水中考古学

2020年7月20日Slow News Report



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速水:Slow News Report今日はフロントラインプレスの記者 伊澤理江さんです。よろしくお願いします。今日リポートして頂けるのが「水中考古学」というテーマです。海の底に沈んだ古代の町であるとか沈没船。そういうことをめぐるお話ということなんですが、水中考古学を取材しようと思ったきっかけはどういうことだったのでしょうか。


海に沈んだ都市

伊澤:高知県に古くから伝わる黒田郡伝説ということを聞いたのがきっかけなんです。黒田郡という集落が684年の白鳳地震で沈んでしまったという伝承があるんです。日本書紀にも白鳳地震で土佐の国の田んぼや畑が海に沈んだという記述が確かにあるんですね。さらに地元の漁師さんたちの証言も郷土資料に残っていて、船の上から井戸が見えた、道が見えた、海の底に道標がある。そういった表現も残っていて、この話を聞いた時に、各地の海にどんな歴史が眠っているんだろうということに想像力を掻き立てられまして興味を持ちました。

速水:なるほど。漁師さんに伝わる伝説みたいなことと、日本書紀みたいな資料と伝説の間ぐらいの話というところ、これ本当にあったであろう場所が海の底にあるんだということですよね。実際に伊澤さんが担当されているヤフーニュースの特集記事、これ皆さんぜひチェックしてみて欲しいんですが、色んな写真があります。
https://news.yahoo.co.jp/feature/1155
例えば海底に沈んだお宝であるとか、都市ですね。

伊澤:エジプトのアレクサンドリアで発見されたスフィンクス像がヤフーニュース特集の記事にも出ているんですけれども、スフィンクス像が海の底に沈んでいるのが発見されたりですとか、古代女王クレオパトラの宮殿など数々の遺跡が発見されています。アレクサンドリアは5世紀頃の地震で沈んで、1500年の時を経て20年ほど前にヨーロッパのチームが発見しています。

速水:じゃあまさに黒田郡の話と同じような時代の話なんですね。

伊澤:そうですね。あともう一つジャマイカのポートロイヤルの遺跡についても少し触れたいんですけれども、300年以上前の地震と津波で街の2/3、およそ14万平方メートルが水没したという町があるんです。これが17世紀のカリブの海賊の拠点でもあった場所で、水深わずか4メートルの所に残っていたんです。

速水:4メートルだったら素潜りでもいける範疇に都市が沈んでいるのが見えてしまうということですよね。

伊澤:実際にはほとんど砂に埋もれているので、街の様子がそのまま見えるわけではないんですけれども、かぶっている砂をどかして調査をしていくと、商店街だとか街の様子が分かってくる。そして2階建ての建物の中に靴屋、居酒屋、タバコ屋が入っている、今で言うテナントのようなものが見つかったりしています。

速水:ショッピングモールだったんですね。

伊澤:そうですね。カリブの海賊たちのショッピングモールです。


日本でも元寇船が海中から発見される

速水:すでに世界では、こういう水没した遺跡を考古学として調査する流れがあるということなんですが、日本は周りが全部海なのでいろんなものが沈んでいると思うんですけど、日本でこういうことってありえるんでしょうか。

伊澤:日本は木造家屋が中心なので、フナクイムシが木できたものを食べてしまうんですね。なのでほとんど残っていません。ただ早い段階で砂に埋まるとフナクイムシの餌食にならないので保存状態がいいんです。

速水:先に埋まっちゃった方がいいんですね。それで発見されたものがあるそうですね。

伊澤:はい。長崎県の離島鷹島沖で、鎌倉時代に九州を襲った元冦船が2011年と2014年に発見されています。

速水:これ非常に大ニュースですよね。

伊澤:陶磁器や錨などいろいろ見つかっているんですけれども、中でもすごいのが“てつはう”です。今でいう手榴弾のようなもので、日本史の教科書にも出てくる有名な絵巻物 蒙古襲来絵詞を見ると出てくるんですけれども、モンゴル軍が投げたてつはうが炸裂して馬が驚いている様子が描かれています。それまで現物が見つかっていなくて、ほとんど記録は残っていないので、目くらましだとか光とか音で驚かせて威嚇のようなものだと信じられていたんです。けれども、この元冦船からてつはうが見つかり、中を調べると鉄くずのようなものが見つかりました。つまり、目くらましではなく実は殺傷能力のあるものだったということがわかりました。こういうように、定説が覆される、それが水中考古学の奥深さであり面白さではないかと思っています。


日本の勝浦沖に沈む沈没船

速水:伊澤さんは日本では数少ない水中考古学者を実際に取材しているんですが、どういう方なんでしょうか。

伊澤:井上たかひこさんという方です。この方は難破船を探してみたいという子供の頃からの夢を諦めきれずに、40代で仕事を辞めてアメリカの大学院に留学します。水中考古学の権威の方がアメリカにいるんですけれども、その方の元で学びました。でも井上さんは決して英語が得意だったわけではなくて、行ってからものすごく苦労されていて、落第点を取って“もう日本へ帰れ”なんて言われたりしながら、それでも頑張って勉強を続けて、各地の海に潜って海底調査を続けたような方です。先程のお話で出てきた、ポートロイヤルの調査も井上さんが関わっています。

速水:ちなみに井上さん今お幾つなんでしょうか。

伊澤:40代で脱サラしているんですけれども、これが30年以上前の話なので、今は70代ぐらいになられているかと思います。井上さんが留学中にルームメイトから、日本にはハーマン号というアメリカの蒸気船が沈んでいるという話を聞くんですね、そのルームメイトが読んでいた本に1869年に横浜を出港した後沈没した船があり、沈んだ場所は分かっていないと書いてありました。この情報だけを頼りに、井上さんは日本に帰国後ハーマン号探しの旅に出ます。

速水:シュリーマンが伝説に書いてあることを真に受けて調べたら、本当にトロイの遺跡がありましたという、まさにそんな世界ですよね。幕末の蒸気船がどこか日本の近海に沈んでいるという記述。それを頼りに井上さんは実際にハーマン号探しの旅に出るわけなんですけれども、本当にこれ水中版のインディジョーンズですよね。

井上たかひこさんのお話
その海底一帯には、沈没船を探すには邪魔なくらいに丈の長い海草がジャングルのように生い茂っていました。そのジャングルをかき分けながら海底に降り立つわけですけれども、そうしましたら仲間の潜水会社のオーナーがこっちへ来いと合図を送ってくれたんですね。それで近づいてみますと、赤茶色に錆びた高さ60cmほどのゴツゴツとした金属棒が海底からまっすぐに突き出すように立っていたんですね。これを見た時にまさにワオ!という感じで思わずガッツポーズをしたことを覚えていますね。驚きと興奮というか、鳥肌が立つくらいの感じでした。これはもうまさしくハーマン号の残骸の一部に違いないということを確信したわけですね 。

速水:ハーマン号の残骸を発見したという水中考古学者井上たかひこさんの声をお聞きいただきましたが 、1869年明治維新の直後の時代、横浜を出港した後沈没したが沈んだ場所はわかっていない、そんな船を井上さんは特定したわけですよね。

伊澤:そうですね。当時のニューヨークタイムズの記事に、沈没場所は横浜港から140 km 離れた”かわづ”ということが書かれていたんです。静岡県の河津が真っ先に浮かんだんですけれども、それだと遠すぎて距離が合わないと困っていたところに、井上さんのご家族が船会社で働いているのですが、千葉県の勝浦市にも川津があるということを教えてくれたんです。それで井上さんは勝浦市の図書館に行きました。図書館司書に明治の初めの頃に沈んだ難破船を調べていると、おそらく資料を求めて言ったんだと思うんですけれども、そうするとその司書が近くでアメリカ船が沈んだという噂を聞いたことがあると言うんですね。それを聞いて今度は海に一番詳しい人の所ということで漁師さんのところ、漁協に向かいます。そこで漁師さんから返ってきた答えが、海底に太い鉄の棒のようなものが何本もつき出ている箇所があって漁の邪魔なんだと言うんです。

速水:地元の漁師さんは何かがあることを知っていたわけですね。まさにそれを先ほどの井上さんのお話のように、60cm くらいの金属棒が海底からまっすぐ突き出すように立っていたのを見つけて、これが間違いないと確信に至るという、すごいドラマチックですよね。

伊澤:ハーマン号は戊辰戦争の頃に新政府軍が横浜で借り上げて、熊本藩士と米国人船員を乗せて津軽藩の援護に向かう途中で沈没してそのままになっていた船なんですね。その後の調査でハーマン号から洋食器が見つかりまして、お皿の裏に書かれている窯印を調べたところ、お皿が製作されていた期間とハーマン号の活動時期がほぼ一致するだろうということがわかったんです。先ほど日本人と米国人両方が乗っていた船だと申し上げましたが、他にも和製の土瓶やそばちょこ片も見つかっているんです。

速水:そういうものは木じゃないからフナクイムシに食われないで残るんですね。

伊澤:そうなんです。それらも幕末から明治期にかけてのものだとわかり、ハーマン号の沈没時期とも矛盾しない。こうやって一つ一つ発見したものからファクトを積み上げていって、これがあのハーマン号だと確信するに至ったわけです。


日本の水中考古学は遅れている

速水:なるほど。エビデンスを積み重ねていくところなんかも非常に面白いんですが、これは井上さんが個人で一人で追いかけているということはないですよね。

伊澤:井上さんがアメリカから帰ってきたのが確か1991年で、これを発見するまでに7年かかって、98年に見つかっています。その後何人かでチームを作って調査をしているんですけれども、自ら費用を負担して調査活動をしているんですね。

速水:お金持ちなんですか!?

伊澤:お金持ちかどうかは分からないですけれども(笑)、講演会をして資金を集めたりですとか、寄付を募ったりですとか、費用を貯めては潜って調査をするというように、地道な調査活動を長いことやっていらっしゃって、98年にこれを見つけて、今でもこの調査を続けていらっしゃるんですね。文化庁から文化財と公的に認められると、ある程度まとまった額の支援が得られるそうなんですが、今の井上さんのように、調査をしている段階からの支援というのはなかなか難しいようです。今、文化財と認めてもらうべく報告書にこれからまとめていくところだと伺っています。

速水:水中考古学の本場はアメリカやヨーロッパだそうですが、日本とは状況がずいぶん違うんでしょうか。

伊澤:そうですね。やはり欧米が進んでいて、アメリカ、フランス、イギリス、オーストラリア、それから北欧だと学べる場所がすごく多いと聞いています。

速水:北欧もバイキングとか、歴史的にも海にも囲まれた場所なので、非常に海洋に関する調査に関する関心高そうですよね。

伊澤:アジアでは韓国と中国がリードしています。国家プロジェクトで動く支援体制があり、資金も潤沢で、研究者はお金をもらいながら研究できる環境が整っています。

速水:日本の水中考古学は、まだまだ研究機関や研究者は多くないということですか。

伊澤:そうですね。研究者も研究機関も非常に限られています。なぜ中国と韓国で進んでいるのかというと、1970年に中国や韓国では歴史的な大発見があって、世論が盛り上がったんですね。まずそれが背景としてあります。貿易船が沈んでいるのが発見されて、そのままの状態で積荷も見つかっているので、当時の暮らしが手に取るように分かる。南海貿易とか東アジア交易の広がりを解明する上でも大きな手がかりになっています。また、中国なんですけれども、かつてトレジャーハンターがオランダ東インド会社の貿易船を発見して、そこに中国の非常に良い陶磁器がたくさんあったんですね。それをアムステルダムでオークションにかけて売ってしまったということがあったんです。それに中国が大きな衝撃を受けまして、これはもう国を挙げて自前でやらなければいけないとなりました。そういう背景もあります。

速水:なるほど日本の場合は木の文化、紙の文化というところで、出てくるものの質みたいなところでいうと、やっぱり腐ってんじゃないか、フナクイムシに食われているんじゃないかというところもありますが、一回出てきて大きく調査が進んだりするのであれば、これは非常に価値があることなわけですよね。

伊澤:はいそう思います。元寇船が発見されたのを機に文化庁もようやく重い腰を上げたところです。井上さんのハーマン号の大発見もありますので、今後この分野が発展していって欲しいなと期待するところでもあります。

速水:ツイッターなんかでもすごく反響がきていますが、日本人はすごい好きな話だと思うんですよね。ドラえもんにも海底鬼岩城という話もありますし、宮崎駿の映画ではだいたい海に沈んだ都市が出てくるじゃないですか。これは観光資源としてもおそらく使えるし、ダイバーの方にとってみても本当に夢のある話だなと思いました。フロントラインプレスの伊澤理江さんのリポートでした。伊澤さんありがとうございました 。

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