テクノロジーとエンターテインメントで実現する未来

2020年8月26日Slow News Report



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速水:Slow News Report 本日は東京を拠点に世界で活躍されています、アーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマー、 DJ、 様々な肩書きありますが、ライゾマティクスのファウンダー 真鍋大度さんをお招きしています。真鍋さんといえば ビョーク、Ok Go、Squarepusher など海外のアーティストのコラボレーションもありますが、国内では去年Perfumeのツアー、そして先日のサカナクションのオンライン配信のライブ演出の技術サポートなどを手がけていらっしゃいます。ライゾマティクスはチームとして活動されていますが、何人くらいいらっしゃるんでしょうか。


ライゾマティクスとはどんなチーム?

真鍋:2006年に3人で立ち上げたんですけれども、今現在はスタッフ役員を含めて50名弱おります。

速水:結構ビッグチームですね。

真鍋:そうですね。いつのまにか大きなチームになりました。今は三つのグループに分かれていて、リサーチという研究開発ベースのプロジェクトやっているチームと建築ベースのチームと、デザイン、企業のコミッションワークをメインにやっているチームといて、僕は R & D(Research & Development= 研究開発)などをやっているリサーチというグループにいます。Perfumeのプロジェクトもサカナクションのプロジェクトもそこのチームでやっています。

速水:僕のイメージだともっとアーティストチームみたいな感じかなと思っていたのですが、リサーチチームとかあることを考えると、何に例えればいいんでしょうか。

真鍋:メディアアーティストって得体が知れないので結構便利に使っちゃっているところもあるんですけど、近いモデルだなと思っているのは、例えばディズニーです。ディズニーって映画だったりエンターテイメントのコンテンツをたくさん作っていると思うんですけど、ディズニーリサーチという研究開発をやっている部門があるんですね。そこで研究開発をしたものを映画やエンターテイメントに応用していくという感じなんですけど、僕らもそれに近くて、コンテンツ制作の前のフェーズというのはほとんど研究開発のフェーズなんですね。新しい技術を開発したり、新しく出てきた技術を組み合わせて何か新しい使い道を見つけるとか、コンテンツ開発だけじゃなくて、研究開発も自分たちで行っているというところがちょっと違うところかなと思いますね。

速水:先ほどご紹介したサカナクションのオンライン配信、話非常に評価が高く、ものすごく話題になっていたと思うんですが、アーティストのライブの後ろの映像を作っていますよという感じではなくて、今起こっていることと一緒に何か同期させて映像を作ったり、演出をしたりというところが特徴だと思うんですが、いわゆる技術主導の演出をやるチームみたいなイメージでいいんでしょうか。

真鍋;そうですね。市販されているツールとかソフトウェア、ハードウェアを使って新しい表現を見つけるというだけじゃなくて、自分たちでツールやソフトウェア、ハードウェアを作ったりして、それを使って新しい表現を作るという感じですね。


サカナクションのライブ配信は一人でオペレーションを

速水:今コロナ禍でライブを実際にできなくなっている中で、オンライン配信をするライブが非常に増えていますが、例えば受け手の環境、例えばネットの速度みたいなところがバラバラの中で、音楽って非常に遅れちゃいけないものじゃないですか。その難しさみたいなものってありますよね。

真鍋:映像は1/100秒ずれても気にならないんですけれども、音ってそれくらいずれてももう気になっちゃうメディアなので、色んな調整をこれまで現場のライブではやっていました。それが配信になると、例えばリモートの人達とセッションをしたいとなったとしても、少なくとも0.2秒とか0.3秒とかずれてしまう。結局光の速度は超えられないということもあるので、最近だ「この人はこういう演奏するはず」と先読みして、遅延の問題を解消するということもやられていますが、とはいえやっぱり配信のいちばんの問題は画質のクオリティよりも遅延だとは思いますね。

速水:ちなみに先日のサカナクションのライブ配信では真鍋さんはどういうことをされていたんでしょうか。

真鍋:あの現場では、音楽と同期をする部分だったりとか、今の映像の中でどこら辺に特徴があるかということや、どの辺に動きがあるかみたいなことをソフト上で解析して、その情報を使って映像を生成するみたいなことをやっていました。基本、僕一人で全部やってたという感じですね。

速水:ライゾマティクスは大きいチームなんですけど、あのサカナクションに関しては非常に少数というか、一人でやるようなこともあるんですね。

真鍋:担当するシーンが全体ではなくて、今回は2曲だったのもありますし、あとやっぱり今はどれだけ人を少なくできるかみたいな事が一つミッションとしてはあるので、普段であればもうちょっと人数を入れていたと思うんですけど、今回は設営とかのスタッフは他に2名いましたけれども、オペレーションをやってるのは僕一人だけでした。


Perfumとのコラボレーション

速水:Perfumeの話もお伺いしたいんですが、昨年PerfumeがLINE CUBE SHIBUYAで行ったライブ「Reframe2019」の最先端のデジタルアートの演出も話題になりました。このライブは映画として「Reframe THEATER EXPERIENCE with you」というタイトルで9月4日から公開になるということなんですが、ライゾマだけではないビッグチームの作品ということになるので、これもまた全然違う取り組みですよね。これはどういうものなんでしょうか。

真鍋:2018年、2019年とPerfumeがシアターサイズの箱で行なった公演なんですけど、普段はドームとか数万人入るような大きいサイズでやっているPerfumeにしてはすごく小さい箱でやっていて、基本的には全部肉眼で、サービス映像みたいなものはなしで体験できる作品です。最初から最後まで MC なしでぶっ通しでやるみたいなことが特徴的だったりとか、彼女たちは今年でデビュー20年目ということで、楽曲も振り付けもミュージックビデオもとにかく膨大なデータを持っているので、そういったものを解析して新しい作品を作るみたいなことをいろいろとやっているものですね。

速水:ドームでやるのとは全然違うスケールのものを作られたということですよね。

真鍋:そうですね。ドームにはドームの良さがやっぱりあります。5万人の人達が一斉に盛り上がるという良さはあるんですけど、すごく緻密なことをやろうと思ったらやっぱりシアターの方がやりやすいので、映画になって初めてわかるくらいすごく細かい緻密なこととかも行われています。

速水:Perfumeでのライゾマティクスの役割というのは具体的にどういうことになるんでしょうか。

真鍋:プロジェクトによるんですけど、例えばドームの公演なんかだと、僕らが担当するのは全体の中の数曲とかなんですね。5曲とか6曲とかそれくらいですし、ミュージックビデオだと演出の一部を担当するとか、そういう感じなんです。だけど今回に関しては最初から最後まで全部担当している。そういった意味でもライゾマの関わり方としては珍しい公演ですね。

速水:Perfumeとはどういうきっかけで一緒に仕事をされるようになったんですか。

真鍋:実際にお仕事をさせて頂いたのは2010年のドーム公演からなのでもう10年経ってます。きっかけは、もともと僕がPerfumeのライブを見ていたし、ミュージックビデオもすごい好きだったので、自分たちがやっているテクノロジーを使ったこととかとも近未来テクノポップユニットと相性もいいだろうと思ってプレゼンを2008年くらいから何度かしていたんです。

速水:真鍋さんから持ち込んで始まったコラボレーションということなんですか。

真鍋:僕から持ち込んだコラボレーションは特に成立しなかったというか…

速水:ボツになったんですね(笑)

真鍋:そうですね(笑)当時提案していたネタは全部ボツになったんですけど、その後mikiko先生というPerfumeの演出をやっている方が、2010年にテクノロジーを使った新しい演出をやりたいということで声をかけてくださったという感じですね。

速水:なるほど。そこでボツになったのにようやく願いが叶って一緒に仕事をするようになったんですね。

真鍋:そうですね。当時出していたアイデアとかは、本当にここ数年でできるようになったという感じですかね。

速水:ボツになった話というのは、例えばどういうアイデアだったんですか。

真鍋:映像を解析して、そこにグラフィックを乗っけるみたいなことは2000年代の初めくらいからやっていたんですが、これを生のライブでやったら面白いに違いないといって提案していたんですけど、なかなか通らなかったんです。それこそサカナクションでやったこともそうですけど、そういったことが徐々にできるようになっていったので、個人的に学校でやったりとか、アートプロジェクトでやっていた時から、10年以上かけてやっとエンタメの世界に受け入れられたという感じですかね。

速水:Perfumeはテクノロジーのイメージもありますが、リップシンクという、テクノロジーだけではなくて“合わせる” ことの面白さだったり、ダンスがめちゃくちゃうまいとか、Perfumeと一緒にやっていて、Perfumeだからできることってたくさんあると思うんですが、ひとつあげるとしたら何でしょうか。

真鍋:やっぱりパフォーマンスがめちゃくちゃすごいなと思いますね。3人でやっていてすごいなと思うことは結構あります。もちろん個々の身体能力も高いんですけど、3人の同期精度みたいなこともすごいし、そこに関しては上手い下手とかのレベルを超えた、ちょっと神がかったものがあるなと思って見てますね。


ライブと配信

速水:後半は「テクノロジーとエンターテイメントの未来」というテーマでもお話を伺いたいんですが、今ライゾマティクスが出かけている新しい試みとして「Messaging Mask」というものを開発されたそうですね。

真鍋:配信とかオンラインとか、僕らは元々そういうのもやっていたんですけど、やっぱり最後は生の現場でライブを見たいというのが強く自分達もあります。でも生の現場が戻ってきた時に、しばらくは声を出したりできないとか、騒げないみたいなフェーズが結構あると思うんですけど、仁王立ちで声も出さずにライブを鑑賞する状態というのは結構しんどいんじゃないかなと思うんですよね。そんな時に、ささやき声で音声を認識できるマスクを作って、それでお客さんのメッセージを、例えば映像とか違うスピーカーから出る声なんかでステージ上のアーティストに届けばいいなということで作ったものですね。

速水:アーティストが一方的に届けるものではなくて、観客も含めてその場を作るみたいな、相互のインタラクションをいかにテクノロジーで再現するかみたいなことを考えられているということですか。

真鍋:お客さんからのフィードバックというか、アーティストへの声が出せない状態をどうやって打破するかみたいなことで、現状プロトタイプですけど、そういうものですね。

速水:真鍋さんは、ライブは配信やテクノロジーで置き換え可能という立場ではないんですね。

真鍋:配信とかで見ているのって、テレビとか DVD に毛が生えたと言ったらあれですけど、そういったものでしかないのはないかなと思いますね。やっぱり会場で大きい音で周りの人達と一緒に聴く体験というのは、自宅でパソコンやスマホで見ている体験とは比較にならないと思います。もちろん今はそういう需要もありますし、僕もそうやって鑑賞しますけど、そういう状態なので仕方なくやっていることで、やっぱり最終的には絶対現場に戻らないとダメだなとは思いますね。

速水:なるほど。テクノロジーとエンターテインメントの未来と考えてしまうと、どうしても家にいながらにしてとか、今回のコロナウイルス以前からそっちの方向にあったと思うんですけど、そうではないというのは非常に面白いですね。逆にテクノロジーとエンターテインメントの未来って真鍋さんはどう考えているんでしょうか。

真鍋:選択肢が増えるということ、これ自体はすごくいいことです。やっぱり遠いから行けないとか、家から出られない事情があるとか、そういう人が遠隔でライブ会場に参加したような体験ができるというのは、もちろんテクノロジーがなかったらできなかったことです。通信だったり、いろんなプラットホームができて初めてできるようになったことですから、これ自体は素晴らしいことだと思うし、今までなかった新しい表現とか、そういった鑑賞体験を作っているということは間違いないと思いますね。ただ元々あった生のライブというものの価値がそれで下がっていくかというと、僕は逆だと思っています。今の状況になって生の価値がどんどん上がっていって、早くライブを見たいとか、そういう風になっていったので、最終的にはいろんなオプションが出てきて、これから生のライブをやる時には必ず配信もセットになるみたいなことになっていくんじゃないかなと思うんですよね。

速水:その場合、現場で見ているものと配信で見ているもので同じ環境を再現できることを目指すんでしょうか。

真鍋:僕らはそういうシチュエーションが結構あって、例えばリオオリンピックの閉会式もそうですし、紅白歌合戦なんかでもそうなんですけど、会場にはお客さんがいるけれどテレビ越しに見ている人も結構いると。会場は5万人だけどテレビで見ている人は20億人みたいな感じで、やっぱり両方を楽しませなきゃいけないんですけど、同じ演出をやるだけだともったいないので、テレビで見ている人に対しては違うエフェクトをかけたりとかしています。でもそれをやっている瞬間に会場の人が全く分からなくて盛り上がってなかったらテレビの人も盛り上がらないんですよね。なのでオリンピックの時は、テレビの人しか見ていない演出をやっている時は、会場の人には別の演出を見せて、それではわーっと言わせてるんですよ。 それでテレビで見ている人たちは会場でも起きてているんじゃないかみたいな、そういう感じで錯覚して盛り上がるとか、そういうテクニックもありますね。


次はゲーム開発も

速水:紅白歌合戦のときテレビでPerfumeを見ていて、会場では何が見えているんだろうというのはすごい気になってました。最後に今真鍋さんが一緒に仕事をしてみたいなという人はどんな人なのか、お伺いできますか。

真鍋:エンターテインメントで一緒にやってみたい方ってまだまだいっぱいいるんですけど、映画とか、そういうストーリーテリングとか、長尺の映像の仕事はあんまりやったことがないので、そういうジャンルも興味あります。あとずっと僕はゲームが好きで、小学校1年生の時からゲーム少年だったんですね。今も毎日やっていますし。

速水:ちなみに今は何やっているんですか。

今真鍋:ストリートファイター5は未だに毎日やっています、豪鬼使いで。

速水:ゲームの仕事は今までされていないんですか。

真鍋:エキシビジョンマッチの演出や映像を作ったりしたことはありますが、実際にゲームの開発みたいなことにはまだ取り組んでいないので、何か一生のうちに一つでもいいからゲームの制作に関わりたいというのは前から思ってますね。

速水:なるほど。音楽って新しいテクノロジーを導入してそれを伝える役割もあるんですけど、今はゲームが社会の一番新しいところを先取りして提供していますよね。

真鍋:僕もそう思います。

速水:ゲーム、それは注目するジャンルとしてはなるほどと思いました。ここまであれこれお伺いしてきましたが、9月4日から「Reframe THEATER EXPERIENCE with you」が公開されます。今日はそのデジタル演出に関わられている真鍋大度さんにお話を伺いました。ありがとうございました。