戦争を語り継ぐ

2020年8月11日Slow News Report



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速水:Slow News Report まもなく8月15日は75回目の終戦の日です。日本の人口のうち戦後生まれの割合は8割を超えているということなんですよね。75年というのはそういうことなんですが、これが意味することは、戦争を体験した方から直接話を聞くために残された時間はもう限られているということなんです。今日は、戦争を語り継ぐことをテーマに沖縄在住の記者 フロントラインプレスのジャーナリスト当銘寿夫さんに伺いたいと思います当銘さんよろしくお願いしますまず。沖縄では6月23日が慰霊の日ですよね。実はこの時期に僕は沖縄に行っていることが多くて、その日の沖縄の空気みたいなことというのもある程度はわかっているつもりなんですが、どうしても東京のメディアは8月が戦争について考える時期になっています。沖縄では6月23日と8月15日って意味合いが全然違うんですよね。

当銘:そうですね。やっぱり沖縄県に住む人達にとっては6月23日、組織的戦闘が終結した日というこの日が慰霊の日ということで、戦争のことを考える大切な日になっています。

速水:8月は8月で何かあるんですか。

当銘:8月6日、9日の広島長崎に原爆が落ちた日はすごく色々考えることが多いんですけれども、8月15日はそこまで強い意識をさせられるような日にはなっていないのかなというのが正直なところです。


ひめゆり学徒隊の悲劇を伝えるひめゆり平和祈念資料館

速水:今回は沖縄における戦争の語り部に関する取組みの話を伺うんですが、当銘さんが取材された「ひめゆり平和祈念資料館」という施設はどういうものなのか教えていただけますでしょうか。

当銘:沖縄戦の時、当時の中等学校からも生徒達がかなり動員され、戦場に送られました。今「ひめゆり」と呼ばれている方たちは、師範学校(先生を養成する学校)と県立の第一高等女学校の生徒が200名以上陸軍病院に動員され、看護活動にあたったんです。そして、そのうち先生を含めて136人の方が看護活動をしながら命をなくしたということがあって、「ひめゆり学徒隊」という名前が全国に広く知られているですけれども、その方たちの悲惨さというのを後世に伝えるために資料館を建てようということで、1989年に建てられたものがひめゆり平和祈念資料館になります。

速水:この施設では戦争体験者の方がその体験を語ってくれるんでしょうか。

当銘:そうですね。1989年の開館直後は、元ひめゆり学徒隊の方たちが自分たちで自らの経験を直接語っていたんですけれども、2005年から説明員制度という制度を作って、体験者ではない方が体験者の説明を色々と聞いて、勉強をして来館者に説明するということも行われています。


戦後世代が戦争体験を語り継ぐことの難しさ

速水:2005年ということはもう15年前から始まっている取り組みということなんですが、直接戦争の体験者ではない世代が語る事って非常に難しい部分がありますよね。

当銘:説明員の中には、説明を受けた大学生から「あなたの説明はわかりやすかったけれども体験者の方の話と比べると重みがありませんでした」という感想を言われたこともあるようです。

速水:本当に実体験を語っていることと、それを受け継いだ人たちが語ることというのは、意味合いとしては違うんですが、それでもやっぱり伝えていくんだということがまず一つあるわけですね。そういう実体験の声の人たちに勝てないものってあるわけですけれども、そのことに対する取り組みがあるそうですね。

当銘:ひめゆり平和祈念資料館では、体験者の方が戦争中に逃げ回った場所を実際に一緒に付いて回って、ここでどういう光景を見たとか、どんな匂いを嗅いだというのを一緒に話を聞かせてもらって、体験を重ねるというような取り組みを一年かけてやりました。その中で17人の戦争体験者、元ひめゆりの学徒の方々の体験を説明員の方々は追体験して、自分たちの説明に補足、補強するような取り組みをしてきました 。

速水:それに参加している説明員の方々はどういう思いなんでしょうか。

当銘:戦争を直接体験した方と現地を回るというような体験自体が誰でもできるわけでもないですし、いつでもできるような状況にはなっていないので、おそらく自分たちが伝えていかないと、もうこの人たちの体験を後世に残せないんじゃないかという、強い使命感を感じているんだと思います。

速水::世界的に、戦争や事故、災害をミュージアムという形で追体験をさせる展示をする、ある種のエンタテインメントの形にしていたりするものも非常に多いですよね。ポーランドのアウシュビッツの博物館なんかも有名ですが、そういう後世に何かをつないでいくような施設の視察なんかも行われているそうですね。

当銘:ひめゆり平和祈念資料館は、戦争を体験していない世代がつないでいかないといけないというような危機感があったものですから、アウシュビッツの博物館であったり、オランダのアンネ・フランクの家という、ユダヤ人迫害を伝える場所にも行きました。そこで戦後世代がきちんとそこで何があったのか、そのことからどういうことを学ばないといけないのかということを説明している姿勢を見て、自分達もこういう風に伝えていかないといけないんだという思いを強くしたようです。


時間が経ってから語れるようになることも

速水:戦争だけではなく、例えば東日本大震災で起きたことをどうやって受け継いでいくかということも、日本では大きいテーマなんですが、被災を受けた建物を残すのかどうかという話がよく出ます。その時に、やっぱり生々しいものを残して記憶が蘇ってくるのが嫌だという声も東日本の時はありました。沖縄の場合はこういう事ってあったんでしょうか。

当銘:実際に沖縄戦の体験者の方でも、戦後70年経って初めて自分の体験を人に話したというような人がいました。やはり目の前で自分の家族が亡くなったり、友達が亡くなったというような、とてもシビアな体験をされていて、それを70年間ずっと自分の中に持っていて、誰にも喋れなかった。けれども、ようやく自分の気持ちの中で消化できた部分があり、また、今伝えないともう後世にこの事を残せなくなってしまうという危機感から、75年経ってようやく喋り始めてくれた方がいらっしゃいます。東日本大震災というのは、まだ10年しか経っていないわけですから、まだ話せないという方はいらっしゃると思います。でもこのタイミングだったら話せそうだというような時期がいつか来るかもしれないので、その時に是非お話を聞かせてくださいというような姿勢を私たちが持つということが大事かなと思います。

速水:何をどういう形で残すのか。もちろん時間が経てば失われていくものもあるんですけれども、そこの間で熟成するまで、ある種の流れていく時間というものも必要なのかなと思いますね。


【元ひめゆり学徒隊 仲里正子さん】
私がこうして最初は語れなかったけど、語り始めてだんだんわかってきたことは、私がなぜ8月まで逃げ回っても捕虜になりたくないという思いでいたかということ。当時の教育で、もう本当に軍国少女、国のためなら命を捧げてもいいというようなことを思っていましたし、8月までまだ勝ってるとばっかり思ってたんですよ。だからそれはあの教育なんですよね。小学校の頃から日中戦争があり、女学校に入ったら太平洋戦争になり、本当に正義の戦争だという風に叩き込まれたので…


速水:この声の方はどなたなんでしょうか。

当銘:先ほどのひめゆり学徒隊を経験された仲里正子さんという方です。お話を聞かせて頂いた昨年7月の段階で92歳になられていました。

速水:この方を取材されている中で印象的なことは何だったんでしょうか。

当銘:92歳というお年だったのですが、それでもこのひめゆり平和祈念資料館で1ヶ月に2回ご自身が説明に立たれていて、体力的にきつくありませんか?と聞いたら、「私は元気な方だし、本当は生きられたはずの友達がたくさん亡くなっていますから、その悔しい思いを伝えないといけないですよね」と語っていたのがすごく私は印象的でした。


沖縄の戦争への距離感

速水:やっぱり当事者に直接聞かなければ分からない部分って多いと思うんですが、そもそも沖縄とそれ以外では、戦争に対する距離感の違いみたいな事ってあると思うんですよね。それは前回に当銘さんにお伺いした不発弾は圧倒的に沖縄が多いという事実からもうかがい知ることができますが、戦争との距離みたいなものって沖縄とそれ以外では違うと感じる事って多いですか。

当銘:沖縄が特徴的なのは、住民を巻き込む形で地上戦が展開されたということです。その時に多くの県民が亡くなりました。沖縄戦では日米の軍人も含めて約20万人が亡くなっていて、そのうちの122,000人以上が沖縄県民です、当時の人口で比較すると、県民の四人に1人がなくなったのではないかと言われています。

速水:関係者でない人達なんていないんじゃないかという位の数ですよね。当銘さんはもちろん戦後生まれですが、ご両親ですら直接戦争を知らない世代じゃないですか。

当銘:私は遅い子供だったので、父は戦前の昭和10年1935年生まれでしたので、沖縄戦当時は10歳でした。

速水:当時のお話を伺う事ってありますか。

当銘:私の父は沖縄で戦争が始まる前に宮崎県に疎開をしていたのですが、私が当時の父と同じ10歳の時と、32~33歳の時に、父と一緒に宮崎に疎開した場所を訪ねて行って、ここで下宿させてもらっていたとか、ここの山で宮崎の友達と一緒に遊んでいたという場所を色々と教えてもらいました。

速水:戦争を直接知らない当銘さんのような世代が語り継いでいくことって、やっぱり意識せざるを得ない部分ってあるんですかね。

当銘:そうですね。父は当時10歳だったんですけれども、今はもう75年経っているので今月で85歳になっています。やっぱり75年という時間というのは10歳の男の子がもう85歳のおじいちゃんに変わってしまうわけです。ですから、物心がついたころに戦争を体験したという方から直接お話を聞ける機会というのは、もう本当にカウントダウンが始まっていると思うんです。あと5年経った戦後80年というのは、少し探せば戦争体験者に会えるという今のような状況では確実になくなっているだろうなと思います。

速水:いくつかメッセージを挟みたいんですが「戦争の記憶はいつか風化してしまうと思う。それは仕方ないけど、今はデジタルの時代だから、記憶をたくさんの形で残すことができます。それを保存して、いつでも未来の人が見える状態にする。これが大事です」というメッセージ頂いています。僕なんかは両親はもう戦争を知らない世代だったんですけど、団塊の世代なんかも戦争からちょっと時間がたった世代だったりして、どんどん関心が薄くなるのかと思いきや、逆に若い人のほうが関心があったりするような状況もあると思うんです。

当銘:そうですね。やっぱり危機感を強く持っている若い世代の方もいると思うので、そういう風に今のデジタルを活用した残し方とか、そういうところにはかなり意識的な部分もあったりします。

速水:もう一通メッセージを読みます「話す人が減る危機よりも関心を持つ人が減る危機の方が大きいのでは」という疑問も頂いています。伝えていくことの大切さもある一方、関心を持ち続けてもらうようなテクニックとか工夫もしていると思うんですが。

当銘:戦争体験というとどうしても悲惨さの部分に目を向けられてしまって、「どうせまた辛い話が出てくるんでしょう」みたいな感じで受け手の方に思われてしまうのですが、そうではなくて自分たちが普段過ごしている日常が途端に崩れていってしまうという、今を生きている方々にも自分事として捉えてもらえるような表現の仕方とかというのは考えていかないといけないなと思います。

速水:沖縄では観光は大きい産業ですが、そこに遊びに行っている人たちがお買い物したり、海に行ったり、水族館に行ったりという中で、その土地がどういう場所で、どういう歴史があるのかということを知るということは必ずしも乖離しているものではなくて、遊びに行くことと何があったのかを知ること、そういうものが全部混ざった上で観光というものが成り立っているみたいな見せ方もあると思うんです。今日は終戦の日を迎える前に戦争を考えるリポートお送りいたしました。明日も当銘さんに戦争に関わるテーマでお話を伺いたいと思います。当銘さんどうもありがとうございました。

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