっと関心を持たないといけませんね。宮城県の人たちはどう思ってるのかみたいなところも含めて、もうちょっと知識、情報、メディアの報道も含めて、必要な領域なのかもしれないですね。

堤:特に日本は自然災害大国なので、非常に有事が多いんですね。そして水に関する有事ってすごく多いんです。ですので、私たちもっともっと関心を持って、水に関しては自治体ベースなので、自分が住んでいる県のホームページだったり、県議さんだったり、市議選だったり、そういう方に是非アプローチして聞いてみてもらいたいですね。

速水:全体の問題というよりも、自分たちの住んでる地域ごとに変わっていうということに注目する必要があるかもしれないですね。


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