メディアの在り方、そして ラジオの今後

2020年8月5日Slow News Report



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速水:Slow News Report 昨日に引き続きフロントラインプレスの奥村倫弘さんにお越しいただいています。昨日はネットメディアがどういう風に作られるのか、どう変化してきたのかという話をいろいろお伺いしたんですが、今日はまずメッセージをいくつかご紹介したいと思います。「ニュースはラジオで聞いています。テレビで言えない裏のことを聞くためにニュースはスマホで読んでいます」ラジオでも聞いてるしスマホでも読んでますという方ですね。「新聞社が書けないことを読むために、世界で起きている埋もれているニュースを知るために、本当のことが知りたい」というメッセージです。新聞が書けないことがネットのニュースだったら見れるということはあるんですか。

奥村:それはあると思いますね。新聞がカバーしている範囲ってすごく狭いと思うんですよ。政治経済とか社会問題とかは新聞が強いですけれども、IT業界とかですね、食品業界、スポーツ、エンタメ…世の中幅広いですよね。そうなるとやっぱりラジオとかネットでしか聞けないニュースというのはたくさんあると思います。


ネットニュースか新聞かではなく、どこが信頼できるのかが大事

速水:ニュースは多様であるほうがいい、いろいろ見たほうが世界のことを知れるというのは確かかもしれないですね。もう一通読みます。「我が家にはテレビがないので私のメイン情報源はラジオです。テレビは自分の意志で買わないことにしました。個人的にテレビのニュースはワイドショーっぽい色が強くて、イマイチ信頼ができないと感じているからです。ニュースについては、国内のことはラジオ、海外のことはインターネットラジオで、気になった内容をネットニュースで読むようにしています。複数の記事に目を通し、批判的に読むことを心がけています」 というメッセージです。この方も幅広い目で見ているという方ですね。

奥村:大事ですよね

速水:ネットニュース見ている人は非常に多い一方で、紙で毎日届く新聞は有料ですし、どんどん溜まってかさばるし、結局毎日読むといっても「もうネットで見たよ」みたいな話もあるし、新聞ってどうしても分が悪くなってきている、昨日の話はまさにそこでした。ネットニュースはみんなタダですが、新聞はお金かかります。ただ新聞社は質の高いニュースをつくっています。今は必ずしもなかなかマスメディアも信頼されない時代になっているわけなんですが、IT企業がプラットフォームとして配信するところと、元々記事を作っているところとでは違う論理で動いているんだと思うんですが、IT企業と旧来のメディア、これは作る中の人からすると別物なんですか。

奥村:よく新聞とネットメディアという対比で考えられることが多いですけれども、いずれあらゆるメディアはインターネットメディアになるんだと思うんですね。そう考えた時に、ネット対新聞と考えるのではなくて、どのメディアが、どの会社が、どのサービスが信頼できるものなのか、ということを考えて読むという事の方が大事だと僕は思っているんですね。同じネットメディアでもヤフーのように真面目にニュースに取り組んでいるような会社もあれば、そうでない会社もありますし、新聞といっても真面目にやっている新聞社もあればいい加減な情報を流す新聞だってあるわけですから。

速水:昨日まさにお伺いしましたけれども、テレビで芸能人がこういうことを言ったということだけが記事になっているものも増えていて、色んなメディアがいろんな考え方をしているということなんですが、例えばネットニュースのトップページに並ぶもの、人気がある記事がどんどん前面に出てきてずっと読まれているみたいなことがありますよね。新聞って一面のレイアウトを考えるときに、何を大きくしてどれを小さく、何を何面に乗せるとかすごい大事にするじゃないですか。それとは違って機械が作ってるんでしょ?というイメージがあるんですが、その辺はいかがですか。

奥村:ヤフーのトピックスに関しては、どれが大事なのか、どれが面白いのか、話題になるのかという基準で、実は人間がピックアップして作っているんですよね。スマホで見た時に、下にタイムラインが並んでますが、そこは機械がピックアップするんですけれども、人間がやるところと機械がやるところと分かれているんですよね。

速水:とはいえ何が読まれているのかみたいな事っていうのは数字で明確に出てきますよね。新聞の場合は何面が今日読まれたとかというのは分からないと思うんですよ。投書とかで多少のレスポンスはあるかもしれないですけど、ネットの場合は明らかですよね。

奥村:同じ新聞社がやっている紙の新聞とインターネット版で見比べると、トップに出てるニュースが違うことに気づくと思うんですよね。やっぱりインターネットで展開している新聞社のサイトでは彼らも当然数字を見ているわけですよね。


瀕死のジャーナリズムを救うには

速水:奥村さんの「ネコがメディアを支配する ネットニュースに未来はあるのか」という本の中でも取り上げられていますけれども、ウェルク問題というのがかつて2016年にありました。医療関連のニュースだったんですけど、ほぼ疑似科学のようなデタラメな内容で、とにかく粗雑大量生産されました。人気のあるニュースであれば質は問わないという流れがあって、その象徴みたいな事件だったと思うんですが、今どんどん新聞が売れなくなっています。ジャーナリズム報道みたいなものがお金を得ることが難しくなっている中で、配信プラットフォーム企業が強くなってきていて、ネットニュースは見られている。そこには広告も出てどんどん収益が伸びるわけですよね。そうなると記事の質がどんどん落ちていくんじゃないかというところが昨日のお話の1つのポイントだったんですが、今まさにジャーナリズムが瀕死状態の部分がありますよね。

奥村:ジャーナリズムは誰もが関心を持って毎日見たいと思っている種類の情報ではないので、やっぱり野球とかスポーツ芸能のニュースに比べると読む人は少ないですよね。読む人が少ないということは、広告で収益を上げることも難しい。だからジャーナリズム自体が存続をどうしていくのか議論されているというのが現状ですよね。

速水:そんな中で、例えばワシントンポストはアマゾンの CEOジェフ・ベゾスが個人のポケットマネーで買収して運営するみたいなことがあります。今までのように、メディアが新聞報道を作っていくことでは支えきれなくなっているところがありますよね。ここから先、ジャーナリズムは衰退していくと考えるのが当たり前なんでしょうか。

奥村:本当に今、業界で皆さんそれを議論しているところだと思うんですけれども、やっぱりなんだかんだ言って新聞社はちゃんと事実を確認して、たまに失敗することもありますけれども、ちゃんと校閲という部署があって、編集デスクという人がいて、そしてキャップ、記者というふうに、何重にもチェックする仕組みがあるんです。いかに間違った情報を出さないかということにすごい工夫があるわけですよ。ですから月980円位からありますけれども、まず確かな情報を自分たちで手にするんだというところから始まるというのが、ジャーナリズムを維持していく一つの手段だと思うんですね。

速水:ちゃんとお金を払って、まっとうなメディアが生き残っていくというのは、ひとつのフェアなあり方であるということですね。

奥村:でもそれだけではやっていけないかもしれないですよね。ですのでアマゾンのジェフ・ベゾスの例のように、誰かがパトロンとして支援する、あるいは寄付するとか、アメリカなんかではそういう文化があるんだと思うんですけど、日本はなかなかそういう寄付文化は定着していませんし、大きなパトロンがいるわけではない。でも例えばスローニュースさんがやってらっしゃることってそうだと思うんですよね。フロントラインプレスに対して支援してくださるとか、そういう仕組みがどんどん広がっていくことでジャーナリズムというのは維持されていくんだと思っているんですね。

速水:なるほどお金の集め方みたいなところはかつてとは違うけど、新しい集め方みたいなものもあるんじゃないかということですね。例えばネット上で支持されるものに対して課金するというのは、今まではシステム的に難しかったけど、それができるようになっている部分もあるし、野球なんかもどんどん、ITなどの新しいオーナー企業に変わってるじゃないですか。

奥村:何よりも一番大事なのは、世の中がジャーナリズムって必要だよね、そのために支援が大事なんだ、それが僕たちの生活に必要なんだという意識を持つところから始まるんじゃないかなという気がするんですよね。

速水:調査報道の重要さみたいなことは番組でももちろん訴えてるところなんですが、そうは言ってもというところもあると思うんです。今の新聞社なんかは非常にコストがかかっていて、まあ皆さんお給料も一流新聞社の方々は高いですし、このまま維持できるの?みたいなところも当然疑問ですよね。

奥村:まあその辺のリストラの話はなかなか明るい話は聞かれませんけれども、それでもスリム化してやっていこうというのはよく言いますよね。


ラジオは生き残れるのか

速水:なるほど。後半はまさに今お送りしているラジオについてお話を伺いたいのですが、テーマはズバリ「ラジオは大丈夫か?」です。ラジオというメディアはそもそも若い人たちに聞かれているのだろうか?という、僕らラジオを作っている側はすごい心配しているところもありますが、奥村さんは東京都市大学メディア情報学部で学生たちと接していらっしゃいますが、今の学生達ラジオを聞いているんでしょうか。そもそもラジオというものを知っているんでしょうか。

奥村:これが驚いたことにラジオ聞いているんですよ。この前話しをしていたら、朝登校する電車の中で「ラジオ深夜便」を聞いてきたと言うんですね。

速水:あれは僕も聞くんですけど、お年寄りが聞いているイメージだと思うんですけど。

奥村:若い人が聞いてるんですよ。落ち着いた声のトーンがいいとかですね、そういう渋さに惹かれている学生も中には居るみたいですね。

速水:浮ついたFMの DJじゃちょっと駄目なんですかね(笑)。若い世代に届くメディアとしてラジオはどうなんでしょう。そういうように聞いているという例もあるかもしれないんですが、ラジオの業界は戦々恐々としていて、いろんなメディア状況の変化の中で自分たちは生き残れるかみたいな事って常に気にしているんですよ。そのあたり奥村さんの立場から見るとどう見えていますか。

奥村:僕らがインターネットメディアに接している時ってあらゆるところに広告が出ているわけですが、いずれも目で見ますよね。目で見る情報ってもう市場としてもコンテンツとしても満杯になっちゃってるんです。そうすると次に空いてるところは何かというと耳ですよね。まだ耳は広告に支配されていませんし、コンテンツにも支配されているとはまだ言えない段階なので、去年あたりからオーディオアドという音声広告がネットで動き出し始めました。それから YouTube Music とか Apple Music だとか Spotify だとか音楽を聴く環境もどんどん整ってきていますから、いわゆる音声コンテンツというのはまだ伸びていく余地は十分にあるんですね。

速水:例えばポッドキャストが今すごい人気があったりしますし、本を読むときにも音声に転換されて、アメリカなんかでは車で通勤する時に本を朗読したサービスとか聞きますよね。ちろん日本だと電車で移動しながらスマホを見るわけですけれども、アメリカでは耳のコンテンツって非常に発展していて、次に日本にも来るなんていうことも言われますけど、そういう流れもありますか。

奥村:やっぱりアメリカの方が音声コンテンツとか音声のハードウェアに関しては少し普及率は高いみたいなんですけれども、いずれ日本でもそうなるんじゃないかと思いますね。

速水:そうなった場合にラジオ局のライバルというのは、ポッドキャストなんてまさにライバルになるわけですよね。

奥村:そうですね。インターネットの歴史を見てみると、新聞社のライバルは他の新聞社じゃなくて新しく出てきたブロガーだったり新しく出てきたメディアだったりしたわけですよね。テレビはテレビで他社さんがライバルじゃなくて YouTube がライバルとして出てきました。多分同じことはラジオでも起こり得ます。ラジオ局のライバルは他局ではなくて、おそらくプロの作り手ではない人達だったりプラットフォームを作るIT企業だったり、そういうところがラジオ業界のライバルになるんじゃないかなと思いますね。

速水:僕たちも番組会議の時に、いわゆるレーティングという数字が出てきて、「TBS ラジオに勝てないんだよ」とか「今回は J WAVEを抜いた」とかそういうことをずっと言いがちなんですけれども、それだとやっぱりライバルを見誤っているということですね。ラジオが次のライバルと戦う手法はどうすればいいのでしょう。


リスナーもコンテンツになる

奥村:新聞にしてもテレビにしても、やはりそこにはプロの作り手の方々がいて、プライドを持って作っていらっしゃいますよね。だから自分たちが作るもの以外はコンテンツとして認めづらいというのはあったんだと思うんですよ。多分ラジオ局の方も同じように考えているのかもしれませんけれども、でもインターネットでは誰もが情報を発信できるようになっていて、そういうコンテンツを広く集めていく、そしてそういうコンテンツを作る人たちを支援していくというところが、インターネットメディアの発展の大きな源だと思うんですね。その点ラジオは、ポッドキャストもそうですけど、ただ出すだけなんですよね。Voicyさんなんかはセミプロを集めていますよね。

速水:音声ブログですよね。知り合いの30代の人に僕がラジオをやっているんだということを言ってもあんまり理解してくれなくて、ポッドキャストの方がよっぽど知名度が高いなんていうことがありますけれども、Voicyは確かにキングコングの西野さんとかそこでも非常に人気ありますよね。彼らはテレビの芸人だと思っている人っていなくて、新しいメディアにどんどん出て行っている。そういう人たちが活躍しているとプレイヤーも当然変わってきますよね。

奥村:SPOONさんなんかは違っていて、自分の作ったコンテンツを一方的に流すんではなくて、そこにチャットを通じてリスナーとやりとりしているんですよね。ポッドキャストだとかradikoはそれが出来ない。SPOONは同じ音声コンテンツだけども、リスナーとリアルタイムでコミュニケーションができるというのは新しいですね。

速水:この番組でも Twitter なんかでリスナーの方に参加してもらいながらやっているんです。僕も「ニュースを皆さんにお伝えする」とは思っていなくて、一緒に議論をする題材を作るんだという気持ちでやっています。ただ、じゃあネットでやった方がむしろというようにどんどんライバルが出てきて、抜かれていく可能性があるなという気もするんですが、ちょっとおもしろいメッセージが来ているので読みたいと思います「ラジオの今後大変気になります。個人的には、バリューは高いけど庶民的な感じがラジオです。例えばラジオを聴きながら Twitter にコメントを送るのは一体感がありますし、公開放送でのパーソナリティやリスナーとの交流はかけがえのないものです。そしてテレビとは違って長寿番組が多い」というメッセージを頂いています。音声コンテンツもポッドキャストなんて今すごい増えていますし、人気番組なんて地上波を超えているものもたくさんある中で、「長寿番組が多い」って、まあオールドメディアなんですよということ。それが価値になっているところが、皮肉を踏まえてのメッセージだなという気がするんですが、時間も迫ってきまして、最後にラジオが勝ち抜くためのアドバイスがあればいただけますでしょうか。

奥村:そうですね今のラジオってリスナーさんもコンテンツだと思うんですよ。ですので、パーソナリティとリスナーさんの立ち位置が同じになるような、対等に話ができる、一緒に話ししていくようなことだったり、あるいはリスナーさんだけで作るラジオ番組みたいなものがあったりとか、これまでの資産を大事にしながらも、もっとリスナーさんが活躍できるような番組、仕組みを作っていくといいんじゃないかなと私は思いますね。

速水:YouTubeなんかみてても、そこで活躍している人達ってやっぱりテレビなんかとは目線が違うんですよね。その辺も非常にヒントになるなと思いました。今日はフロントラインプレスの奥村倫弘さんにお話を伺いました。