FUTURES ラジオ版学問ノススメ 蒲田健の収録後記&OA曲

ゲスト:平野啓一郎さん

他人の人生を生きる

平野啓一郎さんの最新刊「ある男」

人は絶対不変の分けることのできないindividual=個人ではなく、いくつもの顔や側面を持ち分けうるdividual=分人なのだ、という説を様々な形で提唱してきている平野さん。

別の人物の経歴も引き受けた上でその人物に成り代わったとしたら。一般的には、偽名を使った「偽物」と位置付けられるだろう。だが、成り代わった後に形成された様々な関係性や更にそこから育まれた感情は、果たして「偽物」と言い切れるのだろうか?

自分があの人のような立場だったらどういう人生なのだろう?憧れの要素も含めた夢物語のような思考実験としては、おそらく多くの人が経験したことのあるであろう“別の人生”。

分人の考えに立脚した上で、過去とは、名前とは、戸籍とは、差別とは、アイデンティティとは、愛とは・・・。様々な投げかけをする今作。

そしてそれら複雑なテーマがいくつも内包されているのに、スリリングに一気に読ませる平野ワールド。圧巻である。

「様々に 生まれ育み 行く中で
過去とは変えうるものなのかも」

P.S.
作家生活20年。自身のキャリアを自ら「第〇期」と分けて客観的に位置づける“空間認識能力”にも、改めてクレバーネスを感じさせる方です。そろそろ期の変わり目という感もある中、次はどんな世界を見せてくれるのか、楽しみです。

「All The Things You Are」富樫雅彦&菊地雅章