アマゾン時代の書店、街の本屋の価値

2020年8月13日Slow News Report



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速水:Slow News Report今日は堤未果さんとお送りします。今夜のテーマは 「アマゾン時代の書店、街の本屋の価値」です。相次ぐ大手書店の店舗閉鎖の話なんかもありますが、今夜は街の本屋の価値というものを考えていきたいと思います。いくつか最初にメッセージを読んでみたいと思います 。「本屋さん大好き。街の本屋さんも古本屋も、もちろんアマゾンも楽天ブックスもみんなすごく使っているので、今日のテーマ楽しみです」というメッセージ、街の本屋さんも使っているし便利だからネットの本屋さんも併用している方も多いと思うんですが、今日は街の本屋の側の話を主にしたいと思います。まずは今の街の書店の状況について、書店の数は今どうなっているんでしょうか。


雑誌の衰退とともに斜陽になってきた街の本屋

堤:今から大体20年くらい前、90年代の終わりくらいの頃には日本全国で23,000店くらいあったんですね。

速水:世界的にみても、人口比で見てもこんなに多い国はないといわれていましたね。

堤:ところが、例えばアマゾン のようにネットで買えるようになったということがあったり、スマホやネットの台頭でみんな雑誌を買わなくなってきているんですよね。日本の本屋さんが海外と比べて特徴的なのは、雑誌と書籍両方流通しているんですね。今は雑誌の売上がすごく下がってきてしまっていて、もう図書カードの機械を置いている普通の本屋さんが8,800店に激減してしまったんです。

速水:これはコロナ以前から減ってきていて、推移してきた数が8,800店ということですね。

堤:そうなんです。皆さん本屋さんに行かれないということもあって、追い打ちをかけているんですけれども、その前からかなり苦境に置かれていました。雑誌と書籍の両方扱っていたことも仇となってしまって、それまでは雑誌が売上を支えていた所があったんですけれども、雑誌が激減したことで売上がガーッと下がる原因になってしまいました。

速水:アメリカなんかでも、いわゆるチェーンの書店が減っている一方、個性的な街の本屋さんは逆にここ5年10年でむしろ元気になっていたり、増えたりしていたりしますが、日本の雑誌頼りという構造が今の日本の書店の苦境につながっているところがあるんですね。

堤:やっぱりアメリカの場合は本だけが流通しているというシステムがあったので、雑誌の売り上げがデジタル時代に減ったとしても、それでもやっていけるシステムというのがあったんですね。それで、今はもっと個性を出した書店さんが逆に開業できているんですね。

速水:日本の書店の置かれている状況の中でも、特に規模の小さな本屋さんが苦しんでいる要因は、日本の配本であるとか取次のシステムにもあるということなんですよね。


日本の書籍の流通形態にも問題が

堤:そうですね。今、ランク配本という制度がありまして、これはどういうものかというと、店の規模の大きさによって自動的にランクが決められて、取次さんが配本するという仕組みです。もちろん毎日大量の、1日100冊新しい新刊が出ますから、全部流通させたら大変なことになってしまうということで、取次さんの方で選んで配本してくれるということなんですが、 これですと規模の小さい本屋さんには不利なんですね。

速水:大手の書店にはベストセラーの、置いておけば売れる本が優先的に配本されるわけですね。

堤:大手には優先的に何百冊と配本されるんですけれども、小さな書店はそんなに売る力がないということで0だったり、あっても一冊だったりする。大変不利なんです。もちろん小さい本屋でも、ものすごく売り上げがあるところはあるんです。新聞に「全国書店で何月何日に一斉発売」と出ると、私達はどこの本屋さんにもあると思うじゃないですか。ところがそういうわけでもないんですね。

速水:本日は実際に街の本屋の方にお話を伺ってみようと思います。堤さんもよく知っている方なんですが、大阪の谷町にあります隆祥館書店店長の二村知子さんにお電話がつながっています。この方はどんな方なんでしょうか。

堤:隆祥館書店は大阪谷町の名物書店で、結構ローカルテレビなんかにもよく取り上げられるんですけれども、創業70年の歴史がある本屋さんです。二村知子さんはこの隆祥館書店の二代目店主です。お父様が名物書店店長オーナーさんだったんですね。そして、彼女はシンクロナイズドスイミングの日本代表でもあったんですけれども、お父さん亡き後、本屋さんをついで、今お店を切り盛りしていらっしゃいます。ここは大手書店とかネットの書店にはできない、ものすごく個性的な取り組みをたくさんされていて、街の名物書店となっています。

速水:トークイベントが書店で行われることって非常に増えていますけど、そのはしりみたいな書店ということで、堤さんも実際にトークイベントをされているんですよね。

堤:はい。私も2回くらい呼んでいただきました。

速水:なるほど。堤さんとも仲がいいということで、お話直接伺うの非常に楽しみにしているんですが、早速つなげてみたいと思います。

堤:二村さん、今日はありがとうございます。今、コロナの状況で結構書店さんも大変だと思うんですけれどもいかがですか。

二村:うちはすごく小さな本屋なので、店頭販売と外商がだいたい同じくらいの比率でやっていたんですね。ところが配達先のクリニックや美容室さんがコロナでお客さんがすごく減っているから配達を止めてほしいといわれて、それが4月、5月、6月とありまして、外売の売り上げが激減してしまいました。

速水:店頭だけではなくて、そういう地元の商店街なんかに配達しているのも非常に大きい収入源だったわけですよね。

二村:そうなんです。大体店頭と外売で半々ぐらいで売上を維持していたんです。

速水:街の書店さんはやっぱりみんなそういう割合なんですか。

二村:だいたい大きいところはお店だけで、小さいところは配達しているところが多いですね。

速水:そうなってしまうと売り上げが下がっていってしまうわけですね。お店を運営していくのは非常に苦しい状況になっていっているということですか。

二村: そうですね。

速水:その中で、先ほどもランク配本という話を紹介したんですが、二村さんの書店でもランク配本で困ったことって起きてますか。

二村:先ほど堤未果さんがおっしゃったように、新聞には「全国書店にて発売中」と出るもんですから、お客さんはあると思って来られる。でも実際に来られた時になくてですね、出版社、取次さんに電話してももう在庫なしと言われるんです。それは結局大手だけにいっているわけです。小さな書店にはランク配本というものがあるので、一冊もしくは全く届いていないという状況が昔からの慣習になってしまっているんです。

堤:でも二村さんの隆祥館書店は、規模は小さいけれども沢山売ってますよね。


たくさん売っていても店の規模が小さいと配本されないものも

二村:そうなんです。例えば堤未果さんのイベントをしたり、やっぱり自分が使命を感じた本というのはすごくお勧めしたりするので、その本だけは日本一売ったりするんです。それなのに、次に違う出版社さんから堤さんの本、例えば「日本が売られる」という本が出た時には一冊も入ってこなかったんですね。過去には、堤未果さんの新書は100冊以上毎回売ってるんですよ。にもかかわらず、「日本が売られる」の時は一冊も入っていない。お客さんもここだったらあると思って来てくれるので、そのお客さんに対しても申し訳ないですよね。だから取次さんには実績で配本して欲しい、著者によっては日本一販売しているので、そういったものに限ってはちゃんと実績を踏まえた上で配本してほしいというのはお願いしているんです。けれども、大手取次さんのトーハンの役員の方が「分かったから5年待ってくれ」と言われてもう2年経ってるんですけどね、まだ駄目です。

速水ここの本屋でこれが売れてるんだったら重点的に配布するみたいなことができたら、もっと全体の売上も引き上げられると思うんですけども、そういうことはないんですね。

堤: 今だったらAI とかでできそうですけどね。

二村:この仕組みをもともと作られた上瀧さんというトーハンの元会長がいらっしゃるんですけど、その方が「もうこの方法はだめだ。これからはその書店の個性をAI で掴んで配本していくということをしないといけない」とおっしゃってるんですけど、果たしてその声がトーハンの社長に届いているんでしょうか。

速水:地域特性に合った配本みたいな事って、デジタル時代には本当はもっとできるはずなのにできていないといわけですね。後半は隆祥館書店さんの取り組みの話もお伺いしたいんですが、お客様と本をつなぐ取り組みということで色んな工夫をされているそうですね。


街の本屋の取り組み

二村:まず9年前から「作家と読者の集い」と題して、書き手と読者をつなぐイベントを開催しています。

速水:これまさに堤さんが出演されたイベントですよね。

堤:二村さんの選んだ著者ならということで、二村さんのセレクトを信じてお客さんがもう一瞬で満席になるんです。

速水:これちなみに堤さんと二村さんはどういうきっかけで繋がったんですか 。

堤: お手紙をいただいたんですよね。二村さんはご自身でたくさん本を読んで、これと思った著者の方に直接お手紙を書いてくださるんですね。私の本も読んでくださって、素晴らしい感想を送っていただいて、私も心を打たれて、じゃあ是非ということで大阪まで行ったんです。

速水:それを始められたのが9年前ということですが、ちなみにどのくらいのお客さんが来られるんでしょうか。

二村:大体50人から100人以上ですね。

速水:書店イベントってなかなか難しくて、3人ぐらいしかいない書店イベントも正直ありますけど、桁が違いますね。

堤:そしてものすごい熱気なんですよ。このイベントはちょっと普通と違うんですよね。

二村:他にも「ママと赤ちゃんのための集い場」というのもやっています。たまたま近くのお蕎麦屋さんに行ったら赤ちゃんはお断りなんですと言われたママがいらっしゃったり、なんかちょっと社会が排他的になっているような感じのニュースがあったりして、それならばママと赤ちゃんが集まる場所を作ろうと思ってはじめました。あと言葉ってすごく大事だと思っているので、お子さん達と親御さんも一緒に「辞書引き体験講座」とか「動く図鑑 moveのびっくりクイズ大会」とか、そういうことをしてしています。また、やっぱりお客さんには健康でいてもらわないと困るので、健康のための本の実践体験講座とか、そういうのもしてました。

堤:それともう一つ二村さんがしている素晴らしいことは、二村さんがその人のためだけに本を選んでくれるんです。

二村:店頭に来られたお客さんの悩みとか趣味趣向とか、いろんなことを聞かせていただいて、こういう時にはこんな本がいいとおすすめしています。自分自身が何回も本に救われたことがあったし、パニック障害になってしまったこともあるんですけれども、その時にこんな本で自分は立ち直れたという本が本当にあるので、そういうお客さんにはおすすめしています。また、最近はコロナでなかなか外に出られない状態にもなったので、店頭に来れない方のために一万円選書というのも6月1日から始めたんです。1万円という金額にも関わらず申し込んでくださる方もあって、こちらが質問を用意しているんですけれども、その質問にもすごく丁寧に書いていただいて、それがすごくありがたくて。本にそれだけの思いを持ってくださっているということが嬉しいんです。

速水:すごいですよね。本の知識も必要だし、お客さんとよくコミュニケーションをとるという両方が必要なので、本だけ知っててもダメだしと、どこの本屋さんでもできることではないですよね。先ほど堤さんから万引きのエピソードがあると伺ったんですけれども、そのお話もお伺いしていいでしょうか。

二村: ちょうど私が店を手伝い始めた頃だったんですけれども、地元の中学生が“エロ本”を(笑)カバンに入れたのを見てしまったんですね。見つけた時は自分もドキドキして、どうしようと思ったんですけども、「僕、今とったよね」って言って、その子をお店にちょっと預かったんです。そこで父とか母が来るまでの間、お客さんも来られますよね。そしたらそのお客さんが「なんや、どないしたん」と言って、いや実はこの子ちょっと万引きしちゃったんですと言ったら、お客さんが「僕なあ、気持ちはわかるけどな、本はとったらあかんねんで」と言って、いろんなうんちくをそのお客さんなりに言われるんですね。その子もうんうんと聞いているんですけど、そのお客さんが帰ったらまた次のお客さんが来られて「どないしたん?」と。そのうちに父が帰ってきたんですが、うちは万引きをした子がいた場合に、警と察には電話はしないということを父が決めているんですね。やっぱり将来もある子供やしというこで、家と学校には電話するんですけれども、まず家に電話をしたら、お母さんが水商売をされていて、母子家庭でお母さんがいらっしゃらなかったんです。仕方ないから学校に電話をしようとしたら、「いや学校にはせんといてほしい」と言うんです。聞いたら学校の先生に殴ったり蹴られたりされると。そしたらうちの母がそれはあかんと、私が先生に言ってあげるからと言って学校に電話をしたんです。それで先生が申し訳ない今からすぐ迎えに行きますと言って店に来られたんですけれども、その時に母が 「先生、この子から聞いたけれども、あんた殴ったり蹴ったり、そんなことしなはんなや」と言ってその先生に怒ったんです。

速水:本来だったら本屋さんとして被害者なのに、いつのまにかその子の味方になってたという話なんですね。

二村:それでその子も反省して一応先生が連れて帰ったんですね。そこからこの話は後談があって、しばらくしてその中学校の先生から電話があったんです。あの時はすいませんでしたと言って、実はあの子はずっと登校拒否だったのが、あのことをきっかけに学校に来るようになったと言うんです。そんな話があったんです。

堤:私はこのエピソードを取材で聞いた時に本当に泣きました。

速水:なんだか大阪らしさもありますね。

堤:大阪らしさもあるし、暖かさもあるし、商品を売るというだけではないものが街の本屋さんにはあるんですね。

速水:エロ本というところも脚色しないでエロ本のまま言っていただいたのも非常に良かったと思います(笑)二村さんの人柄もよくわかるお話でしたね。

堤:リスナーさんの中にもたくさん共感する人がいるんじゃないかと思います。

速水:今日は「アマゾン時代の書店、街の本屋の価値」とか言いながら、結局街に密着した本屋の話に行き着いたのは非常に面白かったなと思いました。

二村:やっぱり小さな本屋が一番大事にしていることは、お客さんとの信頼関係なんですね。本当に信頼関係を築くためにも、ちゃんと自分が読んで、この本だったら勧めることができる、これは今伝えないといけないという本をしっかりと伝えていきたいと思います。

速水:それがこれからの本屋のあり方としての一つの道しるべになる気がしました。今日は隆祥館書店二村知子店長にお話を伺いました。ありがとうございました 。