宝物のサインです

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今から20年前の話です。
ビートルズが大好きな私は新婚旅行でロンドンとリバプールに行き、ビートルズゆかりの地巡りをしました。

リバプールには「The Beatles Story」というビートルズの博物館があります。
ひととおり見学しロビーに戻ると特別企画でジョン・レノンの最初の妻のシンシアさんの絵画の展覧会をしていました。
「へえ、シンシアって絵を描いてるんや」なんて思いながら見ていると、テーブルにブロンドヘアの女性が座っています。我が目を疑いました。年齢を重ねてはいますが確かにシンシアさんなんです。スタッフらしき人と談笑されていました。
私は震える声で妻に「…シンシアがいる…」と耳打ちしました。それほどビートルズには詳しくない妻に「シンシアって誰?」と聞かれ、ビビりながら「ジョンの最初の奥さんや…」と答えると妻はこう言いました。
「サインもらったらええやん」
「サインって… あのジョンの奥さんやで……」
緊張でビビりまくる私。でも妻に説得され、売店でビートルズ初期の写真のポストカードを買い、勇気を出してシンシアさんに話しかけました。
サインをお願いしたら名前を聞かれました。
名前を言ったのですが、日本語の名前がよくわからなかったようで「What?」と聞きかえされたんです。
そこでアルファベットをひとつひとつ言い、それを書いてもらうことにました。
私の名前には「さ」の文字があります。そこで「S」と言ったんですが聞きとれなかったようで「F」と書かれてしまいました。
「No,no,no! S!」と言い直しましたが、また「F」に聞こえたようで「F」を2回書いてしまいました。
もう私もシンシアさんも大笑い。
結局、そのまま間違ったままのサインをもらいましたが、今となってはそれで良かったと思っています。

シンシアさんは4年前にお亡くなりになりました。
彼女の記憶には変な名前の日本人があったのかもしれません。
今でもその宝物は我が家の玄関に飾っています。

てるれのん

兵庫県 / 男性 2019/2/24 22:33