鎖国と在日外国人差別

2020年7月16日Slow News Report



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速水:Slow News Report今夜はカリン西村さんによるリポートです。テーマは「鎖国と在日外国人差別」。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、多くの国で一時的なロックダウンが実施されました。日本はロックダウンはしないということで、“自粛”という形になりました。ただ、これは中の話であり、外から見た場合は完全な鎖国をしている状況で、2月から中国をはじめ、外国からの入国制限を次々と厳しくし、現時点での入国拒否の対象は129カ国地域にまで拡大しています。これは水際対策といわれるもので、世界的に移動の制限が行われている中ではあるんですが、実はこれによって日本に住んでいる多くの外国人の方々が困っていることがあるということなんです。


日本に帰れない日本在住外国人

西村:新型コロナウィルス感染拡大を防止するために水際対策の措置は必要なことで、それは重要な柱であると私も思っています。日本では入国の制限対象が約120カ国ということで、極めて多いんですね。4月から外国人はほぼ日本に入国できない状況が続いています。海外の感染者は日本に比べて多かったので、確かに必要なことであるのは理解できます。ただ、“外国人”が全員一緒であるというのが問題だと思っています。外国人にはまず海外に住んでいる外国人がいますね。でも日本に住んでいる外国人もいます。それを今のルールは区別しないんです。一時的に観光客として日本に来る人の入国を拒否するのは当然です。ただ、例えば制限の前、あるいはその後に何らかの理由で海外に行った日本在住外国人は日本にある自分の家に戻れないということが問題なんです。

速水:カリンさんは生活の基盤を日本においていて、家族と日本に住んでいますよね。もちろん仕事も今日本が中心ですけど、フランスは祖国なわけじゃないですか。そこに帰ることはできるけど、戻って来れないということなんですよね。

西村:そうですね。私には息子が二人いますが、二人とも日本国籍です。もし3人で一週間プライベートな理由でフランスに行って日本に戻る時に、息子は日本のパスポートを持った日本人なので入国できますが、私は全く同じ渡航歴であっても、日本に住んでいても外国人だから戻れないわけです。

速水:なるほど。感染を広げないために外国からの観光客の入国を制限するのと、今の話はちょっと条件が違うわけですよね。カリンさんのように日本に住んでいて、税金も日本に毎年を責めているし、日常的に仕事もしている、生活の基盤が完全にこちらにある。そして息子さんは日本の国籍を持っている。この場合、カリンさんは日本の長期滞在外国人ということになるわけですよね。そういう人と観光客を同じ扱いにしてしまっているのが問題ということですね。

西村:そうですね。判断基準はどこに住んでいるか、生活基盤はどこにあるか、税金はどこに払っているかということではなく、国籍なんです。だから1度日本から離れたら、日本人だと戻れますが、外国人だと永住者であっても特別な事情がない限り戻れないんです。


親族の臨終に立ち会えないことも

速水:何かしら例外なんかはあるんでしょうか。

西村:例外はありますが、非常に限られています。四つのケースがあります。一つは、例えばお母さん、お父さんが亡くなってお葬式に参加する。その場合は戻れますが手続き、証明しないといけないです。2番目の例は、危篤の場合です。三つ目は出産のため。四つ目は裁判で出頭しないといけない場合。その四つのケースでは再入国は認められます。それ以外は永住者であっても原則として認められません。

速水:これは父親母親の場合ですが、おばあちゃんが亡くなった場合はどうなるのでしょうか。

西村:実際にそういう例がありましたが認められませんでした。96歳のおばあちゃんが亡くなったので手続きをしたら、親ではないから今回は認められないという答えが来ました。

速水:一親等の両親でも、例えばちょっとした病気でお見舞いに行くのではダメなわけですよね。

西村:駄目ですね。

速水:危篤になって家族を呼んでくださいみたいな状況まで証明しないと、再入国は認められないんですか。

西村:どうやって手続きをするのかというと、基本的にはそれぞれの国の大使館が手伝いをしてくれるんですけれども、それでもやっぱり手続きは手間がかかるし、しかも答えがくるまで数週間はかかりますね。だから答えを待たずに出国する人もいますが、それは非常にリスキーで不安ですよね。

速水:再入国の直前に「あなたは入る資格がないですよ」と言われる可能性があるまま行ってしまうというケースがあるわけですね。

西村:そうですね。やっぱり日本に住んでいる外国人は、日本の方が安全だと思っているので、簡単に海外に行くわけではないんです。どうしても行かなければならない理由があるとなったときに、それを全部証明しないといけないのは、プライバシーの問題もあるし、手間がかかるのも非常に大きい問題です。

速水:先ほどの四つの条件のうち、両親が危篤というのも特例措置の理由なわけですけど、そこってプライバシーの領域に関わりますよね。身内の病状をここまであからさまに報告しないと再入国が許可にならないというのは、家族と死に際に会う権利みたいなものってもっと自明なもので認められるべきものですが、それを証明しなきゃいけないという矛盾を抱えているなと思いますね。一通メールを読みたいと思います「海外で暮らす弟が今年日本の免許更新ですが、無事日本に入国できるのか、免許の更新ができるのか、今どうしたらいいか悩んでいます」この方の場合は弟さんが日本国籍を持っていて海外で暮らしている。この場合は…

西村:大丈夫です。日本の制度は日本の国籍を持つ人は制限できない。だから基本的に問題なく入国はできます。 PCR 検査などいくつかの条件がありますけれども、拒否はされません。

速水:PCR 検査をして2週間、公共交通機関を使わないという条件がありますよね。フランスを含め、他の国だと再入国の制限ってあるんでしょうか。


国籍を持つ国が必ずしも自国ではない

西村:フランス在住外国人の場合は、フランス人と同じような扱いです。EU 全ての国もそうです。判断基準は日本と違って国籍ではなく、普段はどこに住んでいるか、どこで税金を払っているか、普段の生活基盤を見て判断します。

速水:自分の国という考え方がある中で、日本は国籍主義、国籍を持っている人が日本人であり、自分の国を日本であると考える方式をとっていますが、生まれた国と、国籍を持っている国と、自分が今生活の基盤がある国、全部自国じゃないかという考え方もあるわけですよね。そっちの方がヨーロッパなんかでは当たり前ですよね。

西村:そうですね。例えば20年、30年あるいは40年どこかに住んでいる場合は自国になるというのは一般的です。家族を持っているかとかいろんな条件があるんですけれども、必ずしも自国は国籍を持っている国であるということではありません。

速水:カリンさんの場合は、国籍はフランスですけれども、息子さん達は日本ですよね。一緒に暮らしている家族が国籍は違うけど、生活の基盤がある国は日本である。そういう人達って今いっぱいいるわけじゃないですか。

西村:たくさんいますし、増えていますね。国際結婚が増えていますので、子供は22歳までに二重国籍を持つ子供も多いですね。

速水:カリンさんの周りにも再入国できないから海外に行けなくて困っているという人はいますか。

西村:たくさんいます。例えば、ある方は、娘さんがパリの大学に行くことになりまして、アパートを探さないといけない。元々は家族で現地に行ってその準備をして、家族が日本に戻る予定だったんですが、結局お母さんと長女だけにフランスに行くことになりました。お母さんはフランス人だから戻れない可能性がある、でも娘さんは一人で行ってアパートを探すことはできないなので、仕方がなくて家族を分けてお母さんだけが行くということもあったり、またもう一つの例では、ビジネスマンですが、1月にフランスに行って、今も戻れない状況です。永住権を持っていない人なので、ビジネスのビザしか持っていない。自分の会社は今もう非常に厳しい状況になってしまって、四人の日本人の社員は仕事を失うかもしれない。社長はフランスにいるから日本で仕事が出来なくなって、もう会社は破綻してもおかしくない状況になりました。

速水: 2日前くらいに日経新聞なんかでもそういう状況に対して声が上がっているという記事がありましたが、こういう問題は把握されてきているんですか。

西村:外務省とかの方では把握されていないと思われますが、でも少しずつ緩和されるとは思いますが、ただこれから誰がどの条件で再入国ができるかまだ決まっていない状況です。大きく突然変わるというのはないと思います。

速水:海外との行き来を非常に制限しているの中で、例えば空港での PCR 検査を義務付けているんですが、入国を解禁してみんな再入国できるようにとなった時に、検疫のシステムがパンクしてしまうんじゃないかみたいなことを考えると、一部エリアからちょっとずつ再入国の緩和をして行くみたいなことは考えられますよね。


入国制限緩和のビジネス優先に疑問

西村:そうですね。ただ問題はどの順番で誰を優先するか。例えばベトナムのビジネスマンは入国はできますね。つまり彼らは日本に住んでいない、生活基盤はないけれども行ったり来たりはできますね。再入国ではないけど優先された。

速水:富裕層のプライベートジェットによる入国を緩和しようとしていますが、あれも再入国ということではなく、入国の緩和という意味ではちょっとやる順番が違うんじゃないかという気もしますね。

西村:ちょっと違和感がありますね。ビジネスを優先していることは明らかですが、まずは人間の生活。苦しい状況になった人をまず優先すべきではないかと私は思っています。例えば一時的に母国に帰った留学生が日本に戻れないという状況があります。学費を払っているのに大学に行けないし、バイトも失った。彼らはおそらく諦めますよね。日本で勉強するのが夢でそれを実現できたのに、突然全部失ってしまうのはとても残念なことだと思います。

速水:これは昨日の技能実習生の話と重なるところがありますね。日本の国際音痴みたいなところが、ただの音痴ではもう済まされなくなっている部分もあると思うんです。“自分の国”というものの考え方みたいなところを更新していく機会かもしれません。今日は「鎖国と在住外国人差別」についてカリン西村さんにお話伺いました。ありがとうございました 。