蒲田健の放送後記

番組MCの蒲田健による放送後記 今回は作家の馳星周さんです。

絶望の底、それでも男は「生きること」を選んだ。

馳星周さんの最新刊「暗手」。

デビュー数年後に発表された作品「夜光虫」のおよそ20年ぶりの続編となる今作。主人公も作中で20年ほどの年を加えて、イタリアの暗黒社会で生きている。
弱さ、迷い、欲深さ 罪深さ・・・様々なものを引き受けて、常に自問自答しながらも真摯にそれらと向かい合う。彼が「生きること」の意味はどこに向かうのだろうか。

今作では馳さんが愛してやまないサッカーも大きな構成要素となっている。
ご自身が長年ヨーロッパのスタジアムで生観戦し続けてきたサッカージャンキー。
その経験に裏打ちされた試合描写のライブ感は圧巻である。
これまではあえて封印してきたともいえるこの要素がある意味満を持して登場
というのも、物語のダイナミズムをより大きくする要因となっている。

クライムノベル、ノワール小説を愛し、その道を切り開いてきた馳さん。
頑ななまでにその道一筋に歩んできたが、様々な環境の変化に伴い
近年作風も新境地を切り開いている。
そんな中、原点回帰ともいえる今作。外での経験を経て厚みを増して
本丸ど真ん中に帰ってきた。一気に読ませる筆力はそのままに
味わいが更に増している。


「故会って 道を外れて しまえども
         愛がそこに 光あてるかも」

P.S.軽井沢に居を構えて10年以上という馳さん。
今回も日帰り出張のお忙しいスケジュールの中、お時間をいただきました。
実は軽井沢には意外に作家の方がご在住とのことで
作品のジャンルを超えた交流が結構あるらしいです。
どんな話がされているのか、気になるなー。