今月のテーマ:「The World of Black and Blue」(第6回:スウィング)
パーソナリティ:ピーター・バラカン(ブロードキャスター)
ビッグバンドジャズのリズムが見える
1日の仕事を終えた人たちが元気よく
サヴォイで、仲間とスウィングする。
指を鳴らしたくなるフレッチャーヘンダーソンのジャズ
足を踏み鳴らしたくなるルイアームストロングのリズム
つま先でリズムを取りたくなるデュークエリントンのきらめき。
ひと晩中、ブギウギしたくなる。
スウィングしなけりゃ意味がない。
アップタウンのクラブで、ダウンタウンのホールで、スウィングに合わせて、世界が踊る。
ハイディハイディホー。
絵本『リズムがみえる I see the rhythm』(サウザンブックス社)より
(文:トヨミ・アイガス、絵:ミシェル・ウッド、翻訳:金原瑞人、監修:ピーター・バラカン)
<番組のトーク・パート(概要)と選曲リスト>
― 今月は、ブラック・ミュージックの歴史を描いた絵本『リズムがみえる I See the Rhythm』を基に、ブラック・ミュージックの歴史を紐解いていきます。今回のテーマは「スウィング」です。
冒頭の絵本の文章の中に、何人かのミュージシャンの名前や曲名が出てきましたが、その中から、まずは
フレッチャー・ヘンダーソンの曲を聴いて頂きます。
M1「Sugar Foot Stomp」/ Flecher Henderson
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとバージョンが異なる場合があります。
フレッチャー・ヘンダーソンは、初期のスウィング・ジャズ、1920年代の半ば、ニューヨークでバンドリーダーとして活動していました。彼のオーケストラは、とても早くに、ルイ・アームストロングをメンバーに迎えました。このオーケストラで、ルイ・アームストロングがフィーチャーされたことが、ルイ・アームストロングが自身の名義でレコードを出す大きなきっかけになりました。
この曲は、まさにルイ・アームストロングのトランペットをフィーチャーした、1925年の曲です。
―スウィング・ジャズというと、30年代の、ベニー・グッドマンに代表されるサウンドを想像する方が多いと思います。そのベニー・グッドマンがデビューしたころ、彼が担当していたラジオ番組では、毎週新しい編曲が必要でした。彼は、プロデューサーのジョン・ハモンドの推薦で、フレッチャー・ヘンダーソンが20年代にしていた編曲をたくさん手に入れました。フレッチャー・ヘンダーソンは、ヘッド・アレンジメントで編曲していましたが、ベニー・グッドマンに買ってもらうために、わざわざ楽譜に起こしていたそうです。
そうして彼は、スウィング・ジャズの先駆け的な存在になりました。
―もう一人、20年代にスウィング・ジャズの先駆けとなったのは、デューク・エリントンです。
M2「East St Louis Toodle-O」/ Duke Ellington
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとバージョンが異なる場合があります。
フレッチャー・ヘンダーソンは、ニューヨークのミッドタウンにある、ローズランド・ボールルームを拠点にしていましたが、デューク・エリントンの拠点は、ニューヨークのハーレムにある、コットン・クラブです。
コットン・クラブに出演するミュージシャンは、ほとんどが黒人で、お客さんはほとんど白人でした。
この曲は、デューク・エリントンの1927年の有名な曲です。70年代に、スティーリー・ダンが、アレンジは
そのままで、楽器だけ編成を変えたカヴァーを発表しています。
―次は、デューク・エリントンのオーケストラに、ほんの短い間メンバーとして参加していたサックス奏者、シドニー・ベシェの曲を聴いて頂きます。
M3「Dear Old Southland」/ Sidney Bechet
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとバージョンが異なる場合があります。
20~30年代のスウィング・ジャズは、サックス奏者より、クラリネット奏者の方が、圧倒的に多かったためか、シドニー・ベシェも、最初はクラリネット奏者でしたが、ソプラノ・サクソフォンを発見したことをきっかけに、サックス奏者になりました。この時代にソプラノ・サクソフォンを使っていた人は、彼以外にはいなかったと思われます。後になって、ジョン・コルトレーンがこの楽器を”再発見”することになります。
―この番組の総合タイトル『I Got Rhythm』にちなんで、最後はこの曲を。
M4「I Got Rhythm」/ Chick Webb & The Little Chicks
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとバージョンが異なる場合があります。
バンドリーダーでありドラマ―のチック・ウェブは、スウィング・ジャズの歴史の中で、大変重要な役割を果たしました。彼のドラムは、それまでのバンドの誰よりも、爆発的な勢いを持っていました。
この曲を聴いていると、インプロビゼーションの仕方が「ビバップ」に近づいていることがわかります。この「I Got Rhythm」と同じコード進行を使って、他のジャズ・ミュージシャンが、新たな曲をいくつも生み出しました。このコード進行は「Rhythm Changes」と呼ばれ、ジャズの歴史の中で何回も出てくる言葉です。
-この「I Got Rhythm」に負けないぐらい、ジャズ・ミュージシャンが頻繁に取り上げる曲といえば、「When the Saints Go Marching in(聖者の行進)」です。
M5「When the Saints Go Marching In」/ Louis Armstrong
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとバージョンが異なる場合があります。
ルイ・アームストロングの、1936年の録音。のちの時代の陽気な感じよりも、少し押さえた演奏です。
M6「Minnie The Moocher」/ Cab Calloway
<Spotifyリンク>※ラジオでOAしたものとバージョンが異なる場合があります。
番組の冒頭で読み上げた絵本の文章の中で、「アップタウンのクラブで、ダウンタウンのホールで、スウィングに合わせて、世界が踊る。ハイディハイディホー。」という言葉がありました。この「ハイディハイディホー」というフレーズが、この曲で何回も出てきます。