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今日の1冊は、イギリスの作家、アンナ・カヴァンの「氷」(ちくま文庫版)。
どんな小説かというと「幻想的で暗い」。
日常でも暗闇を見つめていると、だんだんといろいろなものが見えてきますけど、
暗さのなかにも豊かさがある作品です。
~物語のあらすじ~
異常な寒波のなか、私は少女の家へと車を走らせた。
地球規模の気候変動により、氷が全世界を覆いつくそうとしていた。
やがて姿を消した少女を追って某国に潜入した私は、
要塞のような“高い館”で絶対的な力を振るう長官と対峙するが……。
迫り来る氷の壁、地上に蔓延する略奪と殺戮。恐ろしくも美しい終末のヴィジョンで、
世界中に冷たい熱狂を引き起こした伝説的名作。
この本が日本で発表されたのは1985年。
ぼく(=海猫沢めろん)が初めて読んだのは2005年くらいだったと思います。
「氷」は日本では3種類存在します。最初のサンリオ、バジリコ、ちくま文庫版、
ぼくはある編集者にすすめられサンリオSF文庫版を読んだんですけど、
このサンリオってきいたことありませんか?
サンリオといえば……みなさんキティちゃんを思い出しますよね。
キティちゃんのサンリオは昔、SF文庫本をつくっていたんですね。
78年から87年にかけて刊行していた。わずか9年。
このサンリオSF文庫はファンのあいだでは人気で、
古本屋では常に高値がついてます。
カフカ的と言われるアンナ・カヴァンの作風ですが、
とにかくエンターテイメントの逆で、
何が起こっているのかわからないまま、
悪夢のなかをずっとうろうろしている小説がけっこうあります。
眠れない夜とか、ものすごい憂鬱なときに「氷」を読むと、
なぜかわからないけど安心するんです。
明るい小説だけが人を救うわけではないということです。
この作品は日本ではいわゆる「セカイ系」といわれているものにかなり近いんです。
「セカイ系」というのはいろんな定義があるんですけど、
ぼくは、主に思春期のすごく狭い自意識の世界を描いた、エヴァンゲリオンのような作品だと思っているんです。
アンナ・カヴァンは30代にヘレンファーガソン名義でロマンス小説を書いていて、
40代くらいから筆名を変えてから作風が変わりました。
思春期特有の鋭い感性みたいなものを、晩年に手に入れたというのはすごく珍しいですね。作家のほとんどは40代あたりで丸くなっていきますからね。
作者は1968年、ロンドンで心臓発作により死亡。
ヘロインを常習していたことから作品とドラッグの影響を結びつける人が多いですが、
そうではないと思っています。
これはヒッピームーブメントのときにいろいろな芸術家が言っていることで、
まず精神から作品が生まれるのであって、
ドラッグをやってもともとの精神が変化したり、
作品が変化することはないと思います。