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FUTURES ラジオ版学問ノススメ 蒲田健の収録後記

2018/5/9 (水)09:20
ゲスト:柴田元幸さん(東京大学文学部名誉教授、翻訳家)

「声」が良い作品

柴田元幸さんの新訳による「ハックルベリー・フィンの冒けん」。

ヘミングウェイをして“今日のアメリカ文学はすべてこの作品から出ている”と言わしめる、マークトウェインの不朽の名作。その大きな特徴は、自然児ハック自身が書いているかのような、語っているかのような、一人称の口語体。正規の学校教育を受けていないハックのそれは、つづり間違いだったり、事実誤認だったり、とにかく破綻にあふれている。しかしながら、そういったことがむしろハック自身がそこにいるかのような世界を作り上げることに大きく関与している。
さてそのような世界が原文で描かれている場合、では翻訳をするときはどうしたらよいのか。間違った日本語のつづりは、単なる誤植として片づけられかねない。柴田さんが採用した工夫の一つは、難しい漢字はひらがなにしてみる、ということ。タイトルにもそれはあらわれる。「冒」はギリギリ書けるかもしれない。「険」はちょっと厳しいかも。といった具合だ。
そのような工夫が凝らされた結果、日本語でもハックはハックらしさを保ったまま生き生きと躍動する。

物語の奥底には、良心とはなにか、愛とはなにか、という人間の根源的な問いが埋め込まれている。だが本質的に照れ屋なのだろうトウェインは正面切って声高にそれを主張することはしない。ちょっと斜めから、「なんちゃって」というスタンスでにおわせるのだ。楽しい物語を読み終えて、“そういえば”とあとでじんわり気づいてくる。

優れた作品はかくも意味深長なのである。

「ジムがいて ハックがいる上 トムもいる
         そのおも白さ かけねなしだぜ」

P.S.原作者と読者の間の橋渡し役を、読者側に立って伝える究極の職人である柴田さん。ものすごい人なのに決して偉ぶらないそのお人柄も、本当に魅力的です。
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