緊急事態宣言から一夜 専門家に聞く

2020年4月8日Slow News Report


日本の流通は優秀

速水:ここからはスローニュースリポート。まずはこの時間、流通、そしてスーパーコンビニなどの日用品の小売の専門家です。流通アナリスト渡辺広明さんです。よろしくお願いします。昨日も同じテーマでお話を伺ったんですが、コンビニ、スーパー含めて、基本的には緊急事態宣言以前からちゃんと準備をされていて、お店はずっと開けますよという話なんですよね?

渡辺:はい、コンビニもスーパーも基本的に空いています。でも、コンビニの場合、立地がぜんぜん違うので、ビジネス街だとかあまり人が来ないところであったりとか、アルバイトがなかなか集まりづらいところがあったら、夜閉めたり、時短したりするんですが、基本は開いているので、安心していただいていいんじゃないかなと思います。

速水:昨日、今日の状況、特に今日ですかね、買い占めへの心配なんかもあったんですけど、その辺はどうでしょうか?

渡辺:そうですね。このところ毎日2時間くらい、いろいろな小売業態を巡っているんですが、落ち着いた感じの買い物されてる方が多いですね。特にスーパーなんかに行くと、日持ちする食品が十分にあるという感じがします。1.5倍から2倍ぐらい在庫取ってるんですよ。ただし、加工食品のカップラーメンなんかは、それほど在庫があるわけではないので、種類が絞り込まれてますね。工場的にも、いろいろなものを作ることがなかなかしづらいので、売れ筋に集中して作っているというのがあるので、品揃えとしては若干寂しくなっています。しかしそこはこんな時期なので、みんなで我慢しあってやったらいいんじゃないかと思いますね。

速水:なるほど。日本の流通は優秀で、事前に皆さん動いて、流通だけじゃなく生産もしているんだと思うんですが、現場取材しててどうですか?

渡辺:そうですね。僕はコンビニ出身なんですが、コンビニのお弁当とか惣菜みたいな「中食」と言われる持ち帰りのものが、一日三回ぐらい納品されるんですよ。

速水:すごい回数ですよね。

渡辺:世界にもないですね、そんなところっていうのは。ですので、食べ物の流通に関しては日本は一歩進んでると思います。

速水:海外旅行に行って、コンビニに入ってみて何にがっかりするかって、食べるものの種類の少なさですよね。興味深いんですけど、いわゆるコンビニエンスストアって日本発祥ではないのに、日本がなぜこれだけ進んだのでしょうか?

渡辺:世界のコンビニと日本のコンビニは違いますよね。もともと、セブンイレブンがおでんやおにぎりを扱い出したのが大きかったと思うんですね。海外と違って、日本は食べ物が結構売れるじゃないかとなって、持ち帰り弁当とか惣菜がどんどん充実していって、ファーストフードも充実していったという流れがあるんだと思います。パンを入れてみようとか、パスタも売れるんじゃないかとか、冷やし麺も売れるんじゃないかとかという形で、どんどん品揃えが広がっていって、お客さんもその便利さに気づいて、どんどん日本で流通が広がっていったということですね。それに、日本人は時間を守ったり、何個発注があってもきっちりできるみたいなところがあるので、日持ちしないものを正確に運ぶことに対しても向いていたのかもしれないですね。


消費者も賢く

速水:とはいえ、日本は災害ってつきものですよね。そこら辺に対する対応力もありますよね。

渡辺:災害時、どうしても欠品とかしてしまうのはしょうがないんですけれども、それについても阪神淡路大震災から始まり、東日本大震災の対応でそのスキルをどんどん上げていったところはあるかもしれないですね。しかし難しいのは「デマ購買」です。今回のトイレットペーパーみたいな、デマによって広がるもの、あれに対しては対応はできないですね。日本だけに限らずですけれども。

速水:そこに関してはメディアの責任もと大きかったですよね。

渡辺:そうですね。でも逆にいまはメディアでデマ購買はしないほうがいいという形になっているので、ここ何日間は逆に落ち着いた状態にあるんじゃないかなと思います。だから、今後起こらなくなるかもしれないですよね。

速水:そこは本当に重要なところで、消費者、流通の人たちがプロであるというのと同時に、消費者も非常に賢くなっている部分というのが今回見えました。当初のデマ騒動から学んだ部分も大きいのかなって気がしますけれども。

渡辺:大きいですね。特にご年配の方々はデマ購買をされた方々が多かったようなんですけども、そのあたりにも浸透してきてます。

速水:とはいえ、この状況になる以前から人手不足という問題を抱えていた流通業界ですが、今後心配なことはありますか?

渡辺:人手不足はこれからなくならないんですね。なおかつ東京都内の店舗だと、外国人の労働者の方、留学生に手伝っていただいて運営していたコンビニとか多かったですよね。今は外国人労働者がなかなか入ってきづらくなっているので、人手不足がさらに深刻化していくんじゃないかと思います。

速水:最後にお伺いしたいんですが、現金を直接取り扱うことのリスクが高まっている中で、キャッシュレス化がこのタイミングで進むのではみたいな予測に関してはいかがでしょう?

渡辺:あってほしいですね。とくに接客時間は現金と比べてすごく短くなるので、人手不足対策にもなりますし、お金は色々な方が触れるので、汚いとこがあるじゃないですか。お釣りの受け渡しとか。そのあたりをキャッシュレス化することで、店員さんの身を守るみたいなことが今後出てくるんじゃないかと思います。

速水:なるほどわかりました。わかりやすいお話たくさん頂きました。どうも渡辺さんありがとうございました。


リスクコミュニケーション

速水:つぎは千葉大学教授で科学技術社会論、リスク社会論専門の神里達博さんに伺います。昨日に引き続き、メディアのあり方であるとか、専門家のあり方みたいな話を伺いしたいんですが、昨日はリスクコミュニケーターという話を伺いました。専門家の言うことを、たとえばコロナウイルスに関する専門家の言うことは、今すごい注目されているんですが、専門家の言うことってそのまま受け止められないんだという話をもう一度伺えますでしょうか。

神里:そうですね。専門家というのは、専門分野がそれぞれあるわけですね。今回でいうと、お医者さんの方が結構多いように思いますけれども、お医者さんも感染症が専門の先生から、公衆衛生に近いところをやられていたりとか、もうちょっと研究に近い方、現場で患者さんを毎日見られてる方とか、いろんな方いらっしゃって、自分が一番大事にしてる所はやっぱり違います。よくわかってる得意なことも違うわけですから、一番重視してるポイントというのはけっこう違うわけですよね。広い意味で言えば価値観が違うという面があって、科学的な事実はあるんだけれども、それをどう解釈するかとか、どこに焦点を当てるかということが先生によっても違ってくる。また、もうちょっと極端な意見なんかも場合によってはあって、個人的な経験の中から、ある種の信念でいろんなことをおっしゃる方もあったように思います。そうすると、テレビやラジオ、新聞、いろいろありますが、主にテレビだと思うんですけれども、やっぱり見ている方が、専門家が違うことを言うと不安になってしまいますよね。そういうことが起こっているなということは感じました。

速水:専門領域の話を、その筋の専門家が知っていることは当たり前なんですけど、そこで交わされている言葉というのは、僕らは理解し得ないからこその専門家なわけですものね。そして今リスクコミュニケーションということが言われるようになってきました。例えば、東日本大震災の時の津波の状況であるとか、その被害などは、みんなが情報によってパニックになるというのが、かつて昔のメディアの基礎的な知識だったんですけど、今はどちらかというと、正常性バイアス、みんなが普通に受け止めてしまう状況があります。パニックでも正常性バイアスでもない、危機感を持ってもらうための言葉というコミュニケーションのあり方、これが専門家の領域でも重視されるようになってるわけじゃないですか。それがリスクミュニケーションという言葉だと思うんですが。

神里:リスクコミュニケーションというのは色んな意味で使われる言葉でもありまして、大きく分けると、正しい知識を伝えることがリスクコミュニケーションだという見方と、相互にコミュニケーションをして、つまりどちらかが一方的に情報を伝えるのではなくて、互いにやりとりをすることによって、相互理解を深めていくのがリスクコミュニケーションだという意味もあります。私は後者のほうが大切だと思っているんですが、いまのところリスクコミュニケーションというのは、正しい知識を正しく伝える技術みたいなものとして捉えられている面が強いのではないかなという気がしますね。

速水:今回のコロナに関する報道の中では、たとえば、「クラスター」という言葉、「集団感染」、「オーバーシュート」、「ロックダウン」という言葉も出てきましたが、これはおそらく専門家のなかで出てきた言葉を、メディアが注意喚起のためにそのまま使った部分があって、なんでわざわざカタカナにするの?っていう反発もあったと思うんですが、神里さんはどう思われますか?

神里:そもそもリスクコミュニケーションという言葉自体がカタカナなのですが(笑)、本当はいろんな言い方があるべきじゃないかと思うんですけれども、しばしば新しいことを伝えたいということきにカタカナを使うって一般にありますし、今回メディアというよりも、わりと政治家が使っていましたよね。やっぱりリスクコミュニケーションをする上で、わかりにくい言葉を使うというのは、非常によろしくないと思います。誤解の元ですよね。ただそれが、たとえば政治家が使う場合には、もしかすると政治的に意図を持って使う場合もあるわけで、それが単にリスクコミュニケーションの失敗とか、成功とかいう話を超えた意味があるかもしれないですね。

速水:なるほど。政治家は、いわゆる専門家の言葉として使うわけですが、専門家会議なんかが行われている中で、まず専門家がどうやって選ばれたのかみたいなところも含めて政治なわけですよね。

神里:おそらくそういうことになると思いますね。専門家というのはたくさんいるわけですけれども、たとえば、メディアでもそうですし、政治でもそうですが、誰がこの問題の専門家なのかということを判断するというのはなかなか難しいことですね。なぜなら私達には専門性がないから専門家を呼ぶわけで、でも専門性のない素人が、誰が専門家であるかを選ばないといけないわけですね。メディアにしても政治家にしてもね。だからこの問題はすごく深刻な問題をはらんでいまして、実はずっと以前から議論されてきました。東日本大震災のときにもこういう問題がすごく起こりました。専門家とメディア、政治家のコミュニケーションはどうあるべきなのかみたいなことは、やっぱり普段から考えておかなければいけないし、そういうことについて研究し、実践をする、場合によっては教育をしていくことが必要だろうという問題意識がありました。

速水:当初はある専門家の言うことは正しいんだと思っていたら、途中からどんどんボロが出てきて、持ち上げて叩くみたいなことがネットでも行われたり。

神里:だけどそれもいろんな誤解もあるし、専門家自身がそういう社会的なコミュニケーションに慣れていないということもありました。ですから、例えば私が前にいた大阪大学なんかでは、そういうことのコミュニケーションのあり様を勉強していこうという大学院のプログラムを東日本大震災の後に立ち上げました、

速水:それはどういうことをされるのですか?

神里:研究と教育ですね。たとえば、科学的な専門家として育てられている大学院生がいるわけですけれども、そういう人も将来リスクコミュニケーションをしなければいけない立場に立つ可能性は十分あるわけですね。やっぱり自分の専門分野に関しての事件が起きて、それを急遽社会的に語らなければいけない。しかしそれは専門家であればできることでは本来ないんですね。つまり、社会とのコミュニケーションのあり様とか、こんな言葉を使うとどういうふうに受け取られるかということを判断するのは、自分を客観視するようなチャンスがないとなかなか難しい。それを主に理系の大学院生を対象に、それこそ演劇で有名な平田オリザさんとかですね。ああいう方もスタッフとして関わる形で、コミュニケーションとは何なのかということを、研究、教育するプログラムを作ってました。

速水:ガチガチの研究者の人たちが、演劇やコミュニケーション、伝達のプロと一緒に考える、なにか違うものを混ぜていくみたいなことが重要なんですね

神里:やはりコミュニケーションというのは普遍的なものです。だけれども、科学というのは、コミュニケーションとそんなに相性良いわけでもなく、やっぱりそういう部分はありますね。


専門家相手でも問い返すことが大事

速水:「ここに科学的な実証されたデータがありますが何か?」っていう世界なわけですよね。

神里:そうなんです。だけど実際、「なぜあなたはそのデータを今示すんですか?世の中にはたくさんのいろんな事実があるわけですけど、その中からなぜあなたはそのデータを強調して示すんですか?」と市民が問い返すことは本当はできるわけなんです。ただ相手が専門家で、自分は素人だと思ってしまって、あまり問い返すことがないんですよね。

速水:僕らはメディアでこれを伝えるというときに、この専門家がこういっていますとオウム返しにするのではなくて、コミュニケーションというか、質問をぶつけてみて「こういう言葉遣いをされていますが、こういう意味なんですね?」みたいなことをいちいち聞くことが重要かもしれないですね。

神里:本当それは大事で、もっというと、「なぜあなたはそんなことを語るんですか?」っていう、ちゃぶ台返しみたいになっちゃう場合もあるんですけれども、語り方についての前提を問い直すようなことがもっとあってもいいのかなと思いますね。



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