有名海洋冒険家にあえて質問「船酔いしない方法は?」

中西哲生がパーソナリティをつとめるTOKYO FMの番組「クロノス」。1月18日(水)の放送には冬休み中の中西に代わって、海洋冒険家の白石康次郎さんがパーソナリティとして登場しました。

白石さんは世界一過酷なヨットレース「Vendée Globe」に参加し、つい先日帰ってきたばかり。この「Vendée Globe」は単独無寄港、誰からも援助を受けず約80日間かけて世界一周を競うもので、今回は昨年12月4日にフランスでスタート。しかし、28日後に船のマストが折れてしまい残念ながらリタイアしました。白石さんの話では、このレースの完走率は50%。今回も29艇が参加し、半分ぐらいが脱落しているそうで、世界で最も過酷というのも頷けます。
そんな「Vendée Globe」を白石さんは30年以上も前から挑戦したいと思っていたそうで、今回は念願叶って初参加(しかも日本人、アジア人として初出場!)。「人類最小単位のたったひとりで大きな地球に挑む、こんなレースないよね。地球一周なんてこれ以上のコースはないよ」とその魅力を語りつつ、「このレースは自分を尽くせるの。人生経験、実力、体力、考え方、全てを尽くして望むものなんですよ。そして、相手は人間じゃなく自然界。人間の作り出したものでない海に挑戦していくのが面白い」と熱弁。さらには世界一過酷なレースながら、怖さよりもむしろ楽しいと白石さん。「一番怖いのは自分で思ったことに挑戦できないこと。何者でもない自分ほど怖いものはないし、それは生きていないんだよ。死をもって初めて生きる喜びが味わえる、生死は表裏一体だからね。(航海中は)常に明日死ぬかもしれない、だから海にいるとものすごく生きてるの。冒険というのは決して命を無駄にすることはなく、自分の人生を燃やすことなんだよね」と熱く語っていました。
これまでも何度か挑戦する機会があったものの、白石さんは「Vendée Globe」への参加を諦めてきたそうです。しかし、それは決してネガティブではなく、ポジティブに捉え「“諦める”って悪い決断ではなく、“明らかに”“見極める”っていう意味なんだよね。投げ出すのとは違う。僕は諦めたことはあるけど、投げ出したことは一度もないからね。諦めるって大切な決断なの。諦めても頑張って、それで今回僕は出られたんだから」と人生経験に裏打ちされた重みのある言葉を残しつつ、さらには「一時撤退もありうるんですよ。逃げるときもある。ただ、自分からは逃げられないよ。それだけはよく考えてほしい。僕は、特に男の子には戦えっていうけれど、勝てとは言わない。戦えばいいの、それで成長していくから」とリスナーにメッセージ。そして、現在奮闘中の受験生に向け「思いっきりやって出た結果は、神のみぞ知るから、それに従えばいい。胸を張って歩きな」と背中を押していました。
今回は無念のリタイアとなってしまった白石さんですが、「まだまだってことだろうね。このレースは一度や二度で勝てるものではなく、みんな何度もリタイアしてる。それも何年も準備をしてね。これでくよくよしているようなら、このレースに出る資格はないんだよね」と今の心境を吐露。リタイアの瞬間はさすがに凹んだようですが、それも過去のこと。「何かあったときに落ち込むのは正常の反応だよ。誰だって笑ってなんかいられないよね。でも、いつまでもくよくよしていない、つとめて笑うの。帰ってきたときに一番難しい仕事は笑うことだったね。でも、それをやるんだよ。リタイアしたことは変わらないんだから。その後は個人の自由選択で、くよくよしているのも前向きに次を見るのも自分次第なんだよね」と話し、その目はすでに次回へと向いています。
まわりには応援してくれる人がたくさんいて、船にはいろいろな人の思いが乗っていると話す白石さん。「Vendée Globe」はひとりきりのレースですが、孤独と思うことはないそうで「僕の船には夢があり、希望がある。そして、よきライバルがいて、港には家族が待っている。孤独って環境で決まらない。友だちがいない、希望がない、夢がないと渋谷の交差点のど真ん中にいても孤独なんだよね。船の上はひとりだけど孤独じゃない、楽しくてしょうがない」とのこと。そして、多くの人の思いを一身に背負う彼はこうも話します、「何回でも挑戦しますよ、完走するまで」と。

また、この日は白石さんが世代を越えて伝えていきたい名曲をセレクトしてくれたのですが、選んだのはジャズ界の巨匠ルイ・アームストロングの曲。なんでも、ヨットの師匠が“向かい風 にっちもいかず サッチモ(ルイ・アームストロングの愛称)を聴く”という川柳を残していたそうで、実際にサッチモの曲を聴いたら元気が出たとか。さらには、「ルイ・アームストロングは、当時人種差別がひどい時代にも彼は一言も黒人運動には参加しなかった。ただ笑顔でいい曲を歌っていたんだよね。マザー・テレサも『私は反戦運動には参加しません。平和運動なら参加します』って言ってて、平和って笑顔でできているんだよ。文句を言っても平和にはならない」と彼の行動に感銘を受けたことを教えてくれました。ちなみに、船の上でもジャズなどをよく聴くそうです。
そんな白石さんには、放送中リスナーからさまざまなメッセージが届きましたが、そのなかでとりわけ盛り上がったのは「船酔いを克服する方法は?」という質問。「Vendée Globe」にも出場する世界的な海洋冒険家ながら、驚くべきことになんと白石さんも船酔いに困っているとか。「僕も船酔いが治りません。2週間は24時間吐いてます。一時期治そうと思ったんですが無理でした(笑)。で、こうなったら楽しく吐いてやろうと思いまして、いろいろなものを吐いたんですが、一番おいしかったのはオレンジジュース。これはおすすめです(笑)。胃の粘液と混じって吐いてもうまいんですよ。なんでも受け入れる、克服しなきゃいいし、楽しめばいいんですよ。楽しく吐きな」と、それまでの熱い話とは裏腹の回答でスタジオを沸かせていました。