終活されている方もいるかと思いますが…。俊太郎さん曰く「死んでからも魂は忙しい」そうです。日頃から、自分を労ってあげたいものですね。
「死んでから」谷川俊太郎
死んでからもうずいぶんたつ
痛かった思い出が死後はむず痒くなった
私という存在が何かに紛れてゆくが
その何かを呼びたくとも
言葉はもう意味をなさない
見えてはいないのに青空が身近だ
生きていた頃はなにかと騒がしかったが
いまは静かになった
前には聞こえなかった音が聞こえる
どこか遠くでオーケストラが調弦している
と思ったらそれは虹の音だった
私の骨は粉になったらしい
それを海に撒き散らしたらしい
私の好みでは草原でもよかったのだが
老いては子に従えと格言は言う
これから何が起きるのか
もう何も起こらないのか
もうちょっと死んでみないと分からない
私は良い人間だっただろうか
もうおそいかもしれないが考えてしまう
死んでからも魂は忙しい
(『プロテストソング』旬報社(2018)より)