不発弾の処理をめぐる問題

2020年7月6日Slow News Report



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いまも日本で年間1400件の不発弾処理が行われている。

速水:新型コロナウイルス以降、僕らは突然日常が日常じゃなくなることを経験していますが、実はウイルス以外にも突然そういうことが起こることがあります。Slow News Report今日は日本国内で年間1400件も起きているという不発弾処理の問題についてリポートをお届けします。年間1400件ということは、単純計算で1日あたり3件以上、つまり今日もどこかで起きているかもしれないという話なんです。今日お話を伺うのは沖縄在住のジャーナリスト当銘寿夫さんです。年間1400件というのはちょっと意外に感じたんですが、こんなに起こっているものなんですか。

当銘:そうですね。昨年度は1441件、一昨年度も1480件という件数の不発弾処理が行われています。

速水:去年の9月、東京都の江東区で不発弾が見つかる発見されるということがあったそうですが、こちらも取材されているそうですね。

当銘:昨年の4月6月7月に有明テニスの森のすぐそばのマンション建設工事現場で、たて続けに一つの工事現場から3発の不発弾が見つかりました。

速水:湾岸の埋立地にあたる場所、今タワーマンションなんかがどんどん建って、オリンピックの施設なんかもできている辺りですよね。

当銘:そうです。不発弾が見つかった場所を中心に100 m近い距離を立ち入り禁止区域に設定されて、そこに住んでいる人であったり、そこでお仕事をしている人たちに安全のために離れていただいて、自衛隊の方々が不発弾の信管を抜くという、爆発がしないような処理をして、現場から持っていくというのが一連の作業になります。

速水:住民が避難している中、取材はどういう場所で行ったんですか。

当銘:江東区が近くの小学校を借りて、小学校の建物の中に対策本部というものを設置するんですけれども、対策本部も当然この不発弾処理を行う現場からは100 m以上離れた場所に設置されていました。そこで現場との無線のやり取りなんか横で聞きながら、「今から作業に入ります」とか、そういう緊迫した状況を現場の声を聞きながら、対策本部の中で処理が進んでいくのを見守っていたという形になります。

速水:こちらは自衛隊が扱ったという話ですが、これは不発弾処理の専門の部署というものがあるんでしょうか。

当銘:そうですね。それぞれ陸上自衛隊の大きな部署の中に不発弾の処理を専門とする部隊がありまして、その江東区の処理の時には、東部方面の後方支援隊第102不発弾処理隊という、埼玉県の朝霞駐屯地にいる部隊でした。不発弾が見つかるたびに当該の自治体と協議をして、いつ処理をしましょうというふうに決めて、不発弾が見つかった場所に行って処理をしていくというような対応をとっています。

速水:無線のやり取りを聞いていたという話ですが、緊張感ありますよね。

当銘:処理が終わった後、報道陣向けに今回見つかった不発弾を吊り上げて運び去っていくというところを公開していたのですが、大きい不発弾が2つで釣り上げられていて、これがもしまかり間違ってこんな有明のど真ん中で爆発してたらと思うと、すごく恐怖感を覚えるところがありましたね。


不発弾の半分は沖縄にある

速水:不発弾というのは、太平洋戦争の時に空襲を受けでそこで落ちたけど爆発しなかったものだと思うんですが、東京に多いということはあるんでしょうか。

当銘:空襲があった地域であったり、艦砲射撃といって船の上から陸地に向かって砲弾が撃たれたり、地上戦が始まる前にそこに爆弾が落とされたりというようなことがあるので、東京以外でも全国各地で見つかったりしています。

速水:リスナーからのメッセージを読んでみたいと思います。「割と近くに戦時中飛行機を作っていた工場跡があり、少し前まで不発弾は見つかっていました。『処理します』『避難してください』」無事撤去できました』みたいな感じで何ともなく終わるのですが、その当時の防空壕の跡を使ってうどを作っていますよ」というメッセージです。確かに兵器なんかを作っていた軍事工場が爆撃の目標になりますよね。この方はどこに住んでいるかはわからないんですが、東京に限らずという話ってまさにそういうことなのかなと思いました。当銘さんが住んでいる沖縄では日常的にあるという話もメッセージで頂いています。「 沖縄だと不発弾が出るのは普通のことでは?沖縄のラジオ局の今日のお便りテーマが“不発弾”の時、若いアナウンサーが実家の改築工事の際、不発弾が出てきたと話していました」というメッセージもいただいているんですが、東京は東京大空襲なんかがあって多かったんじゃないかと思っていたんですが、実際の数字を見ると沖縄が非常に多いそうですね。

当銘:年によっても前後するんですけれども、沖縄が大体全国の4~5割の処理件数で推移しています。なので全国の国土面積の0.6%くらいの沖縄に、ほぼ半分近くの不発弾が見つかっているという状況がずっと続いています。

速水:当銘さんは沖縄に住んでいますが、日常的に近所で不発弾が見つかったみたいなことって現実にあるんですか。

当銘:住民の避難を伴う不発弾処理の場合には地元紙に、「今度の日曜日に不発弾処理が行われます」というような記事が載るんですけれども、それがほぼ毎週末と言っても言い過ぎではないくらいの頻度です。実際に調べてみたんですけれども、私が住んでいる那覇市では今年に入って6件の不発弾処理が行われていたので、そう考えると那覇市だけでも一か月に1件住民の避難を伴う不発弾処理が行われていたということになります。

速水:沖縄に多いのはもちろん上陸作戦が行われた場所であるということだと思うんですが、75年も経っていて、まだあるんですかね。

当銘:沖縄で起きた戦争で本島内に約20万トンの爆弾が落とされ、そのうちの5%が不発弾として爆発せずに落ちた状態になっていると言われています。20万トンの5%が1万 トン なんですけれども、沖縄は戦争が終わって日本に復帰して以降もずっと不発弾処理は続いてきています。それでも今なお2000トン弱が沖縄本島内にあるんじゃないかと言われていて、直近のペースで不発弾を処理続けていっても、全部なくすにはもう75~80年くらいかかるんじゃないかと言われています。

速水:先ほどのケースは江東区のマンション建設現場、メッセージ頂いた方は家の改築工事の際に出てきたという話なんですが、沖縄でもマンションの建設であるとか新しい施設の建設のタイミングで出てくるというケースがやっぱり多いんですか。

当銘:そうですね。新築の際に不発弾の探査をして出てくるというケースもありますし、30~40年前の建物を取り壊して新しく何かを建てようという時に、改めて不発弾探査をしたらありましたと。つまり不発弾が眠る土地の上に建物が建っていましたというケースが非常に多くて、県立高校の建て替え工事をやろうとしたら、何回も何回も校舎があった場所から不発弾が出てきたという事例は沖縄ではよくある話です。

速水:後半も引き続きお話をお伺いするんですが、後半は「もし自分が不発弾処理の当事者になってしまったら?」というテーマです。


不発弾処理は誰の責任?

【大阪市で不発弾処理費用について大阪市と争った上枝さんのコメント】
『所有者に負担を求めたらそれでいいんだというような形になってしまうのが、払える場合はいいけれども、払えない方も当然いらっしゃることを想定して、例えば裏の畑を耕していたら何か(不発弾が)出てきたとかそういうことも当然あり得ます。そんなに一般的ではないけれども、降りかかってきた人にとっては100%です。でもそんなことは話し合いをすれば十分に解決できたと思うんです。大阪市は全部そういう話し合いを拒否して、とにかく払いの一点張りだったんです。これって行政としておかしいんじゃないかという気持ちがすごくありました。3回目の会談の時には弁護士さんも入ってくださって、払わないと言ってたんですけども、その3回目の話し合いの中で言い合いになってしまって、建設的な話がとてもできないなという状況になってしまって、もうそれだったら仕方がないから僕はお金がないけれども、退職金のつもりで積み立ててある保険があるから、いくつかの保険を全部解約したらなんとかなると思うから払いますと。』


速水:いまお聞きいただいたのは処理費用をめぐる問題なのかなと思うんですが、どういった内容なのか解説をいただいてもいいでしょうか。

当銘:今お話を聞いていただいたのが上枝さんという、滋賀県に住む男性の方の声なんですけれども、大阪市にある土地でマンション建設工事をしていたら不発弾が見つかりまして、その不発弾を処理するという段階になって自治体から処理の費用の請求を受けたという男性に取材をした時の音声です。

速水:処理の費用は土地の所有者が払うことになっているんですか。

当銘:実はびっくりする話なんですけれども、今年の8月で戦争が終わって75年という節目を迎えるのに、日本には不発弾を処理することに関する法律というのがないんです。そのために、今の方のような話になっています。

速水:ということは民間の一市民がこれ負担しているんですか。

当銘:そうですね。上枝さんの場合は、処理にかかる警備の費用とかですね、そういったものを自治体から請求を受けています。実際に信管を抜く作業を自衛隊がやる分に関しては、国が個人に請求をするということはないんですけれども、その作業に付随する、土のうを設置するとか、防護壁を設置するとか、そういう設置費用なんかを地主の方に請求するというようなことが起きました。

速水:これは大阪だけの問題ではないんですよね。

当銘:そうですね。先ほど申し上げたように、法律でどこが費用を負担しなさいと決められていないものですから、自治体間でバラバラで、神戸市や名古屋市なんかでも土地の所有者に負担を求めていたというケースがあったようです。

速水:ちなみにこれをいくらくらいなものなんでしょうか。

当銘:上枝さんの場合、大阪市から請求されたのは5,762,760円という相当な高額です。

速水:…これちょっと個人が負担できる額ではないですよね。こういうことが各地で起こっているわけですよね。これ払えないと思うんですけれども…

当銘:そうですね。払えない人に対して、じゃあどうするんだろうというのは、法律が整備されてないが故の問題点としてずっと今も根強く残っています。


不発弾処理の法整備を

速水:そもそも不発弾がそこに埋まっているのは、国が戦争をやったからなわけですよね。個人が負担するというのは、どう考えても理不尽だなと思いますよね。

当銘:自治体によって個人が負担したり、あるいは自治体が住民の安全のための費用だということで自治体が全てを負担したり、バラバラに分かれているんですけれども、もし個人に負担を求めるようなことが定着してしまうと、自分の土地を掘り返した時に不発弾が見つても警察や自衛隊に申告するのか、というような問題が生じてしまいます。ですので、そういう意味でもきちんとどこが負担すべきだと明記する法律が求められるという気がします。

速水:500万請求されるんだということを知った上で、たまたま見つけてしまったら、そっと埋めますよね。それは非常に危険なことを放置する可能性が生じているということですよね。

当銘:沖縄に限らずなんですけれども、全国のどこかで年間1400件の不発弾が見つかって処理をされているわけですから、法律がないことによって地主さんが負担したり自治体が負担したりとバラバラの状況というのはやっぱり良くないと思います。今年戦後75年という節目を迎えるので、何で不発弾が眠っているのかというところの責任にもう1回立ち返って、国が起こした戦争でこういう不発弾というものが生じているんだという、正面から向き合った法律の整備というのが必要じゃないかなと思います。

速水:メッセージ頂いていますが、「75年前の爆弾、爆発するんでしょうか」という質問です。信管を外す作業を失敗するとどっかーんという可能性もあるわけですか。

当銘:信管を外す作業を失敗して爆発した事例というのは、私が知る限りではないと思うんですけれども、ただ不発弾に関してプロの自衛隊の方々が、周囲何百メートルの住民を避難させて、防護壁を作って、その中で処理隊の方々がかなり緊張感を持った状態で信管を抜いていくというような作業をやっているのを考えると、75年経った爆弾が全く爆発しないというようなことは無いと思います。沖縄の事例なんですけれども、2009年に水道管を敷設する工事のためにショベルカーを使っていて、パワーショベルの先が地中にある不発弾に当たってしまってその場で爆発して、重機を運転していた男性が失明してしまうという事故がつい10年くらい前にも起きています。

速水:最後にひとつメッセージを読みたいと思います。「不発弾といえば、福岡久留米にあるシティプラザ建設工事前にここで不発弾が見つかったということがありました。ここは昔は百貨店や商店街があった場所。それまでわからなかったということを考えると恐ろしいです」というメッセージです。2014年の事件ですけれども、そこに何があったのか、そこで日常生活を送っていたという事も恐ろしいし、ここは元々何の場所だったのかと考えることは、歴史と向き合うことでもあるんだなと思いました。当銘さん、どうもありがとうございました。