刑法改正と性的同意

2020年4月2日放送Slow News Report



性犯罪をめぐる刑法の見直しのポイント

速水:今夜は伊藤詩織さんによるリポート。テーマは「刑法改正と性的同意」です。2017年の6月、国会で性犯罪に関する改正刑法が可決成立しました。これは明治40年制定以来110年ぶりという大幅改正ということで注目を集めました。ただこの時の改正は不十分な点もいくつかあったということで、法改正の際、3年をめどにした見直しを検討することになっていて、そのリミットが今年2020年なんですね。それで3月31日になりますが、法務省が性犯罪をめぐる刑法の見直しについて、議論する検討会を設置したということなんですが、今回の刑法の見直しのポイントは何なのでしょうか?

伊藤:まず、検討委員会が設置されたということが本当に大きな第一歩です。2017年、刑法が改正された際は、自分の受けた被害を初めて話したのですが、やっぱりそのとき、刑法を変えていかなければいけないんじゃないかと思ったところなので、個人的にもすごく思い入れがあります。今回の刑法改正のポイントとしては、改正されてから強制性交等罪になりましたが、まだ暴行脅迫を被害者が証明しなくてはいけないというハードルがあるんですよね。

速水:今までの刑法のなかで決められていたことが引き続き残っている要素ということですか?

伊藤:そうなんです。あるスウェーデンのレイプクライシスセンターの研究によると、被害を受けた人の70%が、暴力を受けてる時に体が固まってしまう状態に陥ってしまうんです。体が凍りついてることが、何も言わないから同意しているんだと思われてしまって、暴行脅迫が証明できないですし、また性的同意についても証明できなくなってしまいます。

速水:性犯罪というのは抵抗すらできない状況に陥ってしまう。それを前提としていない法律、刑法という、そこの硬直性みたいなところが、論点になっているこということですね。


性犯罪をめぐる世間の変化

速水:性暴力に対する新たな動きみたいなものはありますか?

伊藤:はい。去年の3月に無罪判決が3件続いたというニュースが有りました。それは本当に色々の方がショックを覚えたと思うんですけれども、そのうちの一つを取材に行ったんですけれども、先月名古屋高裁で、19歳の娘に父親が暴力を加えていたという事件で、無罪判決が出たものが逆転有罪になったんですね。それもやっぱり同意があったのかとか、抵抗ができたんじゃないかという事で、無罪判決になってしまったんですけれども、去年の4月にフラワーデモが発足し、今では日本全国で性暴力の法改正をしていこうというデモンストレーションが始まったんですね。東京では東京駅の駅前で行われているんですけども、そこには当事者の方もいれば、サポートする方もいれば、刑法改正したいっていう思いがある方、色んな方がいるんですけど、私が見てて本当に驚いたのは、今まで日本でこういった被害のことを話すことがタブー視されてたなかで、公共の場所で自分の被害を語れる場所ができたということです。海外で見るようなデモというより、グループセラピーのような、自分の経験を語って、そこにいる、今は話せない人たちも耳を傾けて傾聴していて、そしてあるポイントになって自分も話そうって思えるような場所になっていった。やっぱりそういった場所が少なかったからこそ、すごくそれが広がっていったんじゃないかなと思いましたね。

速水:伊藤さんもそういう中で表に出て行った一人なわけですけど、そういう場所に行くとやっぱり直接いろんな人と触れて、コミュニケーションする機会になったんじゃないですか?

伊藤:そうですね。同じような経験をしていた人がこんなにいたんだっていうところにも驚きましたし、なかなかそういったことは報道もされないですし、こういった刑法があるのに罰せられない。だからこそニュースにもならないという現状もあると思うんですよね。

速水:そこはまだまだ動かない部分もあるんですけど、社会的なインパクトをみたいなところはどう感じましたか?

伊藤:フラワーデモや、MeToo運動もあって、今回は逆転有罪になったりだとか、まあ110年前に作られた法律刑法ですから、何が足りていないのか、なにが遅れているのかっていうところがすごく浮き彫りになってきてるんじゃないかなと思います。


性犯罪と時効の問題
速水:メッセージを一通読みます。「速水さん、伊藤さん初めまして、こんばんは。私は10歳の時に性暴力を受けました。そのPTSDで今も療養中です。子供の頃に男性が受けた性暴力って何なんだろうと自問自答してしまう毎日です。『刑法と性的同意』というテーマでどんな展開がされるのか興味深く聞きたいと思います。」という、男性の方なんですよね。

伊藤:2017年に刑法が改正されて、初めて男性も性暴力、強姦の被害者と認められるようになりましたが、この方は現在49歳とのことなので、この時は法律でもリファインしてくれなかった時なんじゃないかなと思うと同時に、日本の刑法には10年っていう時効がありまして、10歳の時に受けたのであれば二十歳になるまでにその被害を届けなくてはいけない。それって子供にとってはものすごい大きな壁になると思うんですよね。そして、親からの性的虐待である場合、自分の監護者であるわけですから、逃げられない。それに、子供なので何をされてるのかわからないっていう問題がありますよね。


速水:今回の刑法改正の検討会、弁護士や刑事法研究者、被害当事者ら17人で構成されています。画期的だったのは、被害当事者がメンバーに入っているということなんですよね。

伊藤:そうなんです。やっぱり被害を受けた当事者たちが、私達の話を私達抜きでしないでくださいとずっと訴えかけていて、それが現実化されたわけです。

速水:なるほど。今日は当事者で、そのメンバーに入った一般社団法人spring代表の山本潤さんと電話がつながっています。伊藤さん、山本さんのことはよくご存知ですよね。

伊藤:本当に温かい方で、私も色々と告発した時に悩んだり苦しんだりしてる時に、彼女は色んなアドバイスをしてくれた、非常に大切な方ですね。彼女は13歳から7年間、実の父親より性暴力を加えられていたという経験があります。

速水:ではお話を伺っていきましょう。山本さんよろしくお願いします。今回、当事者として検討審議会に入られた事について、どのような経緯があったのでしょうか?

山本:もともとは、前回の刑法、性犯罪改正のときに、性暴力被害を理解している人っていうのは、12人中の委員のうち、2人しかいなかったんですね。被害者側の弁護士さんと、被害者心理を支援している臨床心理士の方。そして、刑法が改正されたんですけれども、さきほどお話されていた時効の問題のように、積み残された課題が多く、どうしても性犯罪の実態を知った人、刑法学者とか弁護士とか警察官とか、そういう実務家だけではなくて、被害を知っている人を委員に加えてほしいということで、刑法改正後の2017年の7月にspringという団体を立ち上げて、委員の方にお話に行ったりとか、省庁の方にも働きかけたりということを活動としてここまできました。

速水:なるほど。まずは当事者が審議会に入るための活動をずっとされてきて、それがようやく実現したということなんですね。

山本:本当に長い期間かかりましたけれども、ようやくスタートラインに立てたなという気持ちです。
速水:はい。そして、具体的にどういうポイントを見直していくべきなのか、どうして参加されたんでしょうか。
山本:私達自身が訴えているのは、時効の問題であったりとか、暴行脅迫要件のハードルが高くて、落とされてしまう方が多いので、不同意を性犯罪の規定に加えていただきたいとか、さきほど監護者さんのお話も出ていましたけれども、教師とか、祖父とか兄とか、そういう人は監護者として認められない事が多いので、そのような地位、関係性に基づいて、性加害を行う人の範囲の拡大求めていきたいなと思っています。

伊藤:時効に関しては、イギリスでは時効が無かったりだとか、ドイツでは子供のときに受けた被害であれば30歳まで時効がないというところもあるので、山本さんは海外の、イギリスの刑法に関しても勉強されて、ロビイングされていましたよね。

山本:はいそうですね。イギリスは性犯罪に関しては時効がないですし、ドイツでは児童の性的虐待の被害者のためのコールセンターに問い合わせた人の平均年齢が46歳だったという調査が出て、先程のように30歳まで延長し、50歳まで訴えられるようにしたんですね。

伊藤:それくらい、被害に気づいて、言語化して、被害にあったっていうことを伝えられるまでに時間がかかるということなんですよね。

山本:はい、私は『13歳、「私」をなくした私』という本を出して、自分の被害について伝えているんですけれども、その本を読んで手紙をくれる読者の方には60代、70代の方がいて、いままで何が起こったかわからなかったけれども、あれが性被害だったということがわかりましたというふうに、打ち明けてくれる方はすごく多いんですね。

速水:検討しなきゃいけない材料として、時効の年数の問題があるという話ですが、他にも何か大きい問題点ていくつかありますでしょうか?

山本:やはり、暴行脅迫とか心神喪失とかの要件の問題は非常に大きいなと思います。

伊藤:あと同意年齢が日本では13歳とされているところは大きなポイントです。イギリスでは16歳ですよね。

山本:そうですね。親などの監護者から18歳未満の子が被害を受ければ、それは性交だけで性犯罪なんですけれども、そうでない場合は、13歳以上であれば、もし抵抗していなければ、それは性犯罪ではないとみなされてしまう可能性が非常に高いことも問題です。

速水:時効を撤廃するためにはなにが必要なんでしょうか。

山本:大規模な信頼性がある調査をして、被害を受けた人が何歳くらいで被害を訴えられているのか、そういう調査をもとに、今の時効は適切なのかという議論ができるかと思います。内閣府なんかも性暴力被害者支援とか、性犯罪被害者支援に3年間、重点的に取り組むというようなことも打ち出しておりますので、そのようななかに、やはりこういう実態調査を入れるといいのかなと思います。

速水:わかりました。山本さん、ありがとうございました。一般社団法人spring代表山本潤さんにお話を伺いました。

何が性的同意なのか
伊藤:いまここの番組では普通に「性的同意」という言葉を使っていましたけど、実際、これは学校では教えられない言葉であり、何が性的同意なのかっていうところから、常識的な知識として知ることがまず第一歩なんじゃないかなとも思いますよね。

速水:この同意の部分に関しては、例えばテレビドラマであるとか、最近話題になっているテラスハウスのように恋愛がエンターテインメントの俎上に上がるというなかで、迫るような描写であるとかで、同意なしの、ううんってい言わないっていうことは「うん」なんだろうみたいなことが当たり前に描かれてきましたよね。

伊藤:NHKの統計で見て驚いたのが、食事に行く、お酒を一緒に飲む、車に乗り込むだったりが性的同意だと思ってるっていう回答が2~3割あったんですよね。それにも本当に驚きで、そんなこと言われたらご飯にもいけなくなってしまうんじゃないかなと思います。それにやっぱり13歳で性的同意決定ができるということになっていることは、ここもやっぱり議論をしていかなければいけないポイントなんじゃないかと思います。


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