マンガの超目利きに、おすすめマンガを紹介してもらいます。 東京・千駄木の往来堂書店コミック担当、三木雄大さんが紹介するのは、吉田基已『官能先生』と横嶋じゃのめ『合理的な婚活』の2冊。
海猫沢めろん「今日は2冊ピックアップしていただいたということで、1冊目を・・・」
三木雄大さん「1冊目は講談社から発売された吉田基已(よしだ・もとい)さんの『官能先生』という小説家を主人公にした作品です。主人公は、小説家でもあり編集者として出版社に勤務している鳴海六朗(なるみ・ろくろう)という男性です。」
めろん「これはいつの時代の話ですか?」
三木さん「現代ではないですね。この作品は吉田先生らしいフェチがありまして・・・。
銭湯にいる女性の脇に毛が生えているような時代なんじゃないかと・・・(笑)。そして主人公は縁談を持ちかけられる時期なのですが、そういうのを交わしながら生きる中年男性です。そんな男性がある夏祭りの日に謎の美女との出会いがありまして、すごい鮮烈だったため六郎は美女のことしか考えられなくなるほどの生活になってしまうんですよね。これが導入になっていて、この作品はここからがすごいんですよ。吉田先生の面白いところで、話の転換として六郎に官能小説の執筆依頼がくるんです。その依頼にモヤモヤするも、恋焦がれている美女のことを考えるとペンが走るんですよね。」
めろん「自分の妄想でエロ小説が進んでいくみたいな(笑)」
三木さん「そうなんですよ。ひとつ前の『夏の前日』という作品とも共通するのですが、自分のなかの相手像というものを鮮明にしていきながら、実際の女性とも少しずつ距離を縮めていき、二つの像がどのように重なっていくかというものなんです。」
めろん「創作を通じて現実の彼女にも近づいていったり、心情の変化があったりするんですね。いいですね。」
三木さん「この作品は2巻まで出ているんですが、1巻の23ページで面白いことを言っているんですよね。『今夜僕は恋をしたよ。』というセリフがあって、少しページを進めると、『これから私と雪乃(女性)』の愛について話をしよう。」というセリフもでるんですよ。」
めろん「恋から愛に変わっているんですね。」
三木さん「これがプロローグとして入っていて・・・」
めろん「すばらしい!それは未来から回想している感じなんですか?」
三木さん「そのページでは場面が変わるんです。イブニングという雑誌で連載しているのでぜひ、読んでいただけたらなと思います。」
めろん「では、もう一冊を・・・」
三木さん「もう1冊は、ホーム社から出ている横嶋じゃのめ先生の『合理的な婚活』という作品なんですけれども、サブタイトルが『DINKsを本気で目指すおたくの実録婚活漫画』という・・・」
めろん「DINKsっていうのは、子どもがいない共働きですよね?“目指す”ってことはまだ結婚はしていなくて、子どもをつくらない前提で彼氏を探すということですか?」
三木さん「そうです。でもこれを素でやってしまうと出会えないということから婚活を始めていきます。」
めろん「主人公は女性ですか?」
三木さん「そうですね。婚活アプリを使ったりとイマドキなんですよ。この作品の面白いところは作者自身が婚活をされながら連載をされていて、実録なんですよね。作中で作者が広告系の営業会社に勤めていることが語られていて、働きながら締め切りに追われているという・・・(笑)。なので終わった話ではなく、現在進行形の話なんですよ。」
めろん「じゃあ、婚活は成就しなかったということですか・・・?」
三木さん「これは続編で成就したというところもあるのですが、スピネルというWEBマガジンで『続 合理的な婚活』というタイトルで連載されています。」
めろん「子どもいらないけど結婚したい女性って少なくないと気がするんですけど、むずかしいですかね?」
三木さん「こういうところに出てくる男性側が保守的なので、そういうアプリのほうが向いてるっていうのがイマっぽいですね。去年の秋ごろに出て、続編は現在連載中です。」
めろん「いま、まさにNowですね。」
三木さん「いま付き合っている人がどう良いのか?という部分にも踏み込んでいく、非常に内省的なんですよね。なので恋愛の前に自分を考えさせられる作品ですね。」
めろん「ちなみにこの主人公は何オタクなんですか?」
三木さん「ボーイズラブ大好きですね。これも補助線で、『ボーイズラブ藪の中概論』という作品で“なぜボーイズラブが好きなのか”ということに触れているんですよね。」