ディレクターバブリアン作 短編小説 「 古くなったピアノ 」1

短編小説

  古くなったピアノ
(ディレクターバブリアンが小6の時に書いたもの)

※後半は、東京03が出演していたTBS系 金曜ドラマ「コウノドリ」メインテーマ
清塚信也さんの「Baby, God Bless You」を聴きながら読んで頂けると、イメージにピッタリです。 
byディレクターバブリアン



ピアノの音色がちょっとずれてるな…とエミが気がついたのは、数日前の練習の時だった。
おとといは左手の「ソ」の音、今朝は右手の「ファ」の音がちょっとずれていた。
登校中いつも「ジェットコースター!!」と言いながら風をかき分けながらダッシュする坂道も、
大好きな国語の時間も、休み時間でポコペンをやっている間も・・・
ずっと、家のピアノの事ばかり考えていた。心配だ。
エミの家のピアノは、大好きなおばあちゃんもお母さんも弾いていたピアノで、
家が建て直され新しくなるずっと前から、この家にいてくれている。
2歳くらいから、ポロンポロンと鍵盤を触り始め、幼稚園に入る頃には近所のピアノ教室に通いはじめ、
エミは日に日にこげ茶色をしたこのピアノが大好きになった。
今小学5年生になった今でも毎日欠かさず練習していた。
そんな大切なピアノの音色がおかしい事は、エミにとっては胸がギュっと痛くなることだった。

エミは下校もずっと走り続けて家まで帰った。
嫌な予感は的中した。
エミが飛びこむように家の玄関のドアを開け、靴を脱ぎ散らかして、ピアノの置かれているリビングの前に走っていくと、大人の話声が聞こえてきた。
「ええ、そうなんです。恐らく50年近くは経っているかと…。やはり大きな修理が必要ですよね。」
「はい、やはりこれだけ音がずれていると、調律だけではちょっと難しいかと思います。」
エミは怖くなって廊下に立ちすくんで、話を聞いた。
「そうですか・・・。私がここでピアノ教室をやっていなければ新しく買い替える必要はないと思うんですが。」
「そこですよね、生徒さんが使うピアノとしてだと、この古いピアノではちょっと厳しいかと…。」
「買い替える時期かしら・・・あの子が悲しがるわ。うちの娘が、このピアノが大好きで大好きで。」
エミのお母さんは大きなため息をついた。
廊下で話し聞いていたエミは、それ以上に大きなため息をつき、ため息と一緒にポロポロと大粒の涙を落し、ちょっと開いていたリビングのドアをドンを押し開けた。
「私は絶対にイヤ!このピアノを買い替えるなんてイヤ!修理して下さい。何とか修理して下さい!!」
大粒の涙をこぼしながらこう言い放ち、大雨を降らす雨雲の様に涙をまき散らしながら2階の自分の部屋にまで走った。
部屋に入ると、ベッドに倒れ込み、声をあげて泣いた。
“あのピアノとお別れするなんて…ぜったいに嫌だ・・・。ずっと私と一緒だったのに・・・”
エミはそのまま泣き疲れて眠りに落ちてしまった・・・。


続く→→